「うわっ、そいつ最悪だな。それで言うと俺も~」

コミュニケーションの基本といえば、会話です。何かを話し、それを聞き、リアクションをしたり、質問を投げたりして、また話を続ける。このようにして、互いの考えていることや感じていることが伝わり、関係が深まっていきます。いいですね。グッドなコミュニケーションですね。

しかし、これはひとつの理想型です。実際の会話では、いつも互いが心地いい双方向のコミュニケーションが成立するとは限りません。片方は楽しいけど、もう片方はあんまり楽しくない。そんなコミュニケーションだってザラにあるわけです。

今回は、そのようにコミュニケーションの邪魔をする厄介な行為をひとつご紹介いたします。それが「話ドロボー」です。

例えば、こんな会話に身に覚えはないでしょうか?

A「昨日、仕事でイヤなことがあってさ」
B「どうしたの?」
A「お世話になってる先輩に飲み会でセクハラされちゃって」
B「うわっ、そいつ最悪だな。それで言うと俺も~」
A「あ、うん……」

これだけ見ると、「セクハラされて困っているBの話に耳を傾けるA」という構図であり、何らおかしいところは感じないかもしれません。しかし、このあとAが延々と自分の話をし始めたとしたら……話は変わってきますよね。

話ドロボーとは、カラオケ中にマイクを奪うこと

ポイントは「それで言うと俺も~」の部分です。このひと言により、会話のバトンがBに移行します。これを機にAは聞き手にまわることになるわけですが、自分の話が中途半端なままであり、おそらくモヤモヤした気持ちが残るはずです。

このように、相手が切り出した話題に乗っかり、いつの間にか会話の主導権を奪ってしまうことを、桃山商事では「話ドロボー」と呼んでいます。たとえるならこれは「カラオケ中に歌い手のマイクを奪うこと」と同義であり、無自覚に相手を不愉快にさせてしまう行為なのです。

無自覚と書きましたが、話ドロボーをしている側に「盗んでいる」という意識はほとんどありません。それどころか、何ならいい感じのリアクションや、ちょっとしたアドバイスをした気になっている可能性すらあります。

なぜなら、話ドロボーというのは当人にとって"気持ちいい行為"だからです。「話したいこと」が思い浮かぶのは、脳に何らかの刺激が与えられた結果です。つまり、半分は「相手のおかげ」なわけです。

それをさも「自分が思いついた」と思い込み、相手の会話をさえぎってまで相手に話そうとしてしまう。これは言うなれば「マスターベーション」です。つまり、自分だけが気持ちいい行為なわけです。

コミュニケーションの実りを独占する行為

もちろん、話したいことが浮かぶこと自体は悪いことではありません。互いに刺激を与え合い、話したいことが浮かんで会話が弾むというのはひとつの理想型です。しかし、話ドロボーは相手の話を受けとめません。いったん最後まで話を聞き、内容を理解した上でリアクションを返すという手続きを踏まず、思いついた話を文脈やタイミング無視で相手にぶつけます。

やりたいことをやりたいときにやっているわけで、当人はそりゃ楽しいでしょう。そして、そうやって自分が楽しいものだから、相手も同じように楽しいだろうと思い込んでしまい、自分がまさか相手に不快感を与えているだなんて、想像すらしない。ここが話ドロボーの最も厄介な点です。

このように、話ドロボーには自覚や罪悪感がありません。さらに、当人は気持ちよく、かつ楽しくなっているわけで、自分自身で気づくことはかなり至難の業と言えます。

しかし、これは相手の話を途中でさえぎる行為であり、なおかつ、本当はふたりで作り上げているコミュニケーションの実りを、全部ひとりで持っていこうとする極めて卑しい行為なのです。

こんなことを続けていたら、人は徐々に徐々に離れていくでしょう。話を受けとめてくれず、自分の話ばっかりしてくる人と会話をするのって、結構エネルギーを消耗する行為ですからね……。

楽しいコミュニケーションとは、自分だけが楽しくしゃべれることではなく、互いに楽しくなれるようなやりとりのことを指すはずです。自分が話ドロボーをしているかどうかを意識するのはとても難しいことですが……相手の話をちゃんと受けとめたか、自分だけが気持ちよくなっていないか、会話中に自分を客観的に観察してみることをオススメします!

今回のマナーポスター「話ドロボーするな!!」

今回のマナーポスター「話ドロボーするな!!」(イラスト:清田隆之)

【今回のまとめ】

・話ドロボーは自分だけが気持ちいい行為

・話ドロボーには自覚や罪悪感がない

・話ドロボーをしてると人が離れていく

<著者プロフィール>
清田隆之/桃山商事
1980年、東京生まれ。失恋ホスト、恋のお悩み相談、恋愛コラムの執筆など、何でも手がける恋愛の総合商社「桃山商事」代表。男女のすれ違いを考える恋バナポッドキャスト『二軍ラジオ』も更新中。「日経ウーマンオンライン」や「messy」でコラムを連載中。著書に『二軍男子が恋バナはじめました。』(原書房)がある。
Twitter @momoyama_radio

タイトルイラスト: 清田隆之