ユーラシア大陸初の地下鉄、ブダペスト地下鉄
「世界初の地下鉄はどこか」と尋ねると、多くの人が「イギリス・ロンドン」と答えるだろう。一方、「ユーラシア初の地下鉄はどこか」と尋ねると、答えに窮する人がほとんどではないだろうか。答えはハンガリーの首都ブダペストになる。
ブダペスト地下鉄1号線が開業したのは1896(明治29)年。まだハンガリーがオーストリア・ハンガリー帝国統治下にあった頃だ。地下鉄1号線はブダペストの目貫き通りのひとつであるアンドラーシ通りの地下を走る。現在はヴェレシュマルティ広場駅(Vörösmarty tér)からメキシコ通り駅(Mexikói út)までの4.4kmだが、1896年の開業当初はセーチェニ温泉駅までだった。
その後、1973年に現在の姿になり、2002年にユネスコの世界文化遺産に登録された。現在、地下鉄1号線はブダペストの観光名所のひとつになっている。地下鉄1号線の沿線にはハンガリー国立歌劇場、セーチェニ温泉、英雄広場など、ブダペストを代表する観光スポットが目白押し。地下鉄見学と合わせて訪れるといいだろう。
レトロな地下鉄1号線で感じる日本とヨーロッパの違い
筆者は地下鉄2号線、地下鉄3号線、空港バスが乗り入れるデアーク・フェレンツ広場駅(Deák Ferenc tér)から地下鉄1号線に乗車した。
地下鉄に乗るにはまず、券売機で切符を購入しなければならない。券売機の表示は英語に切り替わるため、誰でも簡単に購入できる。日本の券売機とは異なり、クレジットカードが気軽に利用できる設計になっているので便利だ。
筆者は購入時から24時間使用できる24時間乗車券を購入した。金額は1,650フォリント(約680円)。1回乗車券が350フォリントなので、5回乗車すれば元が取れる。
ハンガリーに限らず、ヨーロッパの地下鉄で注意したいのが刻印機。ブダペストにおいては、24時間乗車券は刻印する必要はないが、1回乗車券は切符を刻印機に入れ、日時を刻印しなければならない。切符を刻印しなければ有効な切符にならないのでご注意を。万が一、検札で有効な切符を持っていない場合は多額の罰金を取られる。
ちなみに、ブダペストの主要な地下鉄駅では、刻印機の横に交通局の職員がいることが多い。わからないことがあれば、職員に尋ねてみよう。
ホームに立って驚いたのは、プラットホームの高さが低いことだ。ヨーロッパの地下鉄は日本と同様、プラットホームは高いことが多い。そのため、地下鉄というよりは地下路面電車のようなスタイルになっている。
しばらくすると、黄色の小型車が入線した。「ジー」という音と同時にドアが閉まり、勢いよく加速。連接型の小型車で、小回りが良さそうな印象だった。
車内は日本では見られない独特の座席配置となっている。おそらく、荷物や乗客がスムーズに乗り込めるように配慮されているのだろう。天井付近を見ると革製の吊り革が目に入った。正真正銘の吊り革のおかげで、近代的な車内にいながらレトロな雰囲気も感じさせてくれる。
なお、車内放送はハンガリー語ながら、次の停車駅もきちんと放送する。車内放送を通じて現地の言葉を聞くことも、海外鉄道旅行の楽しみといえる。
早速、隣駅のバイチ・ジリンスキ通り駅(Bajcsy-Zsilinszky út)で下車した。ホームの壁は白タイルになっており、開業時をほうふつとさせる。ホーム上には切符を売るスタッフが常駐するための小屋があった。乗客は小屋にいるスタッフにお金を払い、切符を購入していた。建築物だけでなく、当時に近い切符の購入システムを残していることも、筆者にとっては驚きだった。
地下鉄1号線の駅で忘れてはならないのが地上からの近さ。ハンガリー国立歌劇場の最寄駅、オペラ駅(Opera)で階段の数を測ったが、全部で20段ほどだった。これならば、スーツケースでもなんとか階段を利用してホームに降りることができるだろう。
オペラ駅から終点のメキシコ通り駅(Mexikói út)まで、そのまま乗り通した。6駅あるが駅間距離が短いので、小気味良く終点まで走り抜いた。メキシコ通り駅から地上に上がると、バスとトラムの乗り場がすぐ横にある。
ブダペスト地下鉄に興味を持ったら地下鉄博物館へ
実際にブダペスト地下鉄に乗り、興味を持ったら、地下鉄博物館に立ち寄ることもおすすめしたい。地下鉄博物館はデアーク・フェレンツ広場駅の改札の外にある。少しわかりにくい場所にあるが、刻印機横にいるスタッフに聞けば教えてくれる。
地下鉄博物館には地下鉄1号線で活躍した車両とさまざまな写真が展示されている。19号車両は1896年の開業とともに誕生した。架線は2本になっており、車体はかなり頑丈な印象を受ける。車内は木製ベンチのような座席だった。1号車両は1896年から1973年まで活躍した。展示された車両は晩年の姿を再現しているとのこと。
長寿の車両も多いが、短命の車両もある。81号車両は1960年に登場したが、1973年に引退した。ちなみに、筆者が訪れた日は車内に入ることができなかった。
ブダペストに限らず、海外を訪れたら地下鉄に乗ってほしい。地下鉄はその国、その都市の文化がダイレクトに反映されている。