東京都中央区が構想していた地下鉄新線が、東京都のプロジェクトとして動き出しそうだ。読売新聞の4月4日付の記事「銀座から臨海部へ都が地下鉄、羽田直結目指す」によると、この新線はりんかい線やつくばエクスプレスとの接続も検討しているという。

  • かつて中央区が構想した地下鉄ルートを東京都が推進(国土地理院地図を加工)

    かつて中央区が構想した地下鉄ルートを東京都が推進(国土地理院地図を加工)

りんかい線は今後、JR東日本が整備を計画している「羽田空港アクセス線(仮称)」と一部接続する予定。つくばエクスプレスは秋葉原駅から東京駅まで延伸を検討しており、「それぞれ新線と接続させることで、将来的には茨城、千葉から羽田空港まで直接つなげることを目指す」と読売新聞は報じている。FNNプライムオンラインも、フジテレビ「めざましテレビ」の放送内容をもとに地下鉄新線について報道。2040年頃までの完成を計画しているとのことだ。

読売新聞・FNNプライムオンラインの報道によると、地下鉄新線は銀座地区とりんかい線国際展示場駅をほぼ直線で結ぶ約5km。最近発案された新しい計画ではなく、かつて中央区が主体となって構想した「都心部と臨海部を結ぶ地下鉄新線」だという。中央区は2014年・2015年に地下鉄計画検討調査を実施。この構想は2016年に国土交通省の交通政策審議会によって認められ、国土交通大臣への答申「東京圏における今後の都市鉄道のあり方について(答申198号)」に盛り込まれている。

中央区が2016年12月に発表した報告書では、東京メトロ銀座駅付近の「新銀座」駅を起点に、「新築地」「勝どき」「晴海」「新市場」の各駅を経由し、りんかい線国際展示場駅付近の「新国際展示場」駅に至る路線(駅名はいずれも仮称)とされている。調査は運河や河川で分断された地区ごとに1駅ずつが望ましいとしつつ、「勝どき」「晴海」を統合する案も検討された。建設費用や全体の所要時間短縮のためだという。

ルートは2案あり、Aルートは晴海通りと環状2号線の間、Bルートはほぼ晴海通りを通る。Bルートについては、建設予算との兼ね合いのため、大深度地下と標準深度で地下構造物を回避する副案も作られた。概算費用はBルートの大深度地下案が最も小さい。Aルートは銀座駅付近の工事難度が高く、Bルートの標準深度案は東京メトロ日比谷線に近く、首都高晴海線延伸計画と競合するという。

今回、この構想に東京都が注目した理由としては、「築地市場移転後の空き地再開発」と「東京オリンピック後の資産活用」の2つが挙げられる。

「築地市場移転後の空き地再開発」は、東京都都市整備局が取りまとめ、3月29日に公開した「築地まちづくり方針」に示されている。全5章・43ページの中で、第3章第1節「都市基盤整備の方針」で答申198号の地下鉄ルート、都市高速道路晴海線、舟運ネットワークを挙げ、これらの結節点として築地市場の一角を「交通結節点」とした。

築地市場跡という広大な土地を再開発するにあたり、鉄道アクセスは必要。地下鉄を建設することで、東京の鉄道ネットワークと東京湾内の水上バスとも連携できる。もともと築地市場は鉄道輸送と船舶輸送の結節点という利点があった。市場移転後の船着き場には防災船着場の建設計画もある。

船運の連絡先のひとつ、浜離宮恩賜庭園は浅草や台場を結ぶ船着き場があるほか、JR東日本の開発計画もある。都市高速道路晴海線との連携は、マイカーやトラックではなく、観光バスや環状2号線で運行予定の「東京BRT」との連携を見越しているようだ。

「東京オリンピック」の跡地利用についても、地下鉄が果たす役割は大きい。晴海地区では現在、選手村として高層住宅群の建設が進む。オリンピック終了後は住宅に転用されるため、1万2,000人規模の「都心のベッドタウン」となる。その入居者を確保するためにも、地下鉄新線は必要とみられる。

  • 東京都は南北路線の直通案を検討している(国土地理院地図を加工)

東京都は築地移転とオリンピック後の課題を解決するために地下鉄新線を必要としている。この新線を確実に成功させるべく、つくばエクスプレスとりんかい線、そしてJR東日本が環境アセスメント手続きを始めた「羽田空港アクセス線(仮称)」とつなげることを視野に入れたようだ。地下鉄新線はもはや沿線の中央区・江東区だけの計画にとどまらない。東京都や首都圏の国際的価値を高める役目がある。

つくばエクスプレスとの直通運転は答申198号でも指摘されていた。「都心部・臨海地域地下鉄構想」の評価は「事業性(収支・効果)に課題」「検討練度が低い」と指摘。「常磐新線(つくばエクスプレス)の延伸・直通との一体的」な検討を期待している。東京都は事業性について、築地・晴海の需要増で解決する見込み。検討練度は中央区が調査結果を発表した。つくばエクスプレスはもともと東京駅を起点として計画され、答申198号では東京駅について、他の路線とのネットワークに配慮すべきと期待されている。

「羽田空港アクセス線(仮称)」との直通については、答申198号では触れられていない。ただし、東京都が地下鉄新線を建設するとなれば、りんかい線を運営する東京臨海高速鉄道は東京都の傘下企業であることから、直通は当然かもしれない。地下鉄新線は事業主体さえ決まっていないけれど、東京臨海高速鉄道という可能性もある。

JR東日本は今年2月に「羽田空港アクセス線(仮称)」の環境影響評価手続き開始を発表。この区間の整備に乗り出した。「羽田空港アクセス線(仮称)」もりんかい線との直通を構想している。東京都が構想を進めようとしたきっかけは、このJR東日本の発表があったからかもしれない。東京都は平成30年度予算案で「東京都鉄道新線建設等準備基金」を創設し、その対象となる6路線に「羽田空港アクセス線(仮称)」を入れている。

東京都は地下鉄新線の建設について正式発表しておらず、直通先との合意もこれからだろう。東京都知事は4月5日の定例会見で、「重要性を認識しつつも整備するという方針は固まっていない」と語った。とはいえ、築地跡地開発、晴海開発、羽田空港という「外堀」がすべて埋まっている。かなり実現性の高い構想といえる。

地下鉄新線はわずか5kmながら、つくばエクスプレス沿線のつくば・北千住・浅草・秋葉原、都心部の東京駅・銀座・築地・晴海・東京ビッグサイトから羽田空港へ直結する可能性を秘めている。東京、いや首都圏の人の流れを大きく変えることになりそうだ。