中欧・東欧の鉄道旅行、第2回はベラルーシの首都ミンスクとウクライナの首都キエフを結ぶ夜行列車を紹介する。日本に限らず、西欧においてもローカルな夜行列車は次々と廃止されているが、東欧ではローカルな夜行列車がしぶとく残っている。旧ソ連の雰囲気を残す夜行列車の旅を存分に味わっていただきたい。
Eチケットで入手できるミンスク~キエフ間の夜行列車
2018年5月現在、ミンスク~キエフ間を結ぶ夜行列車は1日1往復のダイヤで運行されている。旧ソビエト連邦諸国は隣国間で夜行列車が設定されていることが多く、旅行の際に重宝する。かつては駅の窓口で切符を購入したが、現在は国鉄のホームページから予約可能だ。筆者も事前にベラルーシ国鉄から切符を手配した。
ただし、プリントアウトしたEチケットを持ったまま乗車することはできない。乗車前に主要駅の窓口でEチケットを正規の切符と交換する必要がある。とはいっても、Eチケットとパスポートを提示するだけで、簡単に切符を入手できた。
筆者が乗車するキエフ行き086BA列車がミンスク駅を出発するのは22時40分。しかし、事前に車両を観察するため、22時にホームに降り立った。すでにキエフ行きの夜行列車は停車していたが、ドアには鍵がかかっており、中に入ることはできなかった。
筆者が乗車した日は、青色をベースに白帯が引かれたベラルーシ国鉄の車両が使用されていた。上部にはキリール文字で「ミンスク - キエフ」と書かれており、おのずと気分が盛り上がる。先頭の電気機関車は旧チェコスロバキア製のЧС(Chas)4型。赤・緑のベラルーシ国旗を模した塗装になっていた。
しばらくするとドアが開き、改札が始まった。旧ソ連圏の寝台列車は各車両に車掌がいることが多い。車掌に切符とパスポートを提示し、車内へ入っていく。
筆者は「クぺー」と呼ばれる2等寝台を予約した。2等寝台は4人1室の個室で、東京と九州を結んだ寝台特急「みずほ」などに連結された「カルテット」に似た構造だ。小テーブルにはビスケットや飲料水が置かれていたが、これらはすべて有料。たとえば、ジュースは3.95ベラルーシ・ルーブル(約210円)となり、料金は車掌に払う。支払いはベラルーシ・ルーブル、もしくはウクライナの通貨、フリヴニャに限られる。
見上げると、ドアの上部には荷物棚があり、そこには厚手の毛布が置かれていた。毛布が必要な気温ではなかったが、急激な冷え込みがあっても心配ない。荷物棚の下には照明のスイッチやコンセントがあった。トイレ灯も設置されており、車内のトイレの状況も部屋にいながら把握できるようになっている。
次にトイレ・洗面台をチェックした。かつての旧ソ連圏の車両トイレはお世辞にもきれいではなかったが、現在の車両はそのイメージを一新している。ただし、筆者が観察した洗面台は蛇口をひねっても水が出てこなかった。しかたなく水が出る先端部分を上に押し込むと、水が少しだけ出た。これは異常なのか、もとからこのような設計なのか、筆者にはわからなかった。
22時40分、何の放送もなく、キエフ行の列車は静かにミンスク駅を出発した。部屋には初老の女性と中年の男性が乗車しており、ともに「途中で降りるからシーツや枕は利用しない」と言った。ミンスク発キエフ行の夜行列車はウクライナ方面の国際列車だけでなく、ゴメリ(ホメリ)などベラルーシ南部の主要都市を結ぶ役割も果たしているようだ。検札を終え、シーツを敷き、寝床に入る。車両の揺れは思ったよりも激しかったが、リズムに慣れると問題なく眠れた。
ドキドキの出国審査を経て、ウクライナへ
深夜3時40分頃、車掌が部屋に入り、「ベラルーシ出国審査のためパスポートの準備を!」と言う。しばらくすると、ベラルーシの審査官が部屋に入り、筆者のパスポートをチェックした。しかし「ドキュメントがない」と言い、出国スタンプを押さずにどこかへ行ってしまった。ベラルーシの出国スタンプが押されないと、仮にウクライナ側に入れても、ウクライナの入国審査でトラブルが発生する可能性がある。
筆者は焦りながら、通り過ぎる審査官に英語で「出国スタンプを押してくれ」と猛アピールした。すると、上官と思しき審査官が「なにも問題ない」と言い、出国スタンプを押した。海外でこのようなトラブルに巻き込まれたら、冷静にしつこくアピールするといい。ほっとしながら、ウクライナ入国審査を心配しつつ、再び寝床に入った。
キエフ駅到着1時間前の朝8時に起床。列車はウクライナ領に入り、100km/hほどのスピードで快走していた。窓をのぞくと、ベラルーシとはあまり変わらない森林が目に飛び込んできた。車窓を楽しんでいる途中、ウクライナ国鉄の女性車掌が朝食の入ったボックスを渡してきた。筆者が何回もロシア語で「無料か」と聞くと、女性車掌は「そうだ」と一言。箱を開けると、パン、サラミ、クッキーが入っており、思ったより充実していた。
8時40分、夜行列車はドニエプル川をわたり、キエフに到着することを実感した。転車台や静態保存されている蒸気機関車を見ながら、8時56分、定刻通りにキエフ駅に着いた。ところが、終着駅にもかかわらず、誰も降りようとしない。しばらくすると、ウクライナの審査官が車内に入り、入国審査が始まった。今回は何の問題もなくウクライナの入国スタンプが押され、キエフ駅14番線ホームに降り立った。ホームに降り立ったのは到着から12分後の9時8分だった。
なお、報道によると、ウクライナ国鉄はロシアとの旅客列車の運行停止の方針を打ち出したとのこと。仮にこの方針が行われた場合、ロシアからウクライナへ行く場合はベラルーシを経由することになる。当然のことながら、そのような事態になれば今回乗車したミンスク発キエフ行きの夜行列車の重要性はさらに高まることが予想される。