東京2020はさまざまなスポーツをお子さんとともに楽しめるまたとないチャンスです。そこで、子どもの運動能力向上に詳しいスポーツトレーナー・遠山健太が各競技に精通した専門家とともにナビゲート! 全33競技の特徴や魅力を知って、今から東京2020を楽しみましょう。今回は「ボート」! 競技解説は、コーチとして複数の大学のボートの指導を行う岩井雄史(いわい たけし)さんです。

  • ボートの魅力とは?

ボートの特徴

ボート競技は、主に川、湖など自然の地形を利用したコースにて行われます。このため大会によってレース環境が異なり、また、風の向きや強さ、川の流れや波の影響が時々刻々変化するため、同日のレースでも環境は異なります。レースの距離は大会によって異なり、五輪では2,000mの直線コースで競い合います。

レースは漕手(そうしゅ)と呼ばれる選手が進行方向に背中を向けて艇に座って乗り、足と腕の力を用いて水中にあるオールを動かし、より早くゴールを目指します。そのオールの使い方は、一人の漕手が右手、左手にそれぞれオールをもつ「スカル」という方法と、一人が1本のオールを両手で動かす「スィープ」という方法があります。

ボート競技の種目としては、「スカル」という方法で、一人でレースをする「シングルスカル」、二人では「ダブルスカル」、四人では「クォドルプル(スカル)」があります。一方、「スィープ」では、オールを持つ右手を内側(みぞおちに寄っていく側)に持つ漕手と、左手を内側に持つ漕手が二人一組になって艇を動かします。この二人一組になってレースをする種目を「ペア」、ペアが2組すなわち四人の場合は「フォア」、八人の場合は「エイト」といいます。これらの種目には、舵手(コックス)と呼ばれる、艇をコントロールする役割の選手が乗ることもあるので、舵手つきペア、舵手なしペアというように、「舵手つき」または「舵手なし」という言葉がつきます。ただし、エイトの場合は必ず舵手(コックス)がつくので、単にエイトと表示されることが多いです。

すべての種目で漕手はゴールを背にし、スタート地点を見ながら左右に設置されているブイをたよりに艇をまっすぐにゴールに向かわせます。このため、舵手がいない種目は艇をまっすぐに進ませることも重要な技術になります。

レースタイムは2,000mの場合、世界トップクラスの「男子エイト」で5分30秒前後です。これは、100mを約16秒の速さで2,000m走り続けるスピードです。呼吸から取り込む酸素をエネルギーとして使いながら極限まで筋肉を動かし続けるため、トップ漕手の酸素を取り込む能力はマラソン選手と同格です。加えて、ゴールするまでオールを動かす回数は、「男子エイト」の場合、およそ240回前後です。これは椅子から立ったり座ったりする動作を1分間に40回前後のペースで6分間続ける体力に該当します。どのくらい過酷なことか、無理のない範囲でお試しいただけると、ボート競技に求められる体力の高さを実感できると思います。

ボートを観戦するときのポイント

ボート競技の見所は、決勝で実際に競い合わないと真の強さはわかりません。なぜなら、冒頭に記載したとおり、レースコンディションは同日レースでも違うため、予選や準決勝のタイムの優劣から強いクルーを予想できないからです。だから、準決勝のレース中やゴール後の漕手の表情に"ゆとり"があるかどうかなど、タイムだけに頼らないでどの国が優勝するか予想してレースをみるとおもしろいでしょう。

もう一つ、体力と技術的な観点からレースをおもしろく観戦するポイントをご紹介します。これは各レースで見られるので、予選からボートを楽しく見ることができると思います。

まず、オール動作の全体の動きに着目してください。疲れてくると、漕手(あるいは同じ艇に乗る全漕手)のオールを水に入れる勢いがなくなり、動作全体がこじんまりし、躍動感が失われてきます。

次は細かいところです。複数の漕手が乗る艇を見るときのポイントになりますが、全漕手の動きの統一性です。リードを許す艇は、特にレース後半になると、オールを扱う動きが仲間の漕手より少し遅れて(あるいは早まって)オールを水中に入れてしまったり、水中からオールを出したりします。これは仲間の漕手に比べ、体力が低下し始めた影響です。これらの違いに気づくことができると、“レース後半さされる(抜かれる)かも”あるいは“逆転できるかも”と、ワクワクできるでしょう。

さらに、疲れが見えた漕手の心情を推察できると、おもしろさの深みは増すでしょう。漕手は自分の体力の限界に達してもペースを落とせない厳しさと戦いながらレースに挑んでいます。なぜなら複数選手でレースをする種目では、一人がオールを漕ぐペースを落とすと艇は蛇行し、失速するからです。レース中の漕手の心拍数は190-200拍/分にも達します。ゆえに漕手は、体力の限界がどこまで続くかという恐怖と戦い、限界に達して「もう無理だ」と弱気になる自分を奮い立たせ、チームの代表として艇に乗っている自尊心を守りながらレースに挑んでいます。だから、ゴールして艇上であお向けになりぐったりする漕手は、その厳しさに勝った勇者であり、勝ち負けに関わらず、最後までベストを尽くした選手の姿も見応えがあるでしょう。

そしてレース中トップを走る艇は、後ろを見ながら漕ぐ特性から、レース展開にもよりますが、ライバル艇の様子を見ながら漕げるのでゆとりがあり、終始、身体動作とオールの動きの統一性が保たれ、優雅で力強いリズミカルな漕ぎでボート競技の魅力を伝えてくれるでしょう。

東京2020でのチームジャパンの展望

東京2020でのボート競技種目は、男女とも以下のとおりです。

・シングルスカル
・ダブルスカル
・クォドルプルスカル(クォドルプル)
・軽量級ダブルスカル(体重制限あり。男子は二人の平均が70kg以下、女子は57kg)
・舵手なしペア
・舵手なしフォア
・エイト

新型コロナウィルス感染拡大の影響のため、2020年4月末時点でも日本代表漕手は決まっていません。また、出場権をかけたアジア・オセアニア大陸予選、世界最終予選の開催も中止となり、参戦種目も決まっていません。果たして、今後どうなるのでしょうか。ボート競技を愛する人たちの願いを記して、選考への動きが再開することを待ちたいと思います。

【男子エイトの挑戦の可能性への期待】
かつて日本は「男子エイト」で世界と戦った歴史がありますが、1988年のソウル五輪を最後に途絶えました。このときの記録は5分55秒52でした。2016年リオデジャネイロ五輪の優勝はイギリスで5分29秒63。レース環境が違うので単純比較はできませんが、日本最高記録はNTT東日本の5分38秒20(オックスフォード盾レガッタ2019)と、確実に日本の「エイト」も競技力を高めています。東京2020開催の延期が、もう一度日本の「男子エイト」が世界に挑戦するチャンスになることを、強く、強く、強く願います!

遠山健太からの運動子育てアドバイス 「ボート」を始めるタイミング

泳ぐことができるようになれば、競泳だけではなくカヌーやセーリング、そして今回のボート競技にも挑戦できるようになります。私が幼少期を過ごした台湾はドラゴンボートレースが有名です。よく両親に連れられて観に行き、そこで初めてボートのレースがあるということを知ったのです。ボート教室は小学生から体験が可能で、楽しんでできるタイプのものから本格的な選手コースまであります。興味があれば、お子さんと行ってみてはいかがでしょうか。ボートを「漕ぐ」動作は背中の筋肉を中心に使います。日常的には「押す動作」が多く表側の胸の筋肉をよく使うため、バランスをとるため「引く動作」を行う必要があります。「引く動作」の意識付けにボート教室は適しているかもしれませんね。

競技解説:岩井雄史(いわい たけし)

1972年富山県生まれ。大阪体育大学大学院修士課程修了。バイオメカニクスの観点からフィジカルトレーニングの指導が専門。現指導チーム:大阪市立大学、同志社大学、NTT東日本、東京大学。東京大学野崎研究室協力研究員、R&R、医療法人貴島会所属。

ナビゲーター:遠山 健太

リトルアスリートクラブ代表。トップアスリートのトレーニングに携わる一方で、ジュニアアスリートの発掘・育成や、子どもの運動教室「リトルアスリートクラブ」のプログラム開発・運営など、子どもの運動能力を育むことに熱心に取り組む。自身、2児の父であり、子どもとともにめぐった公園での運動や子育て経験を生かし、パークマイスター(公園遊びに詳しく、子どもの発育を考えて指導ができるスポーツトレーナー)としても活動している。著書は『スポーツ子育て論』(アスキー新書)、『運動できる子、できない子は6歳までに決まる!』(PHP研究所)、『ママだからできる運動神経がどんどんよくなる子育ての本』(学研プラス)など多数