ロシアは世界一の陸地面積を誇るだけでなく、鉄道大国でもある。今回はロシアの首都、モスクワにある2つの鉄道博物館を紹介したい。

  • モスクワ鉄道博物館の館内中央に展示されたУ127型蒸気機関車「レーニン号」(写真:マイナビニュース)

    モスクワ鉄道博物館の館内中央に展示されたУ127型蒸気機関車「レーニン号」

■モスクワ鉄道博物館、レーニン号とサボに注目

モスクワにはモスクワ鉄道博物館とリガ駅付属野外鉄道博物館がある。モスクワ鉄道博物館は中央アジアやコーカサス方面の列車が発車するパヴェレツ駅に隣接している。館内に入ると、最初に見えるのがУ127型蒸気機関車と1691号客車だ。

  • パヴェレツ駅に隣接しているモスクワ鉄道博物館

  • У127型蒸気機関車に連結されている1691号客車

У127型蒸気機関車はロシア帝国時代の1910(明治43)年に誕生した。当初は中央アジアに配属されたが、後に南ロシアで活躍している。1924(大正13)年1月23日、同機関車はモスクワ近郊にあるゲラシモフスカヤ駅(現レニンスカヤ駅)からパヴェレツ駅まで、旧ソ連の創始者であるレーニンの遺体を輸送したことで知られる。レーニンの遺体は1691号客車に乗せられたという。

このような経緯から、У127型蒸気機関車は「レーニン号」と呼ばれている。博物館のスタッフはしきりにレーニンの遺体を乗せた列車であることを強調していた。

  • У127型蒸気機関車の近くにあるレーニンの頭像

У127型蒸気機関車の近くにはレーニンの頭像が展示されていた。ロシア・旧ソ連の鉄道が政治的な出来事と密接に関わってきたことがわかる展示といえるだろう。また、旧ソ連が崩壊した後の現在も「レーニン号」が展示されていることも興味深い。У127型蒸気機関車のフロアでは、その他にもロシア帝国から旧ソ連時代にかけての鉄道史が多くの写真を通じて紹介されている。

そこで地下のエリアもおすすめしたい。ここでは旧ソ連の後期から現代に至るまでの鉄道史が紹介されている。旧ソ連時代にシベリア鉄道を乗車した経験のある人なら、「ロシア号(ウラジオストク~モスクワ)」のサボに注目したいところだ。サボの上には列車に掲げられていた旧ソ連の紋章もあり、当時の記憶が蘇ることだろう。

  • かつての「ロシア号(ウラジオストク~モスクワ)」のサボとソビエト連邦の紋章

  • 1970年代の列車の室内レイアウト

サボの横では、1960年代、1970年代、そして2000年代以降の座席や窓枠が展示されていた。ロシア国鉄では車両の新造や近代化が進められているため、旧ソ連の面影は今後さらに薄くなっていくだろう。

特別列車のサボにも注目したい。たとえば、2015年8月28日から同年9月11日にかけて運行されたドイツのベーリンガースミューレ~バイカル港間のサボが展示されている。この特別列車はドイツからチェコ、ポーランド、ベラルーシを通り、シベリア鉄道に乗り入れた。日本では考えられないロシア・ヨーロッパならではのダイナミックな列車だ。

  • 2015年8月28日から同年9月11日にかけて運行された特別列車のサボ

  • 高速列車「サプサン」の模型

他にモスクワ~サンクトペテルブルク間を結ぶ高速列車「サプサン」の車両模型も展示されている。さまざまな展示物を通じて、ロシア国鉄の今を感じてほしい。

■迫力満点の往年の蒸気機関車から幻の高速列車まで

リガ駅付属野外鉄道博物館はラトビア方面へ向かうリガ駅に隣接している。こちらは屋外博物館になっており、ソ連時代から現代までの名車が勢ぞろいしている。ロシアの線路幅は1,520mm(広軌)なので、日本の車両よりも大きく迫力満点だ。

  • リガ駅付属野外鉄道博物館

  • リガ駅付属野外鉄道博物館では、屋外に車両が展示されている

  • 迫力満点のП36-0001号蒸気機関車

数ある展示車両の中で、最初に注目したいのがП36-0001号蒸気機関車。動輪の直径は1,850mmもあり、優美なデザインとも相まって西欧の鉄道ファンからも熱烈な支持を得ている。

П36型蒸気機関車は1950年代に製造され、レニングラード(現サンクトペテルブルク)~モスクワ間の「赤い矢号」、ウラジオストク~モスクワ間の「ロシア号」といった旧ソ連を代表する名列車を牽引した。ロシア東部地方では1970年代まで活躍したという。展示車両のП36-0001号蒸気機関車もモスクワ周辺やシベリア鉄道で働いたとのことだ。

ディーゼル機関車も蒸気機関車に負けていない。2ТЭ10Л型は1960~1970年代にかけて約3,500両が製造され、国内で幅広く活躍した。展示されている2ТЭ10Л型-3621号は1976年の製造。モスクワから列車で5時間ほどの場所にあるムーロムで働いたという。

  • 1970年代に製造された2ТЭ10Л型-3621号ディーゼル機関車

  • ソ連時代の高速列車、ЭР200型電車

  • ЭР200型電車の側面には「サンクトペテルブルク~モスクワ」のサボがあった。なお、サボにはサンクトペテルブルク市の紋章が描かれている

あまり知られていないが、旧ソ連時代にも高速列車の研究が進められていた。研究の「成果」としてデビューしたのがЭР200型電車である。なんとも言えない愛嬌のある姿に、日本の0系新幹線を連想するのは筆者だけではないだろう。

ЭР200型電車は1965年から1974年にかけて開発・製造されたが、初期の車両は14両にとどまっている。1984年に営業運転が開始され、モスクワ~レニングラード(現サンクトペテルブルク)間を4時間45分で結んだ。現在の高速列車「サプサン号」は同区間を最速3時間30分で運行している。なお、最高速度は0系新幹線とさほど変わらない200km/hとのことだ。

  • ЭР200型電車の後継車両、ЭС250型電車。しかし、短命に終わった

ЭР200型電車の後継車両としてデビューしたのがЭС250型電車「ソコル」だ。「ソコル」はロシア語で「鷹」を意味する。後継列車の計画自体は旧ソ連末期の1988年にスタートしたが、最終的にЭС250型電車の量産車が製造されたのは2000年のこと。最高速度350km/hを誇ったものの、短命に終わった。現在、ロシアの高速列車はドイツのICE3型をベースにしている。

なお、リガ駅周辺の雰囲気はそれほど良くないため、リガ駅付属野外鉄道博物館へ行くなら日中に訪れることをおすすめする。