歌手・女優・モデル・芸術家としての顔を持つ、“創作あーちすと”のん。約5年半ぶりの実写映画『星屑の町』(3月6日公開)には多方面での経験値が注ぎ込まれ、彼女にとっては「今まで積み重ねてきたことが集結しているような作品」となった。

演じるヒロイン・久間部 愛は、一度は歌手を夢見て上京するも、ある理不尽な出来事によって東北の田舎町に戻ってきた女性。夢破れて自暴自棄……になるかと思いきや彼女はひたすらに前を向き、地元を訪れたコーラスグループ・ハローナイツとの出会いによって輝きを取り戻し始める。笑いあり、歌あり、涙あり。キャッチコピーの「人生は、いつだって輝ける」は、のん自身とも重なり合う。

この役柄について、のんは「すごく似ている」とうれしそうに話す。彼女のモチベーションや仕事の原動力、そして生きる源となっているものは一体何なのか。俳優・女優のターニングポイントに焦点を当てるインタビュー連載「役者の岐路」の第10回は、固定概念にとらわれない唯一無二の肩書き“創作あーちすと”のルーツに迫る。

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    “創作あーちすと”のん 撮影:富田一也

■“自由”を共有した人物「今思うと、無敵な二人」

――約5年半ぶりの実写映画。オファーがあった時、率直にどのように思われましたか?

コメディのお話を頂いたことがまずはうれしくて。ベテランの名優の方々がここまで集結する作品も珍しいと思いますので、そこに加えて頂けることはすごく幸せなことだと感じました。それから、役者としては修行にもなるかなと。

――個人的に引き込まれたのが、「新宿の女」の弾き語り。ハローナイツに入ることを認めてもらうため、メンバーに歌声を披露するシーンでした。

ありがとうございます。愛ちゃんが初めて歌うシーンなので、役柄としては熱い気持ちが一番高まっているところ。撮影に備えて、藤圭子さんの歌声をボイトレの先生と聴きながら参考にさせて頂いて、練習を重ねてから本番に臨みました。

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  • (C)2020「星屑の町」フィルムパートナーズ

――のんさんにとって、「役として歌うこと」とは?

物語には感情の流れがあって、いろいろな条件によって「どのように歌うのか」が決まります。そこを構築していくのは、自分自身で歌うよりは考えることが多いというか、定まって歌うことができると思います。その役が物語の中でどのように感じて、どのように生きているのか。そこを捉えて現場に臨んでいますが、監督との擦り合わせも必要なので現場で変更することもあります。

――そうした中で愛の人柄をどのように受け止めたんですか?

超ポジティブな人だと思います。挫折して暗い気持ちになってて、そこから徐々に元気と自信を取り戻していく人なのかなと思って台本を読んでいたんですけど、監督とお会いして本読みをした時に、「台風の目になってほしい」と言われて。周囲を巻き込んでいく存在であることが最初に理解できて、劇中のような愛ちゃんになりました。幼なじみの星一さんが、「愛ちゃん、全然へこたれてない」というシーンがありますが、本当にそのままの人。東京で挫折して地元に帰ってきているのに、全く希望を失っていない。本当に超ポジティブな人なんです。

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――人前では落ち込んでいるところを見せないタイプなのかもしれませんね。

そうですね。落ち込んでも自信は失わない人。何よりも自分の歌に自信があって、自惚れてる(笑)。愛ちゃんは、そこが原動力になっていると思います。ちょっとの自惚れも大事なのかもしれないですね。

――ご自身と比べていかがですか?

何があっても、「自分には才能がある」と信じ切っているところはすごく似ていると思います。自惚れているところも、共感してしまいます(笑)。

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――幼い頃から?

物心ついた時から根拠のない自信がありました(笑)。子どもの頃って、みなさんそうですよね。夢に対して、根拠のない自信や希望がある。それが年齢を重ねるごとにいろいろなことを知って、根拠のない自信は消えていくものだと思いますが、それがずっと持続しています。これは何かで身につけたものではなくて、生まれた時から(笑)。

――何が影響してそうなったのか……(笑)。

分からないんですよね……気がついたら鏡の前でポーズとったりして、そんな自分の姿が好きで。お母さんも気分を乗せてくれるので、それで調子に乗っちゃったのかもしれません(笑)。

あと、同い歳のいとこが隣の家に住んでいて、小さい頃からずっと一緒に遊んでいました。今思うと、無敵な二人(笑)。お互い乗せ合って、調子に乗った蓄積が今も生きているんだと思います。

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――今も交流はあるんですか?

その時と関係性は変わりましたが、今でもめちゃめちゃ仲良いです。一度は疎遠になって、二人とも社会人になってから再会すると、やっぱり居心地が良くて。波長が合っていると改めて感じました。

――そういう関係性も含めて、親御さんの教育からも良い影響を受けたのかもしれないですね。

私が二人姉妹で、いとこが三人きょうだいだったんですけど、お母さんは5人で遊びに行くことをいつも勧めてくれて。そうやって、「子どもたちだけの世界」を作ってくれたので、いつも探検することが楽しかったですし、たくましさも養われました。田んぼに入ったり、山登ったり。自分たちの足でどこへでも行けるワクワクがありました。

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――そこから芸能界への憧れが芽生え始めるんですか?

子どもの頃は全然なくて。そもそも、「芸能界」というものを認識していなかったんです、「テレビの中に入りたい」「芸能人になりたい」みたいな願望もなく。私は関西の兵庫県出身で生まれながらのお調子者(笑)。小学生の頃、いとこと友達と3人で、「吉本入る!」「お笑い芸人になる!」と盛り上がってトリオを組んで、コントを作ったこともありました(笑)。

――吉本を目指していたとは(笑)。ということは、「人を楽しませること」がのんさんのルーツになっているんですかね。

そうだと思います。コメディ大好きです。コメディの作品にどんどん出ていきたいと思っているので、今回のオファーもすごくうれしかったです。