次々に新しい料理や食材などが登場するとあって、『食のトレンド』は刻一刻と移り変わっていく。しかし、クライアントや職場の同僚と「あれ食べた? 」という話になることはよくある。そんなときに「……聞いたこともない」というのは、かなりマズい。この連載では、ビジネスマンが知っておけば一目おかれる『グルメの新常識』を毎回紹介していく。第44回は「ミクソロジー」。

  • 「メズム東京、オートグラフ コレクション」のバー&ラウンジ「Whisk(ウィスク)」の遊び心溢れるミクソロジーカクテル

「ミクソロジー」って何?

最近、日本で人気が高まっている「ミクソロジー(Mixology)」とは、mix(混ぜる)とology(~学)を合わせた造語。ジントニックやマティーニをはじめとする、スタンダードカクテルでは使われないような“素材”や“調理技術”を用いて自由な感覚で作る新感覚のカクテルを指す。具体的な素材としては、たとえばフルーツリキュールの代わりに生のフルーツを使ったり、フレッシュなハーブや野菜を取り入れたり、なかには味噌やみりんを使ったカクテルもある。カクテルの材料となるシロップや、ビターズと呼ばれる苦味を付けるためのリキュールを自家製する人も多い。また、調理技術としては、スモークの煙をまとわせたり、エスプーマ(泡)を用いたりするのがその一例だ。

もともとミクソロジーは欧米で健康志向の人や素材そのものを味わいたい人から2000年ごろより注目を集め、次第にアジアへも人気が広がった。ちなみにバーでカクテルを作る人のことは一般的にバーテンダーというが、ミクソロジーを作る人はミクソロジストとも呼ばれる。

「ミクソロジー」はどこで飲める?

主にバーで楽しむことができるミクソロジーカクテル。東京都内ではホテルのバーや街場のバーのメニューでミクソロジーの名前を目にすることが増えてきた。たとえば東京・銀座に2019年11月にオープンした「The CHOYA 銀座 BAR」もそのひとつ。

  • 「The CHOYA 銀座 BAR」のオリジナルカクテル「梅煙香」(ペアリングの「ローストビーフ 梅とバルサミコのソース」が付いて1,380円税別)

同店はチョーヤ梅酒が運営する、本格梅酒「The CHOYA」を使用したカクテルを提供する梅酒カクテル専門BAR。50種類以上の梅酒カクテルのうち、約15種類がミクソロジーカクテルだ。「The CHOYA」とチョコレートやサツマイモなどとの斬新な組み合わせや、エスプーマの技術など、新しい素材や技術を用いることでベースとなる梅酒の価値を引き出したという。

  • 「The CHOYA 銀座 BAR」のオリジナルカクテル「Golden Rod」(ペアリングの「梅あられ」が付いて1,280円税別)

ミクソロジーカクテルのなかでは、「梅煙香」(BAI EN KO)と「Golden Rod」が特に人気が高いという。「梅煙香」(BAI EN KO)は本格梅酒「The CHOYA」にベルモットとシェリー酒を合わせたもの。グラスに桜チップのスモークを封入しているので、フタを開けると煙が立ち上り、燻製香を楽しめる。「Golden Rod」は、本格梅酒「The CHOYA SINGLE YEAR」にバーボンやマンゴジュースなどを合わせたもので、酸味と甘みがほどよく調和。カクテルの表面には金箔が散らされ、見た目も華やかだ。

「梅酒カクテルの専門店ですので、梅の美味しさをしっかり実感いただけるようなカクテルを開発しています。当社の梅酒は添加物を加えないナチュラルなものなので、自然の恵みを邪魔しないよう、組み合わせる素材もできるだけナチュラルなものにしています。たとえば、オーガニックの梅酒を使用する場合はオーガニック素材のみで作り上げています」とチョーヤ梅酒企画広報推進部の坂本昌也さん。

すでにリピーターも多く、「梅酒の楽しみ方の幅が広がった」「こんな組み合わせが合うのか」など驚きの声が届いているそうだ。

「ミクソロジー」を飲んでみた

今回は2020年4月に東京・竹芝に開業したホテル「メズム東京、オートグラフ コレクション」内のミクソロジーカクテルを提供するバー&ラウンジ「Whisk(ウィスク)」でミクソロジーカクテルを飲んでみた。

同ホテルのコンセプトは、波のように絶えず変化する東京の“今”を伝統と革新の融合をもって新しく創出する、という意味を込めた「TOKYO WAVES」。バーもほかにはない新しいスタイルにしたいと考え、「アーティストのアトリエ(工房)」をテーマにしたミクソロジーバーにしたという。

  • メズム東京、オートグラフ コレクションの「アルジャントゥイユ」(2,000円税・サービス料別)

早速シグネチャーカクテルの「アルジャントゥイユ」を飲んでみた。このカクテルのモチーフになっているのは、フランスの印象派画家ルノワールの『アルジャントゥイユの庭で制作するモネ』という作品。パレット風の皿には、グラスのほかに絵の具のように見えるフルーツピューレ、筆を思わせる細長いスプーンが置かれている。

「モチーフとした作品が、モネが花の絵を描いているシーンなので、カクテルの表面にエディブルフラワーをあしらいました。真っ白なキャンパスをイメージし、カクテルにはあえて色を付けていません。途中で絵の具をイメージしたラズベリーとパッションフルーツの2種のフルーツピューレを入れると、味わいの変化、いわゆる“味変”もお楽しみいただけますので、絵の具でキャンパスに色を付けるように、自由にピューレを入れてお楽しみください」とマスターミクソロジストの長塩隆司さん。まさにWhiskのコンセプトである“アトリエ”を感じられる一品だ。

ジンベースにレモンジュースやカモミールシロップを合わせたカクテルで、すっきり爽やかな味わい。ジンの風味が強いので、フルーツピューレを入れても甘ったるくならず、最後まで味変しながら楽しく味わえた。

  • メズム東京、オートグラフ コレクションの「ヴィーナス」(2,000円税・サービス料別)

このほか演出がおもしろいのが、ルネサンスの画家ボッティチェッリの『ヴィーナスの誕生』をモチーフにしたカクテル「ヴィーナス」。木箱を開けるとスモークが広がり、貝がらの上にのったカクテルが現れるという演出で、女神ヴィーナスが出現するシーンを表現している。エルダーフラワーをベースとしたフローラルで華やかな味わいだ。

カクテルのモチーフとなっている絵画はさまざま。葛飾北斎の浮世絵やゴッホの『ひまわり』(いずれも冒頭写真)や、エドヴァルド・ムンクの『叫び』、キース・ヘリングやアンディ・ウォーホールなどアメリカ現代作家の作品など、ジャンルも幅広い。また、素材や技術だけではなく器も個性的で、哺乳瓶や盛船を使ったユニークなカクテルもある。

「見た目だけでなく、絵画に描かれている世界観全体をどうカクテルで表現するかを考えて、素材や器、提供方法も選んでいます」と長塩さん。どれも遊び心に溢れていて、何度も通って制覇したくなる。ちなみにノンアルコールへのアレンジも可能だ。

Whisk はホテルの16階にあり、大きなガラス窓からは、昼間は浜離宮恩賜庭園の緑や東京湾に注ぐ墨田川の流れが、夜は美しく輝く夜景が見える。宿泊者以外でも気軽に利用できるので、フラリと立ち寄るのもおすすめだ。

店ごとの個性やこだわりが光るミクソロジーカクテル。五感を刺激し、気軽に非日常気分を味わえる魅惑的なドリンクだ。