――五味さんは2011年から『頭脳王』を始められました。水上颯さんや伊沢拓司さんも出場されていて、現在の「東大生」ブームの先駆けではないかと思いますが。
五味:そうかもしれませんね。2011年当時の思いとしては『マジカル』は小学校1年生でもわからないとダメっていう考え方で作ったんですけど、『頭脳王』っていうのは東大生でも分からないものをやろうって。僕はとにかく極端なモノが好きなんですよ。だから中庸がない(笑)。振り幅がでかい極端なものをやりたいんですよ。東大生でも1人も分からない問題をやろうと。それをショーにしようとしたのが『頭脳王』。たとえば、あるQRコードを出して、どこのQRコードか答えなさいっていう問題。それに答えられちゃう人がいるんですよ。クイズというより“びっくり天才ショー”として作ったんです。何万人という人がネットから応募してくるんですけど、すごい天才が出てくるんで面白いですよね。単純に楽しみです。自分の好き嫌いでいうと、普通の人たちが戦うっていうのでは、自分の琴線が動かないんですよ。「東大医学部首席」とか異次元の人じゃないとクリエーターの血が沸かない。
――王さんはNHKで2013年から『クイズ 100人力』を作られました。今の『超逆境クイズバトル!!99人の壁』(フジ)に通ずるクイズ番組ですね。
王:周りからは「王さんの後輩が真似したんじゃないか」って言われるけど、まったく関係ないんですよ。『99人の壁』は、別の発想から生まれたんです。僕の場合は、先ほども言ったとおり、クイズは不公平な方が面白いっていう信念がある。それで『ランボー』っていう映画があったじゃないですか。シルベスター・スタローンがひとりで敵陣に乗り込んで敵をバッタバッタとなぎ倒して無事帰ってくる。あれをクイズにできないかって。その企画をNHKに持っていったら、最初に「不公平ですよね」って言われて(笑)。「だから、公平だと面白くないんです。不公平だけど、どこかでバランスを取っていくのがいい」って説得して始めたんです。要するに1vs100人のクイズ。だけど、NHKなので逆に考えてくれないかって言われて。あのとき、「絆」ってよく言われてたんで、100人が「絆」でもって団結して、1人の“巨人”を倒せるかっていう仕組みにしたんです。次回放送は何曜日の何時っていうふうに毎回放送時間が違うからなかなか定着しなかったんですよ。それでも7~8%まで行きましたね。
――NHKとフジとで、違いはありましたか?
王:出場者を前に前説をしたんですけど、「公共放送である」ってことをものすごく感じましたね。
五味:王さんが自ら前説をしたんですか!?
王:そうなんです(笑)。自分がNHKの人間になりきってしゃべる。そのときにヒシヒシと感じたのは、公共放送と民放の違い。責任の重さは一緒だけど、質が違う。
五味:民放だと芸人さんがワーって賑やかすけど、そういう感じではない?
王:地方ロケだったこともあってそれができなかったんですけど、公共放送の一端を担ってご協力お願いしますっていうのは、やっぱり違いましたね。あと印籠じゃないですけど、NHKの看板で取材を申し込むとやっぱりすごいですね。どこにでも行けちゃう(笑)
五味:じゃあ、『ポツンと一軒家』(ABCテレビ)もNHKでやれば無敵ですね(笑)
■クレイジーな人が作る番組に「ワクワク」
――ご自分が携われたもの以外で、平成で印象的なクイズ番組はありますか?
五味:『平成教育委員会』『クイズ$ミリオネア』『クイズ!ヘキサゴンII』(フジ)…どれも1つの時代を作った大きな財産かなって思いますし、今で言うと『99人の壁』みたいな、かつてなかったものを作る姿勢、トライする姿勢は素晴らしいですよね。TBSの藤井健太郎さんも『人生逆転バトル カイジ』のようなトライをしたり、いい意味でクレイジーな人がやることを見てるとワクワクする。視聴率はとれてないものもあるんですけど、それは構わない。自分だって最初はそうでしたから。荒削りだけど、大胆なことをやる人が好きですね。
王:『ヘキサゴン』は、私の最後の直属のADだった神原(孝)が作ったんですけど、彼はずっと自分流の『年の差なんて』をやりたいって言い続けてたんです。それでちょっとアレンジしてやってたんだけど、二番煎じ的な企画はやっぱりうまくいかない。それでやっていくうちにあの会議での「きんいろよるまた」って言っていたシーンがよぎったのかは分からないですけど、まさしく「羞恥心」とかの“おバカブーム”を作ったことにつながっているのかなって思いますね。その後に『NHK紅白』に出たり、「神原やるなー」と思いました。
五味:神原さんはすごくいい人だなぁって。『(全力!)脱力タイムズ』(フジ)でコウメ太夫とかが出ると、ちゃんと『エンタの神様』って名前を出してくれるんですよ(笑)。王さんの弟子なんですね。
王:イズムは受け継いでくれてると思います。ある人に言わせると、「神原と話していると王さんと話してるみたい」だって。僕は『脱力タイムズ』を神原がやっていることを全く知らずに、たまたま某所で「今、気になる番組はありますか?」って聞かれて『脱力タイムズ』を挙げたんです。正直言って、私の好みには合わないんだけど(笑)、でもすごく気になる。非常にユニークで特異性があると。後から神原が手がけているって知ったんです。「さすが神原だな」と。
――王さんは印象に残ってる平成のクイズ番組、いかがですか?
王:クイズ番組に限らないとだめですか?(笑)。最近はNHKの『ブラタモリ』。なじみのある街でも、私が知らない深い情報が出てきて、取材の厚さに感心しています。テレビ東京の『世界ナゼそこに?日本人』は別な意味でよく観ます。昔、フジ社内で『なるほど!ザ・ワールド』のスピンオフ企画として「世界の秘境で活躍する日本人」という企画を編成に出したのですが蹴られました。そんなことからちょっと複雑な気持ちで、この番組を観ています。それにしても、テレビ東京の番組は存在感がありますね。
■令和時代の王東順&五味一男は…
――いろいろな番組を手がけられてきたお2人ですが、次の令和時代にやっていきたいことは何ですか?
王:僕はこれまで常に「これまでにない・他にない・見たことない」を意識してやってきました、それがヒットにつながったと思います。今仕事の中でテレビの仕事は3分の1程度なんです。これまで培ってきたエンタテイメントな思考や手法で感動や笑顔を生み出し、それをビジネスや商品開発などに生かす時代が来ています。そして商業界でも、記憶に残るヒットを飛ばすべく挑戦して行きたいと思っています。徐々に成果も出ているんです。もちろん、不公平なクイズ番組もやりながら…(笑)
五味:王さんや菅原正豊さんとか大ベテランの方々が現役でやってらっしゃるので、まだまだ頑張らないといけないと思う一方で、こうしようと思っても、自分の適性が変わらないからどうしようもないところがあるんです。僕の作る番組はデータを見るかぎり、今も昔も中高生にやたらウケるんですよ。最近オンエアした『エンタの神様』も、中高生の2人に1人が見てるという50%の占拠率が出てる。ただ、どんなことをやってもそこにしか響かないんですよ。だから、もう中高生のためだけに作ろうって(笑)。深夜番組もめっちゃやりたい! 『月曜から夜ふかし』(日テレ)をやらせてもらえる古立(善之)とか、『アメトーーク!』や『ロンドンハーツ』(テレビ朝日)を23時台で続けられる加地(倫三)さんとかがうらやましい。僕、深夜番組やったこと一度もないですから。賛否両論があったとしてもクレイジーで荒々しい極端なものをやっていきたいですね。
●王東順
1946年生まれ、東京都出身。中央大学商学部卒業。フジテレビジョンに入社後、『クイズ!ドレミファドン』『なるほど!ザ・ワールド』『クイズ!年の差なんて』『新春かくし芸大会』『FNSの日テレビ夢列島』『出たMONO勝負』などを制作したほか、アナウンサースクール設立、携帯電話コンテンツの立ち上げ総合プロデュース、お台場社屋イベント「BANG PARK」立ち上げ総合プロデュース。01年に退社後、事業領域を広げて各種コンテンツ事業を手がけ、『クイズ100人力』(NHK)などのプロデューサーも務めた。現在は企業トップのインタビューDVD『ビッグインタビューズ』を160本以上制作中。
●五味一男
1956生まれ、長野県出身。早稲田大学を中退し、日本大学芸術学部卒業後、CMディレクターをへて、87年日本テレビ放送網に入社。『クイズ世界はSHOW by ショーバイ!!』『マジカル頭脳パワー!!』『投稿!特ホウ王国』『速報!歌の大辞テン』『エンタの神様』『週刊ストーリーランド』『頭脳王』などを手がけ、現在は日テレアックスオン 執行役員ジェネラルクリエイター。
■著者プロフィール
戸部田誠(てれびのスキマ)
ライター。著書に『タモリ学』『1989年のテレビっ子』『笑福亭鶴瓶論』『全部やれ。』などがある。最新刊は『売れるには理由がある』。