「人生100年時代」と言われる現代。20代でも早いうちから資産形成を進めることが求められています。一方で、どのように投資・資産運用の目利き力を磨いていけばいいのか、悩んでいる方は多いのではないでしょうか。

この連載では、20代の頃から仮想通貨や海外不動産などに投資をし、現在はインドネシアのバリ島でデベロッパー事業を、日本では経営戦略・戦術に関するアドバイザーも行っている中島宏明氏が、投資・資産運用にまつわる知識や実体験、ノウハウ、業界で面白い取り組みをしている人をご紹介します。

今回は、ビットコイン草創期から業界を牽引してきたビットバンク株式会社 代表取締役CEOの廣末紀之氏にお話を伺いました。

  • ビットバンク株式会社 代表取締役CEO 廣末 紀之氏/野村証券株式会社を経て、GMOインターネット株式会社常務取締役、ガーラ代表取締役社長、コミューカ代表取締役社長など数多くのIT企業の設立、経営に従事。2012年ビットコインに出会い、2014年にはビットバンク株式会社を設立、代表取締役CEOに就任。日本暗号資産取引業協会(JVCEA)理事、日本暗号資産ビジネス協会(JCBA)会長を務める。

ビットコインの美しさに大きなパラダイムチェンジを観た

――本日は、ありがとうございます。廣末さんのご経歴やビットコインとの出会いについて教えてください。

1991年に野村證券に入社し、リテール営業や営業企画、人事などを8年間で経験しました。インターネットが90年代後半に出てきて、「ヒトモノカネ情報」と言われる経営資源のなかで「情報」が特に重要になる時代になると感じました。

それで99年からIT業界に行き、IT業界の変遷を見てきました。当時はまだまだマスメディアが全盛で影響力が強大でした。就職先の人気ランキングでも、テレビ局や新聞社、出版社などのメディアが上位を占めていました。

ところが、インターネットが登場したことで中央集権的だったメディアが分散化され、個人でも情報発信ができるようになりました。「フラットな世界が来る」「業界の構造が変わり、社会も変わる」と感じて。IT業界に入ってからは、新しい技術と触れる機会も自然と増え、勉強の日々でした。それで、2012年にたまたまビットコインと出会いました。

――2012年と言うと、まだビットコインが誕生して3年ほどですね。私が出会った2013年も「ビットコイン」とカタカナで検索してもほとんど情報が出てきませんでしたから、もっと情報が少なかったのではないでしょうか。私の場合、たまたま学生時代に経済学者のフリードリヒ・ハイエクの『貨幣発行自由化論』を読んだことがあり、「中央銀行は必要ない」という強烈な言葉が印象に残っていました。単に「送金が速くて手数料が安い」というビットコインの利便性もシンプルに良かったのですが、今と比べて情報は少なかったですよね。

そうですね。調べても文献が出てこず、一番語られているのがアメリカ版2ちゃんねるの「Reddit」というサイトで、そこのスレッドをチェックして勉強しました。

デジタルマネーはビットコイン以前にもあったのですが、構造自体が不十分で、詐欺や使いものにならないものが多かった。ですが、ビットコインはよくよく調べるとすごい。ビットコインの構造を調べていたら、「ブロックチェーン」「PoW」「マイニング」などの知らない言葉が出てきて、さらに興味を持ちました。

――最初からスッと入ってきましたか?

最初は理解できなかったですね。理解するのに、半年かかりました。ストラクチャーを見たときに、「お金のインターネットの原型」と感じ、構造がシンプルで美しかったのを覚えています。

この仕組みが動くと証明されれば、銀行や証券などの中間業者が必要なくなり、大変革が起こると直感しました。信用保証作業がいらない「トラストレス」という点も信じられないくらいの驚きで、初めてウェブにアクセスしたときの衝撃と似ていました。

ビットコインMeetUpとマウントゴックス事件

――その後は、どっぷりとビットコインの世界に?

はい。当時、世界最大のビットコイン取引所マウントゴックスが渋谷にあった関係で、渋谷でMeetUpがあり、そこで「どうすればビットコインは普及するか?」を議論していました。

参加者のほとんどが外国人でしたが、マウントゴックスのCEOだったマーク・カルプレス、ビットコインジーザスとして有名なロジャー・バー、Binance CEOのCZ(Changpeng Zhao)などがいて、楽しかったですね。

――マウントゴックス事件は、ビットコインの歴史のなかでも象徴的な事件でしたよね。私はあの事件で、「ネガティブなニュースでも、認知が広がれば長期的には価値は上昇するものなのだ」と学びました。廣末さんはマウントゴックス事件を振り返ってみてどんなことをお考えになりますか?

ある種のストレステストで、生き残れるかどうかを試されたのだと思います。確かに当時は「ビットコイン倒産」などの誤った見出しがメディアに出たり、「詐欺だ」と叩かれたりしました。しかし、ビットコインの仕組みを理解していれば、「この事件はビットコインのせいではない」ということも理解できます。

混乱の最中でも正確に動くブロックチェーンを見て、ビットコインのネットワークの強さを確信しました。事件のおかげでより感激し、生き残ると確信する機会になりました。

素晴らしいものだから社会に広めていかないといけない

――その後、ビットバンクを創業されるわけですね。

2014年5月にビットコインバンク構想というものを作って、仮想通貨関連事業を主業とするビットバンクを設立しました。これだけ素晴らしいものだから広めていかないといけないという使命感もありました。また、社会の99%がビットコインを誤解していると思っていましたから、そこにビジネスチャンスがあると。きちっと管理ができ、機能を持っているという意味で、社名に「バンク」と付けました。

ビットコインの最大のインパクトは、データの真正性を証明したことです。「データは改ざんができるもの」というのが当たり前でしたが、ビットコインの登場で「改ざんできない世界」を実現しました。それも分散型で、中央集権でなくてもできた。これは大きなことです。ビットコインの素晴らしい点は、ブロックチェーンそのものというよりも、PoWや公開鍵暗号方式をブロックチェーンとうまく組み合わせて、改ざんできない非中央集権ネットワークを作り上げたところだと思います。

人間は本来、フリーでフラットを望む生き物だと思います。フリーでフラットとは、つまりは分散型(非中央集権)です。しかし、時間の経過とともに自然と中央集権的になってしまう。中央集権に不便さや不満が募ると、また分散型の方にいく。人類の歴史は、このように中央集権化と分散(非中央集権化)を繰り返してきましたが、今は「分散」のフェーズだと考えています。

ビットコインはまさに「お金という価値のインターネット化」ですが、インターネットも当初は「こんなものは使えない」と思われていました。データの改ざんやデータが盗まれることが日常茶飯事だったからです。しかし今ではインターネットを使うことは当たり前で、欠かせないものになりました。今後も波はあると思いますが、ビットコインも最終的にはその地位を確立する。方向としてはそっちですね。

――コロナバブルの影響でビットコインなどのメジャーな仮想通貨(暗号資産)が高騰し、また下落しましたが長期的には誤差の範疇だと感じています。ビットコインに再び冬の時代が来るとしても季節は巡りますから、ビットコインが持つ可能性を信じ続けられるかどうかが大切だと思います。

次回は、業界の今後について伺います。