お笑いコンビ「ジョイマン」の高木晋哉が、ちょっぴりほろ苦く、そしてどこかほっこりする文章で綴るこの連載。読者のお悩みにジョイマン高木ならではの視点で答えてもらいます。

今回のお悩み

「起業したくて悩んでいます。今の会社にいても将来は決して明るくないだろうし、転職も自分の学歴や職歴からするとうまくいくとは思えません。誰もやっていないサービスのアイデアもあります。退職して起業したいのですが、その一方で、少ないながらも安定した給与を捨てる勇気が持てないでいます。僕はどうしたらいいのでしょうか」(30代男性)

はじめまして。ジョイマンの高木晋哉です。人間は変化を恐れる生き物。今までの慣れ親しんだ生活が崩れることに抵抗があるのは仕方ありません。僕たちジョイマンは2008年に「ありがとう オリゴ糖」や「ラモス瑠偉 爬虫類」や「ムーミン 永眠」などといった、むやみに韻を踏むネタでテレビに出させていただけるようになったのですが、2003年のコンビ結成からすぐにそのネタをやっていたわけではなく、はじめは普通の漫才をやっていました。

テレビでM-1グランプリが始まった直後ということもあり、しっかり掛け合いをする王道の漫才に周りの皆も憧れていましたし、僕も始めたての頃は芸人というものはそういうものだと思っていました。でも、その道はイバラの道だということがすぐにわかりました。

M-1の影響で増えた芸人人口。本物の漫才技術やセンスがない限り、そこで頭角を現すのは至難の業。そして自分自身も、正直それまでの自分たちのネタに違和感はありました。だからといって逆に周りと違うことをしようと思っても、教科書も何もない世界、何をすればいいのかもわかりません。それに自分が何を面白いと思っているか、何を表現したいのかすらよくわからない。ただ、とにかく違うというのはわかるんです。

30代男性さんのように今までのやり方を捨てて、新しい場所に行きたいと思っていました。ただ僕の場合は30代男性さんとは違って、何のアイデアもない状態でした。

そして僕たちは数年ほど漫才に取り組んだ後、毎月出演していた投票制の事務所ライブで下のランクに降格しそうなときに苦し紛れに思いついた、今やっているような韻を踏んでダンスをするリズムネタに急激にシフトチェンジしていくのですが、30代男性さんと少し違うのは、当時の僕らには安定した生活などなかったということです。だから逆に新しい道に踏み出せたのかもしれません。勇気とかではないと思います。人間、もうにっちもさっちもいかなくなったときには自然に足が踏み出てしまうもの。

だから今、30代男性さんが「自分は踏み出す勇気がない」と思い悩むことは全くないと思います。大丈夫。勇気なんてなくたって人はいつか踏み出せます。このままこの会社にいて素敵なアイデアも試せずにゆっくり死んでいくのを想像して、本気でゾッとできたときに自然と足が踏み出るのだと思います。未来に本気でゾッとしたときに人間は少し進化するのだと思います。

そして当たり前の話ですが、大切なのは一歩踏み出して新しい道を歩き始めても現実は"めでたしめでたし"にはならないということ。僕たちの場合は新しいネタを始めても順風満帆とはいかず、1~2年くらいは箸にも棒にも掛かりませんでしたし、テレビに出させていただけるようになって売れたと思っても、すぐに売れ終わりましたし、こんなことならこのネタをやらなかったほうがよかったんじゃないか、という思いがふとよぎる夜も正直ありましたが、やり続けて12年、すべてひっくるめると後悔はしていません。僕にしたら今のところ上出来。あのまま中途半端なネタを続けていたら……と考えたら、今でもゾッとできます。

30代男性さんも、自分が一歩踏み出せない原因だと思っている今までの自分の足跡や、現在の安定や、そういうものが頭から吹っ飛ぶくらいにふとゾッとしたときに新しい道に踏み出せばいいのだと思います。それが自然だと思います。近い将来、30代男性さんが理想の道へ踏み出す瞬間がくることを、ジョイマン高木は祈っています。

筆者プロフィール: 高木晋哉

お笑い芸人。早稲田大学を中退後、2003年に相方の池谷と「ジョイマン」を結成。よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属。趣味は詩を書くことで、自身のTwitterでの詩的なツイートが話題となっている。