麺と湯気の向こうに、世の中が見える……。連載第11回は、サンポー食品の新商品「焼豚まぜそば(汁なし)」を実食レビュー。豚骨ラーメンの名作を生んできたメーカーが、あえて"汁なし"に挑んだ理由とは。ラーメンライター井手隊長が、その一杯に込められた"本気"に迫る。
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サンポー食品が築いた豚骨カップ麺の独自路線
カップ麺市場が拡大を続ける中で、独自のポジションを築き続けているメーカーがある。九州・佐賀に本拠を置くサンポー食品だ。半世紀以上にわたって「豚骨ラーメンの即席麺」というニッチでありながら奥深いジャンルを掘り続けてきた稀有な存在である。
その代表作が1978年に誕生した「焼豚ラーメン」シリーズだ。まだカップ麺といえば醤油味が主流だった時代に、豚骨というローカルフレーバーを商品化した先見性は特筆すべきものがある。しかも単なる豚骨味ではない。博多、久留米、熊本といった地域ごとの個性に踏み込み、その違いを表現しようとする姿勢は、もはやカップ麺の域を超えた「研究」と言っていい。
実際、筆者も過去に同シリーズを複数食べ比べたことがあるが、その完成度の高さには驚かされた。濃度、香り、油感、さらには流行のニュアンスまで捉えた味づくりは、「顔の見える一杯」と呼びたくなるほどだ。20種類以上のポークエキスを組み合わせ、調味油で香りと厚みを補強する。さらに市場調査とモデルレシピを掛け合わせることで、リアルな豚骨ラーメンを再現していく。この徹底した作り込みこそが、同社の真骨頂である。
新登場「焼豚まぜそば」が示す豚骨の新境
そして今回、その「焼豚ラーメン」シリーズから登場したのが新商品「焼豚まぜそば(汁なし)」だ。
スープで食べさせるラーメンではなく、タレで和えるまぜそばというジャンルへの挑戦。長年培ってきた豚骨表現が、汁なしというフォーマットでどう活かされるのか。非常に興味深い一杯である。
調理はシンプルで、湯切り後に液体ダレを絡めるスタイル。フタを開けた瞬間に立ち上る香りは、これまでの焼豚ラーメンとは一線を画す。よりダイレクトで、凝縮された豚の旨みが鼻を抜ける印象だ。スープがない分、タレの完成度が問われる。
一口食べると、まず感じるのは濃厚なコクと豚骨独特の香りだ。豚骨をベースにしながらも、単調なこってりではなく、しっかりとした輪郭がある味だ。麺はタレとの絡みを意識した設計で、良いジャンク感がある。ちぢれ麺にジャンク感あるタレがしっかりのってきて、中毒性も高い。自慢の大ぶりチャーシューの存在感も良い。
同社では年間250以上の企画が上がり、商品化されるのはわずか十数点。その厳しい選定をくぐり抜けた商品だけが市場に出る。さらに、社員全員が豚骨ラーメンのパイオニアという自覚を持ち、「本当に美味しいかどうか」で判断しているという。
「焼豚まぜそば」もまた、その思想の延長線上にある一杯だろう。単なる派生商品ではなく、豚骨というテーマを別の角度から再構築した意欲作である。スープで魅せるのではなく、タレで魅せる。博多の「焼きラーメン」的なそのアプローチには長年培ってきた技術と知見がしっかりと活かされている。
サンポー食品の取り組みについては私が書いた新刊『ラーメンビジネス』(書籍情報は記事末尾に掲載)でも紹介しているので、ぜひチェックしてみていただきたい。
豚骨ラーメンはすでに全国区のフレーバーとなったが、その奥行きや多様性はまだ十分に伝わっているとは言い難い。だからこそ、こうした商品には意味がある。カップ麺という手軽なフォーマットを通じて、豚骨の新たな表情を提示する。それは同社が長年続けてきた挑戦そのものだ。





