次々に新しい料理や食材などが登場するとあって、『食のトレンド』は刻一刻と移り変わっていく。しかし、クライアントや職場の同僚と「あれ食べた?」という話になることはよくある。そんなときに「……聞いたこともない」というのは、かなりマズい。この連載では、ビジネスマンが知っておけば一目おかれる『グルメの新常識』を毎回紹介していく。第80回は「チャイ専門店」。

  • スパイスの香り漂うチャイ専門店、都内に続々出店中。

    スパイスの香り漂うチャイ専門店、都内に続々出店中。

「チャイ専門店」って何?

もともと「チャイ」とは「茶」を意味する言葉だが、日本でチャイといえば、甘く煮出したインド式ミルクティーをイメージする人が多いのではないだろうか。ショウガやシナモン、カルダモンなどのスパイスと一緒に煮出して飲むチャイは「マサラチャイ」と呼ばれ、体がポカポカと温まるので特に女性から人気が高いドリンクだ。

日本でも紅茶専門店などでチャイを飲むことはできたが、あくまでメニューの一つとして販売している場合が多かった。それが2021年ごろからチャイを専門的に取り扱うチャイ専門店や、テイクアウト販売のみのチャイスタンドがじわじわと増え始めている。現地インドで飲まれているような本格的なチャイから、日本人向けに飲みやすくアレンジしたチャイまで幅広く楽しめる。

「チャイ専門店」はどこにある?

ここ数年で、都内にいくつかのチャイ専門店がオープンしている。2021年9月、JR恵比寿駅から徒歩3分の場所に店を開いたのは、チャイと茶の専門店「uRn.chAi&TeA(アーン チャイ&ティー)」。店名の「uRn」は「壺」を指し、「さまざまな用途のある壺のように、チャイや茶を通してさまざまな一面を持つ自分自身と向き合う時間を過ごしてほしい」というのが店のコンセプトだ。

  • uRn.chAi&TeAの「オリジナルチャイ(ホット/アイス)」(右)吹き抜けの気持ちいい、ゆったり過ごせる店内

有機栽培や無農薬栽培の茶葉を使用した、安心して飲めるオリジナルブレンドのチャイが人気。「オリジナルチャイ」(Basicサイズ550円、upサイズ600円)は、甘みとコク、芳醇な香りが特徴のアッサムと、花のような香りや爽快な渋みを併せ持つウバをブレンド。独自のレシピでシナモン、カルダモン、クローブなど6種類のスパイスとともに煮出し、自家製の黒糖シロップでそれぞれの素材のインパクトをまろやかに引き出している。ベースは定番の牛乳で、そのほかに豆乳やオーツミルク、アーモンドミルクへの変更も可能だ。

フードメニューにも力を入れており、さまざまな国や地域の手料理にインスパイアされた独自のメニューを開発しているという。とうもろこしを使ったやさしい甘さの「ポレンタケーキ」(500円)、肉や野菜を使ったキッシュを思わせる「グリルサンドイッチ」(680円)など、チャイやティーと一緒に楽しみたいメニューが揃っている。

利用客の8割が女性だが、男性客のリピーターも増えているという。「店舗で大きな銅鍋で煮出していることもあり、香りに誘われて入店していただく方も多くいらっしゃいます」(同店ディレクター 宮田文太郎さん)とのことで、開店から半年経たずして、すでに街の風景に溶け込んでいるようだ。

  • (左)スパイスアップの「ホットチャイ」、(右)自宅でチャイを楽しめる「おうちdeこっくりチャイ(大)」(1,450円)も販売中。

2021年4月、国立市内にオープンしたのが、テイクアウトのみでカジュアルに楽しめるチャイスタンド「スパイスアップ」だ。JR谷保駅からほど近い富士見台団地商店街にあるシェア商店・富士見台トンネルに、週1回月曜日のみ出店している。現在販売しているのは、「ホットチャイ」と「アイスチャイ」(ともに450円)。期間限定でカカオ100%のチョコを刻んでのせた「チョコチャイ」、ダークラムを加えた「ラムチャイ」の2種類も販売中だ(いずれもホットのみ、500円。3月ごろまでの販売を予定)。

同店のチャイは「こっくり濃い、おやつのようなチャイ」がコンセプト。シナモンとジンジャーをベースにカルダモン、クローブ、ブラックペッパーを少しずつ加えることで、スパイスの風味を感じられつつもクセが強くなりすぎず飲みやすいチャイに仕上げている。スパイス感を引き出すために、あえて甘めにしていることもこだわりだという。

同店代表の岩井幸奈さんは、都内で販売されているチャイを飲み歩いているうちに「もっとスパイス感が強い方が美味しいのでは」「もっと甘い方がいいのでは」と、自身にとっての“チャイの理想像”が徐々に膨らんでいったのだとか。スパイスを買い込んでオリジナルのチャイを淹れるようになり、チャイスタンドのオープンにつながったという。

「『あ、チャイ飲みたいな』と思ったときに気軽に立ち寄れる、日常に寄り添うようなチャイスタンドでありたいと思います」と話す岩井さん。現在は本業を別に持つ傍ら、今後もライフワークとしてチャイスタンドを続けていくそうだ。

「チャイ専門店」に行ってみた

東京メトロ日比谷線・中目黒駅から徒歩7分ほどの場所にあるチャイ専門店「カフェ モクシャチャイ 中目黒店」に行ってみた。インドと日本の2つの国のルーツを持つ日印ハーフのオーナーが、2017年に創業した「モクシャチャイ」ブランドの直営カフェで、2019年9月から週1,2回の限定営業を続けていたが、2021年4月に週5日営業のグランドオープンを果たした。本場インドのチャイを日本人好みにブラッシュアップした、香り豊かなチャイを提供している。

  • 大きな窓から光が差し込む、ナチュラルな雰囲気の「カフェ モクシャチャイ」店内。

定番メニュー「ロイヤルマサラチャイ(ホット)」(600円)をオーダー。創業オーナーである父のレシピで、シナモン、カルダモン、ジンジャー、ブラックペッパー、クローブの5種類のスパイスに、茶葉はアッサムを使用しているという。注文が入ってから厨房でチャイを煮出し始めるため、できあがりを楽しみにしながらしばし待つ。数分経ってから番号が呼ばれ、スパイスのいい香りを漂わせたできたてのチャイを受け取った。

ミルクがなめらかに泡立ち、見た目はカフェラテを思わせる。飲んでみると、紅茶の香りとミルクの甘さ、そして何よりスパイスの刺激的な風味が感じられた。ひと口にスパイスと言っても、シナモンやクローブの独特な甘い香り、ブラックペッパーやジンジャーのピリッとした刺激、カルダモンの爽やかさと、さまざまな香りが絶妙に合わさっているのが印象的。チャイを飲み始めてすぐに、体の中からポカポカと温まってくるのを感じた。

  • (左)体がポカポカと温まる「ロイヤルマサラチャイ」、(右)ビスケットをチャイにディップして味わうのが定番の楽しみ方。

同店の茶葉を使用した「焼きドーナツ」(チャイとのセット価格900円。味は週替わりで9種類)と一緒に楽しむのもおすすめとのこと。しっとりしたドーナツ生地とチャイの濃厚な甘み・香りの相性が抜群だ。また、同店ではビスケットをチャイにディップするインドで定番の楽しみ方も提案しており、チャイの豊かな香りを通して、東京にいながら遥かインドへ想いを馳せることができる。

「ご自宅でも手軽にチャイが作れるティーバッグ『レンジdeチャイ』などの物販品のみのご購入や、テイクアウトをされるお客様も多いです。売上の一部を、茶葉を輸入しているインドの茶園に対するインフラ整備の支援に活用しており、現地の労働環境や設備を改善してより美味しい茶葉を収穫できる体制を構築しています」(同店代表の大久保 カプール 玲夫奈さん)。夏にはフローズンチャイなどのシーズナルドリンクも提供する。

まだまだ寒いこの季節、ぜひチャイ専門店を利用して、スパイシーで体が温まる本格チャイを堪能してほしい。