■偏屈なのに愛らしく笑いあふれる主人公

1位『結婚できない男』(フジ系、阿部寛主演)

阿部寛

阿部寛

2度と生まれないであろう名作であり迷作。連ドラ史上まれにみる「偏屈なのに愛らしい」主人公のキャラクターは、十数年すぎた今あらためて見直しても、大笑いできる。見たことのない人に迷わずおすすめできる。もしかしたら2000年代における最高の一作なのかもしれない。

シニカルで実は本質的な脚本、決して視聴者に迎合しない淡々とした演出、阿部寛に夏川結衣、国仲涼子、高島礼子をぶつけたキャスティング……すべてがそろい、非の打ち所がないパッケージ力は、結婚をテーマにしたラブコメの追随を許さない。

なかでも特筆すべきは、主人公・桑野信介(阿部寛)を演じた阿部の役作り。目や指先の動きから、歩き方、話し方までディテールの細かい演技で、嫌悪感から一周回って「プッ」と吹き出さずにはいられない偏屈男を生み出していた。ドラマフリークほど、阿部寛の代表作は『下町ロケット』ではなく、『結婚できない男』と断言する理由がそこにある。

「一人が好きで悪いか!!」「好きなものを食って悪いか!!」「好きにお金を使って悪いか!!」「休日を一人で過ごして悪いか!!」「家に人を入れないで悪いか!!」「融通きかなくて悪いか!!」など各話のサブタイトルも、結婚できない未婚男性へのアイロニーとして秀逸。各話の物語も「実はいい人だった」「最後にわかり合えた」という美談でまとめようとしないなど、生涯未婚率が上がり続ける日本社会の現状を端的に表していた。

最終話のソフトランディングなハッピーエンドも見事。レンタルビデオとコンビニの店員同士が恋人同士となり、何気に映された家の模型や2匹の金魚など、ほっこりとした余韻を残す粋な幕引きだった。きゅうりに目がないパグのKEN(こつぶ)が見せたキュートな姿も忘れられない。主題歌は、Every Little Thing「スイミー」。

『西遊記』『のだめ』『マイボス』『14才の母』

その他の主な作品は下記。

  • 香取慎吾

    香取慎吾

  • 上野樹里

    上野樹里

堺正章でも唐沢寿明でもなく香取慎吾が孫悟空を演じた『西遊記』(フジ系、香取慎吾主演、主題歌はMONKEY MAJIK「Around The World」)。各キャラのほか、雲の筋斗雲ではなく羽の筋斗羽などさまざまな改編が見られ、最終回は堺が釈迦を演じるサプライズも。仲間を「なまか」と呼んで友情を重んじるなど、週刊少年ジャンプのノリで子どもに絶大な人気。

カメラアングルや小道具に至る再現率の高さで原作漫画ファンも納得させた『のだめカンタービレ』(フジ系、上野樹里主演、主題歌はベートーヴェン「交響曲第7番」など)。以降、再現率について語る風潮の分水嶺になった作品とも言える。クラシックブームを巻き起こし、映像ソフトやコンサートなどのビジネス面で新たな可能性を示した。

  • 新垣結衣

    新垣結衣

  • 志田未来

    志田未来

「暴力団の若頭が年齢を10歳詐称して高校生になる」というぶっ飛んだ学園コメディ『マイ☆ボス マイ☆ヒーロー』(日テレ系、長瀬智也主演、主題歌はTOKIO「宙船」)。凄みと人情があふれ出る長瀬と可憐な女子高生を演じた新垣結衣のギャップと、意外な感動ストーリーで熱烈なファンが続出した。今をときめく新垣結衣の出世作。

現在ならこのタイトルだけで炎上しそうな『14才の母』(日テレ系、志田未来主演、主題歌はMr.Children「しるし」)。事実、BPOにも意見が寄せられ、抗議の声もあった。ただ、物語は終始、命の大切さを真摯に描き、偏見や裏切りを乗り越えての出産シーンは感動を呼んだ。志田の相手役は三浦春馬、親友役は北乃きい。

  • 坂口憲二

    坂口憲二

  • 北村一輝

    北村一輝

天才外科医・朝田龍太郎を中心にしたチームドラゴンが“バチスタ手術”に挑んだ『医龍 Team Medical Dragon』(フジ系、坂口憲二主演、主題歌はAI「Believe」)。封建的な大学病院の中で、わが道をゆき、驚異的な技術で患者を救うド真ん中の医療ヒーローもの。以降に制作された第2~4シリーズはオリジナルであり、いかにキャラが魅力的だったかがわかる。

伝統のある『金曜ドラマ』でホストの世界を描いて驚かせた『夜王』(TBS系、松岡昌宏主演、主題歌はTOKIO「Mr.Traveling Man」)。注目すべきは主人公よりも、No.1ホストの聖也(北村一輝)。今話題のROLANDを先取りしたような仕上がりで、その他の“ホスト四天王”を演じた保阪尚希、岡田浩暉、金子昇も歌舞伎町の世界観にフィットしていた。

  • 藤木直人

    藤木直人

  • オダギリジョー

    オダギリジョー

『真相報道バンキシャ』の「ギャルサー特集」をもとに作られた『ギャルサー』(日テレ系、藤木直人主演、主題歌は藤木直人「HEY! FRIENDS」)。「渋谷にカウボーイが現れ、ギャルたちの問題を解決していく」という物語より、戸田恵梨香、新垣結衣、鈴木えみ、佐津川愛美ら若手女優の共演が話題に。カタコトの日本語、投げ縄で人をとらえる、灯台下暗しのトホホなオチなどツッコミどころだらけの作品。

時効成立した未解決事件をあくまで趣味で捜査する脱力系刑事ドラマ『時効警察』(テレ朝系、オダギリジョー主演、主題歌はCEYREN「雨」)。伏線と笑いを盛り込んだ独自の世界観で熱狂的なファン層を獲得。三木聡、岩松了、園子温、ケラリーノ・サンドロヴィッチらが演出を手掛けたことも話題になった。今年、第2シリーズ以来12年ぶりに復活することが発表されている。

さらに、『純情きらり』『功名が辻』(以上NHK)、『弁護士のくず』『クロサギ』『タイヨウの歌』『嫌われ松子の一生』『セーラー服と機関銃』(以上TBS系)、『小早川伸木の恋』『アテンションプリーズ』『ブスの瞳に恋してる』『サプリ』『僕の歩く道』『Dr.コトー診療所2006』(以上フジ系)、『喰いタン』『CAとお呼びっ!』『たったひとつの恋』(以上日テレ系)、『松本清張けものみち』『レガッタ~君といた永遠~』『だめんず・うぉ~か~』『アンナさんのおまめ』(以上テレ朝系)などが放送された。

■著者プロフィール
木村隆志
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月20~25本のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』などに出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』など。