ブームは去ったかのようにも感じる「仮想通貨」ですが、その普及は世界中で着実に進んでおり、今後もさまざまなシーンでの活用が期待されています。本稿では、「仮想通貨に興味はあるけれど、なにからどう手を付ければいいかわからない」というような方向けに、仮想通貨に関連するさまざまな話題をご紹介。仮想通貨を2014年より保有してきた筆者の経験から、なかなか人には聞きにくい仮想通貨の基礎知識や歴史、未来像などもわかりやすくお伝えします。

今回のテーマは、「仮想通貨の哲学」。

  • 仮想通貨の哲学

ビットコイン:「お金」のインターネット化

そもそも、なぜ仮想通貨は生まれたのでしょうか? 世界初の仮想通貨は、世界中で知られているビットコインです。「『仮想通貨』という言葉を知らなくてもビットコインは知っている」という方もいらっしゃるかもしれません。

ビットコインは、サトシ・ナカモトと名乗る人物(あるいはチーム)が、2008年10月31日にクリプトグラフィー(暗号技術)メーリングリストに1つの論文を公表したことがスタートになっています。

ビットコインは、学会の論文ではなくネット上の論文から生まれました。このいわゆる『サトシ・ナカモト論文』は、インターネットで簡単に見つけることができます。

タイトルは『Bitcoin: A Peer-to-Peer Electronic Cash System』です。画期的な発明と言われる論文のため、長大な内容をイメージする方もいるかもしれませんが、実際は注釈を含めても9ページしかありません。

論文の構成は、以下のとおりです。

1.イントロダクション
2.電子通貨の取引
3.タイムスタンプ・サーバー
4.プルーフ・オブ・ワーク(演算量証明)
5.ネットワーク
6.ネットワーク参加者への報酬
7.使用ディスクスペースの節約
8.取引の簡易検証法
9.電子通貨の結合と分割
10.プライバシー
11.数学的根拠
12.結論

私は、サトシ・ナカモト論文のポイントは、次の6点だと思います。

・中央サーバーを置かず、ネットワーク上の端末同士をつなぐ「P2P(ピアツーピア)」の仕組みを使えば、中央管理者(金融機関)を経由することなく電子通貨を直接取引することができる。

・電子署名のシステムは、二重支払いを避けるため信頼に足る第三者による監視を必要とする限り、完全なものとは言えない。

・取引履歴のつながり(チェーン)そのものを、電子通貨と定義する。

・すべての取引をネットワーク上に公開し、それをネットワークの参加者が承認することで、取引情報のコピーや改ざんが技術的にきわめて難しく、コストに見合わないものにする。

・ネットワークにつながった善意の参加者の持つCPUパワーの総体が、不正を働こうとする者たちのCPUをはるかに超えている限り、システムの安全は保たれる。

・第三者を介さない、信頼というものに依存しない仕組みを構築することで、低コストで安全に取引できる電子通貨が可能となる。

ここからは私の意訳ですが、

「今はインターネットがあるので、文字やデータを、メールなどで世界中にすぐに送ることができる。コストも安い。一方で、お金のやり取りは不便である。金融機関の営業時間に影響されるし、ATM手数料や振込手数料がかかる。海外送金は手数料が高い上に着金まで何日もかかる。中央管理者が不要になれば、お金のインターネット化ができるのではないか」

というのが、サトシ・ナカモト論文の趣旨だと思います。

リップル:「価値」のインターネット化

ビットコインと同じように有名な仮想通貨であるリップル(XRP)は、2004年にプログラマーのライアン・フガー氏が発表した論文がもとになっています。論文のタイトルは『Money as IOUs in Social Trust Networks & A Proposal for Deccentralized Currency Network Protocol』です。

サトシ・ナカモト論文が発表されたのは2008年ですから、理論としてはリップル(XRP)の方が古いということになりますね。

ビットコインが「お金のインターネット化」を目指して作られたものであるのに対し、リップル(XRP)のミッションは、「価値のインターネット(Internet-of-value/IoV)」であるとされています。

世界中のあらゆる価値(お金に限らず、不動産やゴールドなどの現物資産、知的資産などを含む有形・無形の価値)を、簡単かつ速くやり取りできるようにすることで、社会のあり方を根底から変えようという思想があります。

「手紙などの文字情報はEメールのプロトコルがあり、全世界に簡単かつ速く送信できる。ところが、価値(お金)を送るプロトコルは発明されていない」と考えたのがライアン・フガー氏でした。

お金に限らない、あらゆる"価値"のインターネット化ができれば、手のひらサイズのスマホでできることがまた広がりますよね。

仮想通貨は暗号技術者たちの戦いの歴史の上にある

今では有名になったビットコインやリップル(XRP)も、論文がきっかけとなって誕生しました。サトシ・ナカモト論文が投稿されたのは、暗号理論に関するメーリングリストですから、論文を読んだのは暗号技術者でしょう。エンジニア・プログラマーのなかでも、かなりニッチな技術者だと思います。

暗号技術者たちが見るメーリングリストに投稿された論文がもとになり、暗号技術者たちが開発に関与したのがビットコインですから、世界では「Crypto Currency(クリプト・カレンシー)」と呼ばれています。日本では「仮想通貨」という名称で定着していますが、「暗号通貨」が表現としては正しいでしょう。

暗号技術者たちは、戦時中やあるいは戦後も、国家や国民を守るために戦っていました。政府が解読できない暗号技術を開発することが違法であったり、暗号技術を国外に持ち出すことが「武器の輸出(密輸)」とされ、極刑に処されたりする時代もあったとされています。

そんな時代でも、暗号技術者たちは、暗号技術が国民の自由やプライバシーを守るという信念を持って戦い続けていたわけです。暗号技術者たちの信念や戦いが、ビットコインを始めとする暗号通貨へとつながっているのだと私は思います。

そんな背景を知ると、「ただの投機」や「詐欺や資金調達の手段」となってしまっている業界の現状は、なんだか残念ですよね。

リップルの初期構想はフュージョンバンクが実現か

ビットコインも、かつては武器や麻薬の密売など、犯罪の決済手段として悪用されていました。しかし、未来は徐々に正しい方向に向かっていくと思います。国や地域によっては、まだまだ怪しいものと言われることのある仮想通貨ですが、仮想通貨を支えるブロックチェーンは、テクノロジーとして進んだ技術です。その技術を、モラルを持った人たちが正しい方向に進めないといけません。

第26回33回45回49回の記事でご紹介した「フュージョンバンク」(FUSION BANK)は、仮想通貨と法定通貨を取り扱う新しいタイプの銀行を目指しています。

ビットコインはどちらかというと、「中央管理者(銀行・金融機関)へのアンチテーゼ」的な思想が見えますが、銀行・金融機関に高い信頼性と歴史があることも事実です。敵対するのではなく、フィンテック・ブロックチェーンという新しいテクノロジーと、既存の銀行・金融機関がお互いの良いところを取り入れることで、仮想通貨の普及が進むのではないでしょうか。

リップル(XRP)は、すでに世界中の銀行・金融機関でそのシステムの導入が検討されています。初期構想にあった「価値のインターネット化」とはややズレてきているようにも感じますが、フュージョンバンク(FUSION BANK)がライアン・フガー氏の初期構想を実現するかもしれません。

2016~2017年頃の仮想通貨ブーム時は、単に期待値だけで多くの仮想通貨の価値が高騰した印象がありますが、今後は実需の創造や信頼性の向上がキーになるでしょう。

次回は、「仮想通貨の時価総額でなにがわかる?」についてご紹介します。

執筆者プロフィール : 中島 宏明(なかじま ひろあき)

1986年、埼玉県生まれ。2012年より、大手人材会社のアウトソーシングプロジェクトに参加。プロジェクトが軌道に乗ったことから2014年に独立し、その後は主にフリーランスとして活動中。2014年、一時インドネシア・バリ島へ移住し、その前後から仮想通貨投資、不動産投資、事業投資を始める。
現在は、SAKURA United Solutions Group(ベンチャー企業や中小企業の支援家・士業集団)、しごとのプロ出版株式会社で経営戦略チームの一員を務めるほか、バリ島ではアパート開発と運営を行っている。監修を担当した書籍『THE NEW MONEY 暗号通貨が世界を変える』が発売中。