4月9日、JR北海道は2031年度に経営自立を実現するための長期経営ビジョン、2023年度までの中期経営計画などを策定した。その中で、鉄道ファンにとって気になる部分は路線の維持と新型車両の導入だろう。今後、JR北海道の路線網はどのように維持されるのか、車両はどのように更新されていくのか。

  • 新型車両H100形「DECMO」。2019年度から順次投入される予定(写真:マイナビニュース)

    新型車両H100形「DECMO」(写真は量産先行車)。2019年度から順次投入される予定

今回策定された長期経営ビジョン・中期経営計画等を俯瞰してみよう。まず、「JR北海道の『経営自立』をめざした取り組み」において、現在の状況に至った経緯を同社発足時から簡単に振り返っている。国鉄分割民営化は「官から民へ」の転換であり、会社の方針としては「自主自立」「地域密着」「お客様第一」であったという。「自主自立」については、政府から経営安定化基金を与えられ、運用益で赤字をまかなう前提だった。分割民営化の時点で黒字化が難しいと考えられたからだった。

ところが、人口減少、札幌への人口集中、低金利政策による運用益の激減といった想定外の環境変化が起きる。モータリゼーションの進展も速かった。同社発足時から27年で、北海道の人口は566万人から544万人に減少し、札幌都市圏の人口が19%増加する一方、他の地域は18%減少となった。自動車保有台数は165万台から290万台に増え、約1.8倍となった。高規格幹線道路は167kmから1,093kmへ、約6.5倍になった。

JR北海道は「地域密着」「お客様第一」の観点で、「鉄道の高速化」「札幌圏輸送基盤の整備」「事業の多角化」を進める。しかし、鉄道を高速化しても人口減少や高速道路網整備の影響で鉄道の乗客は減り、事業多角化のスピードは遅かった。そこで、JR北海道は国に頼り、基金運用を国の借入れとして利子を払うことで運用益を支えてもらいつつ、基金の積み増し、老朽化設備の更新費用の支援などが行われた。

しかし、経営状況を改善するための方策はコスト削減だけだった。赤字路線の見直しを先送りし、安全のために必要な設備投資、修繕費、人件費を削った。その歪みが2011年の石勝線列車脱線火災事故以来、顕著に表れた。国に頼りつつ、赤字路線に手を付けなかった結果、全路線に対する保守コスト削減につながり、事故を招いた。

JR北海道本体の2018年度経常損益は約220億円の赤字。「JR北海道グループ長期経営ビジョン 未来 2031」では、2031年度までに収支を改善し、グループ会社の利益を含めて黒字としたい考えだ。しかし、経営状況は今後も厳しい。人口減や自家用車・高速バス等へのシフト、新幹線修繕費、基金運用益の減少、物価高騰などにより、さらに約210億円の赤字が見込まれる。合わせて430億円の収支改善が必要となる。

その収支改善のため、JR北海道は5つの要素を挙げている。「自助努力」「線区収支改善」「運賃改定」の3要素で約190億円を改善する。残りは「当社単独では解決が困難な課題の解決」と「グループ会社利益」にかかっている。

「JR北海道グループ中期経営計画2023」によると、グループ会社の利益は2023年度に29億円とのこと。2031年度の数字は出ていないけれど、仮に40億円とすれば、「当社単独では解決が困難な課題の解決」によって約200億円の収支改善が必要となる。これは5つの要素で最も大きな数字である。

「当社単独では解決が困難な課題の解決」については、「貨物列車との共用走行問題の解決による北海道新幹線の高速化」「青函トンネルの維持管理等に係る問題の解消」「黄線区(輸送密度200人以上2,000人未満の線区)を維持する仕組」の3つを挙げた上で、「今後、国や沿線自治体などの関係者と協議の上、検討」と説明されている。

■輸送密度2,000人未満の路線、2年後に再評価

JR北海道にとって、とくに維持困難線区の解決は急務だろう。中期経営計画では、輸送密度200人未満の5線区、日高本線鵡川~様似間、石勝線新夕張~夕張間(夕張支線)、留萌本線深川~留萌間、札沼線北海道医療大学~新十津川間、根室本線富良野~新得間について、「地域の皆様と合意形成を得ながら、鉄道よりも便利で効率的な交通手段へ転換」と、鉄道廃止の方針を明示した。夕張支線はすでに廃止・バス転換され、札沼線末端区間も2020年5月の廃止に向けて準備を進めるとしている。

  • 札沼線北海道医療大学~新十津川間は2020年5月に鉄道事業廃止の予定

輸送密度200人以上2,000人未満の8線区、釧網本線、花咲線(根室本線釧路~根室間)、石北本線、宗谷本線、富良野線、根室本線滝川~富良野間、室蘭本線苫小牧~岩見沢間、日高本線苫小牧~鵡川間については、鉄道を維持するため、地域と一体となって行動する線区別事業計画「アクションプラン」を策定。2019~2020年度の2年間を「第1期集中改革期間」とし、減収要素と増収要素を把握しつつ、利用促進と経費節減に取り組む。2年後の目標は2017年度の線区別収支とする。

現状では2017年度水準を下回る傾向とあるため、現状維持というわけにはいかない。いままで以上の利用増進策とコストカットが必要になるだろう。2年間の取組みが着実に行われていることを前提として、「第2期集中改革期間」が始まる。つまり、2年間で結果を残すことができなければ、約200億円のコストダウンの目標を達成できず、鉄道路線の維持は難しいとなりそうだ。

■車両更新は特急形・一般形ともに実施

車両の新製は進められることになった。おもな目的として安全性の向上、ドル箱路線の定員増、運用コスト削減などが挙げられている。経営母体が赤字だからといって、中古車両をだましだまし使うようなことはしない。むしろ古い車両は維持費がかさみ、故障しやすい。新型車両に置き換えたほうが長期的に有利という判断だろう。

  • 現行の特急「スーパー北斗」はキハ261系・キハ281系で運行。2022年度までにキハ261系に統一される

特急形車両はキハ261系の増備により、2022年度までに函館~札幌間の特急「北斗」がすべてキハ261系となる予定。サービス改善策として、キハ261系に携帯電話・PC充電コーナーを設置する。一般形車両は電気式気動車のH100形「DECMO」を2019年度から順次投入し、燃料とメンテナンスのコスト削減を図る。

「稼ぎ頭」ともいえる新千歳空港~札幌間の列車は、2020年春のダイヤ改正で快速「エアポート」の毎時5本化を実現する予定。そのために、新札幌~白石間で貨物列車と平面交差する問題も改善する。快速「エアポート」は721系から733系への置換えを進め、1列車あたりの定員を762人から821人へ増やす。

新千歳空港アクセス路線については、政府の来日観光客増進政策に呼応できる形で強化する計画となった。たとえば新千歳空港駅の7両編成対応化、もしくは移設による通過型駅への改築など。ただし、大規模な工事は国の支援が必要で、具体的な時期は明記されていない。

■沿線自治体など関係者の反応は…

輸送密度200人以上2,000人未満の8線区で実施する「アクションプラン」に関して、すでにJR北海道から各路線の沿線自治体に示されているようだ。北海道新聞の4月11日付の記事「JR北海道利用促進策 効果に不安の声『自治体に任せ切りなら無責任』」によると、存続に向けた「アクションプラン」に取り組む自治体には、「実現できることをJR北海道に提案、要請したい」と前向きにとらえる自治体もあれば、「地元の負担額が明示されていない」「プラン通りにできるか」と不安を示すところもあるという。

ただし、8線区の「アクションプラン」は年間約80億円の支援が必要で、国と沿線自治体が半分ずつ負担するという枠組みがある。沿線自治体が総額40億円を負担できるか、道や国が肩代わりできるしくみを構築できるかなど、未確定な部分も多い。「プラン実現を自治体任せにするなら無責任」という声もあるようだ。

  • 北海道新幹線は長期経営ビジョンの中で、「札幌~東京最速4時間半」に挑戦すると明記された

また、北海道新幹線の札幌延伸時までに、青函トンネル内の速度制限を解消し、東京~札幌間を最短4時間半とする計画を盛り込み、その増収分も織り込んでいる。この件について、JR貨物は「物流全般への影響も考慮すべき課題。当社の経営の根幹にも関わる」と憂慮しつつ、「北海道の経済や暮らしに貢献する使命、思いはJR北海道もJR貨物も同じ。JR北海道としっかり連携し、両社の経営に資する解決策を考えたい」(北海道新聞、4月10日付)とコメントしている。

北海道新幹線札幌駅開業に向けて、JR北海道とともに札幌駅周辺の再開発も始まる。しかし、札幌市長は「中身が詰まっていない段階でどれだけ実現可能性があるか分からない」と疑問を呈している。JR北海道の計画の中に、札幌市が保有する土地の再開発による増収が見込まれている。

今回策定された長期経営ビジョン・中期経営計画などは、2018年7月に国土交通大臣から出された「事業の適切かつ健全な運営に関する監督命令」を受けて作られた。これらが国土交通大臣に認められると、2019~2020年度の2年間で国から約400億円の支援が得られる。JR北海道は4月10日、政府与党の「JR北海道対策プロジェクトチーム」に報告し、国土交通大臣は4月12日の衆議院国土交通委員会で一定の評価を示した。支援額は2019年度に205億円、2020年度に207億円と具体的な数値を表明した。

具体的な数値がなく、挙げられた概算目標については疑問の声も多い。しかし、政府与党と国土交通大臣の評価が得られた。これでJR北海道の経営方針が事実上決まったといえそうだ。