お笑いコンビ「ジョイマン」の高木晋哉が、ちょっぴりほろ苦く、そしてどこかほっこりする文章で綴るこの連載。読者のお悩みにジョイマン高木ならではの視点で答えてもらいます。

今回のお悩み

「人生に疲れています。結婚して子どもにも恵まれたのですが、購入したマンションのローンは、まだ30年も残っているし、子どもの学費もこれからどんどん増えていきます。プレッシャーですし、働いても働いてもお金がどんどん出ていく人生に虚しさを感じつつあります」(30代男性)

はじめまして。ジョイマンの高木晋哉です。これは一家の大黒柱である男としての悩みですね。家族と日本の経済を支えている父親達(共働きなら母親も)というのは、多かれ少なかれ皆こういった想いを抱えながら毎日出勤しているのでしょうか。

かくいう僕も、現在39歳。結婚して子どもが1人います。お笑い芸人だから例外なんてことはなく、毎年毎年、生活というものが忍び寄ってくるのを感じます。生活が「観念して、そろそろ大人になれ」と耳元で囁いてくるのです。21歳のときに大学を中退して、すべてをかなぐり捨ててお笑い芸人になったつもりでいましたが、社会で生きている限り、どうやらそこからは逃れられないようです。

数年前、楽屋におじさん芸人が集まった時に保険の話になり、僕が家族もいるのに生命保険に入っていないことを話すと「なんて冷血な人間なんだ」みたいな反応だったので、慌てて生命保険に加入しました。意外に芸人でも皆しっかり考えていることに驚きました。自分があと何年生きるかの予定を立て、妻や子どもに何を残せるのかを考える。人生をそのような視点で考えることは新鮮で勉強にもなったのですが、なんだか自分が死ぬ準備をしているみたいに思えてきて、とても怖くなったのを覚えています。

毎月これだけお金を払って、自分の人生の限られた時間とお金をすり減らし続ける人生。次回の支払いのために目の前の仕事をする毎日。「だったら今この我が心臓は何のために脈打っているんだ?」って、一回心臓が脈打つたびに課金されていくみたいに思えてきて、嫌になっちゃう。

そうやって生きて、そうやって死んでいくのだろうか。自分の人生の長めのエンドロールがすでに始まっているように思えてくる。しかも十分なお金があれば、すべて憂いはなくなるかといったら、そういうわけでもないという噂も聞きますし。なんだか周りの人達も頑張っているようだし、大人のふりをして大人みたいなことをしているけれど、ふと立ち止まると、かなり疲れている自分に気づく。

そんなとき、僕はよく『マグノリア』という映画を観ます。重要なネタバレがありますので、もしこれから観たい方は注意してください。その映画では、様々な業を抱えながら死や生の転機を迎えている人々のそれぞれのストーリーが描かれていくのですが、それぞれがにっちもさっちもいかなくなり、映画もラストに差し掛かる直前、空から雨のようにカエルが降ってくるんです。本物の生きたカエルの土砂降りの後に、朝を迎えて終わるんです。変な終わり方です。 でもカエルの後、主人公達が行き詰まった人生の中で区切りをつけて、ふと立ち上がり、周りの人の助けを借りながらも前を向いて、よろよろとまた自分の足で歩き始めるという終わり方が、淡い希望もあって、僕は逆にリアルに感じられて大好きです。

フィクションだからといったらそれまでですが、人が生きていくうえでどうしても切り離せない、お金や生活や社会的な責任や生まれや育ちや取り返しのつかない後悔、そういうものからふわりと一瞬でも解き放ってくれる魔法みたいなものが、その映画の中のカエルの土砂降りなのだと思います。僕にとってそのカエルの土砂降りは"お笑い"です。ラップネタの「明けない夜はない 止まない雨、梅雨じゃない?」や「人生山あり谷あり 海にはハマグリ」などは、その映画の精神を僕なりに解釈してネタにしました。ふとしたときに口ずさむと少しだけ心が軽くなります。

30代男性さんにとっての魔法は何でしょうか。家族の笑顔でしょうか。子どもの頃に歩いた通学路の景色でしょうか。お気に入りの店のシュークリームでしょうか。大人になると、どうしてもお金や理屈や損得で人生ががんじがらめになってしまいがちですが、疲れてしまったときには、心が軽くなる魔法を自分自身にかけてあげてはいかがでしょうか。あなただけの魔法がきっとあるはずです。いつの日か、30代男性さんの人生の助けとなる素敵な魔法が見つかることをジョイマン高木は祈っています。

筆者プロフィール: 高木晋哉

お笑い芸人。早稲田大学を中退後、2003年に相方の池谷と「ジョイマン」を結成。よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属。趣味は詩を書くことで、自身のTwitterでの詩的なツイートが話題となっている。