2019年も多くの鉄道関連ニュースが報じられた。筆者は週ごとに鉄道ニュースをまとめており、一般紙誌等による鉄道関連の報道が年々増えていると感じる。華やかな新型車両の話題がある一方で、自然災害や鉄道路線廃止といった辛い報道もあった。

  • 北陸新幹線は台風19号で被災し、現在も暫定ダイヤでの運転が続く

当連載ではなるべく趣味的に楽しめる話題を提供しているけれども、災害や事故、新路線などの話題も多くの人々から関心を持たれている。2019年は生活の足として、旅行の目的地として、鉄道の役割を考えさせられる1年だった。

■台風19号で被災 - 鉄道の重要性が再認識された

2019年の鉄道ニュースを振り返るとき、10月に接近・上陸した台風19号で多くの鉄道事業者が被災したことは外せない。北陸新幹線の車両基地であるJR東日本長野新幹線車両センターが水没したほか、上田電鉄の千曲川橋梁が崩落し、三陸鉄道リアス線が寸断され、箱根登山鉄道が壊滅的な被害を受けるなど、いずれも衝撃的な映像とともに報じられた。

ただし、鉄道に関していえば、施設の被害の大きさに対し、人的被害は少なかったように思う。台風19号は接近時から「想定外の大きな規模」と報じられ、各事業者も計画運休をはじめ、しっかり対応していた。計画運休は評価され、2019年の新語・流行語大賞のトップテンにも選ばれた。

北陸新幹線の長期運休は北陸圏の経済に大きな影響を与えている。首都圏から北陸方面への迂回ルートとして、東海道新幹線経由または上越新幹線経由のルートが案内され、空路も臨時便を出すなどで対応した。北陸新幹線の金沢延伸からわずか4年で、首都圏と北陸方面を結ぶ重要な経路となったことに驚く。開業時から経済効果が認識されていたとはいえ、やはり新幹線が地域に大きな影響を与えることを実感した。

上田電鉄や三陸鉄道をはじめとする被災ローカル線も地域が支え、復旧に向かって尽力されている。国も激甚災害を認定し、復旧を支援している。赤字とはいえ、地域が鉄道を必要だと認識しているから存続へ向かう。

今回の被災では、ほとんどの鉄道事業者で義援金口座の開設などが行われたため、地域の人々や鉄道ファンらも経済的に支援できた。国や自治体の支援は金額が大きいけれど、手続きが多く、速度は遅い。民間の寄付や義援金は少額でも比較的早く届く。「微力ながら支援したい」という気持ちに各事業者が応えたことに感謝したい。

■山手線・京浜東北線の線路移設 - これが鉄道の素晴らしさ

鉄道を支える人々という視点からもうひとつ。11月15日の終電後から11月17日の初電にかけて行われた品川駅線路切換工事も歴史に残したい。田町~品川間で行われたこの工事により、山手線(内回り・外回り)と京浜東北線(北行)の線路が海側へ最大100mほど移設された。来年3月14日に開業する高輪ゲートウェイ駅と周辺の再開発に関連する工事だった。

  • 品川駅線路切換工事は11月15日の終電後から夜を徹して行われた

あらかじめ3線とも高輪ゲートウェイ駅経由で線路を敷設し、新ルートの信号設備なども整えた上で、田町駅の南側から新しい線路に切り替える。品川駅付近では、駅北側で山手線(内回り・外回り)、駅南側で京浜東北線(北行)がそれぞれ在来の線路から新しい線路へ切り替えられた。約2,000人が現場で工事に携わり、それぞれの受け持ちを滞りなく実施した。

誰かひとつ間違っても予定通り進まない。いや、多少は余力やバックアップ体制もあっただろうけれども、それも含めて万全の備えが必要だった。各部署への周知、事前の準備なども周到に行われただろう。映画1本分か、それ以上の感動がある。十分に準備し、予定通りに実行する。日々のダイヤ通りの運行もそうだ。今年の新語・流行語大賞はラグビー日本代表の「ワンチーム」が選ばれた。鉄道事業もひとりひとりの万全の準備と確実な実行の積み重ねが集まった「ワンチーム」。だから私たちは鉄道が好きだ。

■JR北海道の観光列車 - 逆境の中で攻めに転じる

JR北海道は今年2月、JR東日本の観光車両「びゅうコースター風っこ」と、東急が運行する伊豆観光列車「THE ROYAL EXPRESS」を使用した新たな観光列車を道内で運行すると発表した。「びゅうコースター風っこ」を連結した「風っこ そうや」号は今年夏に運行され、「THE ROYAL EXPRESS」については「2020年8月運行、3泊4日×4回」と発表されている。北海道新聞は「料金は1人あたり68万円、2月中旬から予約受付開始」と報じた。

  • 宗谷本線で運行された「風っこ そうや」号。中間車2両がJR東日本の「びゅうコースター風っこ」

JR北海道は路線や駅の廃止問題など、経営改善に向けて厳しい状況にある。一方、北海道や国から「観光列車による集客」が提案されており、そのひとつがこの施策だった。JR東日本と東急が協力し、車両の輸送面でJR貨物も参画する。

この発表に続いて、JR北海道は国鉄形気動車キハ40形を改造する「山紫水明」シリーズと、既存のジョイフルトレインに代わる多目的特急気動車キハ261系5000番台を導入すると発表した。「山紫水明」シリーズの「山明」号・「紫水」号は、普段は定期列車として運行しつつ、団体向け観光列車に対応。キハ261系5000番台はカラーリングの異なる「はまなす」編成・「ラベンダー」編成を新製し、特急「宗谷」などの定期列車をはじめ、観光列車やイベント列車としても運行される予定となっている。

その他、北広島市の新球場「北海道ボールパーク(仮称)」に隣接する新駅案の検討状況も発表された。今年3月に石勝線夕張支線を廃止するなど厳しい状況が続く中、少しずつ明るい話題も現れた。来年は明るい話題がもっと出ることを期待したい。

■おおさか東線や相鉄・JR直通線が開業 - 注目の新路線も

首都圏における2019年の大きな話題として、11月30日の相鉄・JR直通線開業が挙げられる。相鉄線の西谷駅からJR東海道貨物線の羽沢貨物駅付近まで連絡線を新設し、横浜羽沢国大駅を新たに設置。JR線渋谷・新宿方面へ相互直通運転を開始し、一部列車は新宿駅から先の埼京線にも直通する。相鉄線は2022年度下期をめどに、東急線とも相互直通運転の開始を予定している。

相模鉄道は大手私鉄ながら、路線は神奈川県内のみにとどまり、ややローカル色の強い印象もあった。実際に乗ってみれば、堂々たる10両編成で特急・急行も走る元気な路線だけど、地元以外での知名度はいまひとつ。JR線に乗り入れ、渋谷・新宿・池袋方面へ直通することで認知度がより高まるのではないかと期待されている。相鉄グループは沿線を東京のベッドタウンとして売り込む目論見だろう。

京阪神エリアでは今年3月、おおさか東線の放出~新大阪間が延伸開業した。この延伸により、おおさか東線は久宝寺駅から東大阪市と大阪市東部を経由し、新大阪駅へ直結する路線になった。大阪中心部から放射状に延びるJR・私鉄各線を「タテ糸」とするなら、おおさか東線は「ヨコ糸」になる。大阪の鉄道ネットワークにとって重要な路線のひとつである。

  • 全線開業したおおさか東線では、普通列車の他に奈良~新大阪間の直通快速も運行される

大阪中心部とその近郊では、他にも新路線の計画がある。北梅田(仮称)~JR難波・南海新今宮間を結ぶ「なにわ筋線」は今年7月に国土交通省から鉄道事業を許可された。大阪モノレールの門真市駅から(仮称)瓜生堂駅への延伸についても今年3月、軌道法にもとづき特許が与えられた。

三陸鉄道リアス線も大きな期待を寄せられた路線だった。2011年の東日本大震災で被災したJR山田線の沿岸区間(宮古~釜石間)をJR東日本が修復し、三陸鉄道に移管された。それまで北リアス線・南リアス線に分断されていた三陸鉄道が、山田線の沿岸区間を組み込むことで1本につながった。リアス線全線を直通する列車も運行され、車両運用の効率も良くなると期待された。開業以来、観光客も順調に増やしていたという。

  • 三陸鉄道リアス線の普通列車(2019年3月撮影)

台風19号により、東日本大震災以来となる規模の被害を受けたけれど、現在は3月20日の全線復旧に向けて作業が進んでいる。なお、今年3月に朝日新聞が「2020年3月22日に三陸鉄道で聖火を巡回展示するための特別列車を運行する」と報じており、3月20日は動かせない日程といえるかもしれない。来年6月には、普代~十府ヶ浦海岸間で東京オリンピック・パラリンピックの聖火を載せて走る予定もあるという。

ゆいレール(沖縄都市モノレール)首里~てだこ浦西間の開業は10月1日だった。てだこ浦西駅にバス停留所やレンタカー営業所を配置し、混雑する那覇中心部の交通結節点機能を分担すると期待された。観光客の増加にも対応できるという期待もあったけれど、主力の観光資源である首里城が火災で焼失してしまう。しかし、ゆいレールにいま乗って首里城へ行き、修復してからまた行けば感動も増すはず。旅行会社等が沖縄旅行キャンペーンを実施しており、ゆいレールに乗るならいまがお得なチャンスかもしれない。

■「ラビュー」「ひのとり」 - 新型特急車両など続々誕生

西武鉄道の新型特急車両001系「Laview(ラビュー)」が3月から運行開始した。「いままでに見たことのない新しい車両」を作るとの意気込みで、従来の鉄道車両の常識にとらわれない発想でデザインされた。

どんな車両だって発表されるまでは見たことがないと思いつつ、実際に見ると、なるほど斬新な車両だった。車体前面は球体状のデザインで非常口が設置されている。車体はつや消しの銀色に塗装し、周囲の風景を映しながらもギラつかせない。窓は着席時の膝下まで広く、リビングの掃き出し窓のようだ。実際に乗ってみると、秩父の谷沿いの風景が視野いっぱいに広がる。「いままでに見たことのない新しい車両」で、見たことのない景色を楽しませてくれる。

私鉄特急では、他にも近畿日本鉄道が新型車両80000系「ひのとり」を11月に報道公開している。大阪難波~近鉄名古屋間の名阪特急に投入され、運行開始は2020年3月14日の予定。プレミアム車両だけでなく、レギュラー車両も全席バックシェルを備えたシートを採用し、後席を気にすることなく背もたれを倒してくつろげる。プレミアム車両とレギュラー車両の差額は700円。プレミアム車両のシートはJR東日本の「グランクラス」に匹敵しそうで、かなり豪華でお得な設定といえる。東海道新幹線のある名古屋~大阪間で、近鉄は新たな価値を提供する。

  • 近鉄の新型名阪特急「ひのとり」(2019年11月の報道公開で撮影)

JR東日本は12月に新型車両E261系を公開した。東京・新宿~伊豆急下田間で運行する新たな観光特急列車「サフィール踊り子」に使用する。全席グリーン車以上とされ、プレミアムグリーン車(1号車)は1+1列、グリーン車(5~8号車)は1+2列の配置。麺料理を提供するヌードルバーの車両もある。「スーパービュー踊り子」に代わり、2020年3月14日から「サフィール踊り子」の運行開始が予定されている。「サフィール」はフランス語、「ヌードルバー」は英語で不思議な取り合わせだけど、乗ってみたい。

JR東海は12月にハイブリッド方式を採用した次期特急車両HC85系の試験走行車を公開。非電化区間を走る車両にもかかわらず、既存のキハ85系とは異なり、電車と同じ「クモハ」「モハ」「クハ」を採用したことも話題となっている。2020年は試験走行車による各種試験を行い、量産車の投入は2022年度を目標に検討が進められる。

  • JR東海の次期特急車両HC85系の試験走行車(2019年12月の報道公開で撮影)

JR東日本は5月に新幹線試験車両「ALFA-X(アルファエックス)」を公開した。形式名はE956形で、営業運転は行わない。営業最高速度360km/hをめざし、走行試験で最高速度400km/hにも挑戦する。試験データは北海道新幹線札幌延伸時に投入する新型車両に引き継がれるとみられる。乗車できない車両だが、試験走行の目撃情報がネット上で報告されるなど、人気は高い。10月には早くもプラレール化が発表され、12月26日に発売された。12月27日に公開された映画『新幹線変形ロボ シンカリオン 未来からきた神速のALFA-X』でも重要な役どころで登場している。

観光列車では、新潟~酒田間を中心に運行された「きらきらうえつ」が引退し、代わって「海里(KAIRI)」が今年10月にデビューした。車両形式は「リゾートしらかみ」「リゾートあすなろ」と同じHB-300系。運行区間は「きらきらうえつ」を踏襲するけれども、食事メニューなどがグレードアップされている。中古車両で運行開始し、新車でリニューアルするという、観光列車の出世パターンとなった。

  • 新たな観光列車「海里」。新潟~酒田間を中心に運行される

その他、今年はJR西日本「うみやまむすび」、あいの風とやま鉄道「一万三千尺物語」、平成筑豊鉄道「ことこと列車」、西日本鉄道「THE RAIL KITCHEN CHIKUGO」などもデビュー。観光列車ブームも順調に続いている。

2019年は台風19号による被災と復旧の印象が強い。その一方で、後に令和の時代を象徴するようなプロジェクトが動き始めた年でもあったと感じる。2020年に向けた取組みもたくさんあった。来年はいまのところ、被災路線の復旧と新列車のデビューが大きく取り上げられる1年になりそうだ。願わくは、停滞しているリニア中央新幹線と九州新幹線西九州ルートの決着で締めくくりたい。