次々に新しい料理や食材などが登場するとあって、『食のトレンド』は刻一刻と移り変わっていく。しかし、クライアントや職場の同僚と「あれ食べた?」という話になることはよくある。そんなときに「……聞いたこともない」というのは、かなりマズい。この連載では、ビジネスマンが知っておけば一目おかれる『グルメの新常識』を毎回紹介していく。第78回は「一人鍋」。

  • お店でも、自宅でも、個性豊かな「一人鍋」が人気

「一人鍋」って何?

コロナ禍以降、食事は少人数、あるいは一人で食べる「個食」が推進されるなか、冬の風物詩である鍋料理にも“お一人様”という選択肢が増えてきた。これまで鍋料理は「みんなでワイワイ囲むもの」というイメージが強かったが、衛生面に加え、好きな具材・分量やスープの味を自分で選べるという一人ならではのメリットもあり、人気が定着しつつある。

コロナ禍以前からじわじわ増えつつあった一人鍋専門店はより多様化し、“鍋=野菜たっぷりでヘルシー”というイメージもあり、男女問わず支持されている。また、自宅で食べる「鍋の素」も、ファミリー向けの商品だけでなく、一人分の個包装タイプの商品が増加中だ。

「一人鍋」はどこで食べられる?

東京都内を中心に一人鍋専門店が続々と出店。ファストフードのように気軽に利用できる店もあれば、高級食材を使用したご褒美的な一人鍋店もある。スーパーやコンビニでは、家庭用の鍋の素や、アルミ鍋に具材とスープが入った商品も販売されており、一人鍋のハードルは決して高くない。

  • Shangri-La's secretの一人鍋は、栄養豊富なきのこをたっぷり食べられる(写真はイメージ)

一人一鍋ブームの火付け役とも言われているのが、都内4店舗に展開するきのこしゃぶしゃぶ専門店「Shangri-La's secret(シャングリラズシークレット)」。天然きのこ数十種をじっくり煮込んだオリジナルの「ブラックスープ」をベースに、コース形式で「きのこしゃぶしゃぶ」が楽しめる。

ブラックスープには、きのこの旨みと栄養がたっぷり。同店を運営するシャングリラ・インターナショナルダイニング取締役専務の北條由丈さんは「お一人様お一つの鍋で用意するスープはお食事中ずっと煮込まれているので、時間が経つほど味わいも濃厚になっていきます。スープが少なくなったら継ぎ足しますので、多い方ではブラックスープだけで2リットル近く飲まれる方もいらっしゃいます」と話す。

人気メニュー「美楽黒湯(びらくへいたん)」(4950円、ランチタイムは550円引き)は、名物のきのこしゃぶしゃぶが堪能できるスタンダードなコース。キノコを使った前菜から始まり、8種類のきのこが味わえるきのこしゃぶしゃぶ、季節の野菜、豆腐、鶏の胸肉がセットになったヘルシーな内容だ。〆は水の代わりに「ブラックスープ」を練り込んだオリジナルの「きのこ麺」で、まさにきのこ尽くしになっている。

8種類のきのこは『たもぎ茸』『朱鷺色(ときいろ)ヒラタケ』など、普段スーパーでは見かけないような色鮮やかでさまざまな食感を楽しめるラインナップで提供。きのこは免疫力アップや滋養強壮、美肌効果を期待できるとあって、利用客の8割が女性だという。体の中からメンテナンスするような意味合いで、飲み会が多い時期には特に需要が高くなるそうだ。

  • ひとりしゃぶしゃぶ七代目松五郎 宮益坂店。全席カウンターなので一人でも気軽に入りやすい。

2020年6月に東京・赤坂にオープンした「ひとりしゃぶしゃぶ七代目松五郎」は、“ひとりひと鍋”をコンセプトにした一人鍋専門店。座席は全席カウンターの横並びで食べるスタイルで、オーダーが入ってから一枚ずつスライスする独自の熟成肉が目玉商品だ。

2021年11月に渋谷にオープンした宮益坂店は、同店をさらにカジュアライズした新業態。食べたいものを好きな量でオーダーすることが可能だ。たとえば、熟成黒毛和牛はネック、ロース、上ロースの中から選ぶことができ、国産牛のカルビやオージービーフの赤身などもある。また豚肉は4種類、鶏肉は大山鶏の胸肉が1種類、野菜(豆腐やきのこ類などがセット)1種類、それぞれS,M,Lから選ぶことができる(分量によって価格は変動)。

さまざまな組み合わせが楽しめるが、同店代表の森貴代江さんのおすすめは<カルビ(S /380円)+山西牧場豚バラ(S /390円)+野菜(M/550円)>の組み合わせ。「これでも満足感はありますが、『大山鶏 胸肉(S/330円)』をプラスすると、よりお肉のバリエーションが楽しめると思います。鶏のしゃぶしゃぶが食べられるお店は珍しいので、大変喜ばれています」とのこと。

組み合わせによって価格は変わるが、ランチは一人あたり1000~1200円、ディナーは2000円前後の利用者が多いという。森さんは「ランチは幅広い年齢層のお客様にお越しいただいています。ディナーの時間帯になると、20~30代のお一人様の女性が多いのが特徴だと思います」と話す。

「一人鍋」を食べてみた

2021年10月に発売された、無印良品の「ひとり分からつくれる鍋の素」シリーズを食べて見た。鍋の素は以前から冬シーズンに販売していたが、2020年までは1袋2~3人前の商品。今回から1人前分の個包装×4袋入りにリニューアルした。世界のスープや鍋料理をお手本にしており、「ビスク」「サムゲタン」「バターチキンカレー」など、個性豊かな7種類のラインナップになっている。

無印良品を運営する良品計画の広報・ESG推進部 広報課 有山美恵さんは「お客様からのご要望の声があったことと、食べる分量に合わせて作れる仕様にすることで、ひとり鍋をするときも家族で鍋を囲むときでも、人数や食べるシーンに合わせて使っていただけるようにリニューアルしました」と話す。

  • 無印良品「ひとり分からつくれる鍋の素 ビスク」(33g×4袋/350円)

今回はフランスのスープ・ビスクをお手本にしたという「ひとり分からつくれる鍋の素 ビスク」で鍋料理を作ってみた。パッケージに書かれている基本のレシピを参考に、タラ、キャベツ、しめじ、ブロッコリーなどを用意。レシピに書かれているのは「トマト」だがミニトマトを代用したり、冷凍のむきえびを追加したりと、自分なりのアレンジを加えてみた。

直径18cmの一人用鍋に、鍋の素を一袋と牛乳を入れて火をかけ、食べやすい大きさに切った食材を入れて煮込んでいく。袋を開けたときから海老の濃厚な香りを感じたが、グツグツと煮えてくるとさらに良い香りが漂ってくる。弱火~中火で15分ほど煮込み、野菜がしんなりしてきたタイミングで火を止めた。

  • 具材を切って煮込むだけ、野菜たっぷりの“一人ビスク”が完成!

まずはスープだけひと口飲んでみると、海老とトマトの旨み・甘みがしっかりと感じられ、牛乳を使っているのでまろやかな味に仕上がっている。煮込んでやわらかくなった野菜とコクのあるスープがよく馴染み、ハフハフと熱さを楽しみながらどんどん箸が進んだ。

ピリ辛にするなら煮込む際に鷹の爪を入れてもいいし、チーズとの相性も良さそう。4袋入りなので、「次に作るときはこれを入れてみよう」というアイデアがどんどん浮かんでくるのも楽しい。筆者はもともと自宅で一人鍋をすることも多かったが、普段は和風だしや中華スープを使うことが多く、洋風の鍋は新鮮だ。他の味の鍋の素も試してみたくなった。

一人暮らしの人はもちろん、残業で家族と食事の時間が合わないときや、テレワーク中のランチなど、一人鍋を楽しめるシーンはさまざま。気になるお店や商品があればぜひチェックしてみてほしい。