幼少期から熱血ドラマオタクというライター、エッセイストの小林久乃が、テレビドラマでキラッと光る"脇役=バイプレイヤー"にフィーチャーしていく連載『バイプレイヤーの泉』。

第95回は俳優の赤楚衛二さんについて。現在『石子と羽男ーそんなコトで訴えます?ー(以下『石子と羽男』略)』(TBS系)に出演中の赤楚さん。彼をめぐるワードを書き連ねていくと「子犬」「困ったちゃん」「弟系」「悲愴」という、男性なのに守ってあげたい言葉が浮かんでくる。かっこいいのに。ただこれらワード、彼が今まで演じてきた役柄へ気持ち良くフィットしているのはなぜだろうか。その理由を探しに行く文章へ、いざ。

ただの幸せだけには留まらない、役柄の連打

  • 赤楚衛二

まずは彼が出演中の『石子と羽男』のあらすじを。こちらのドラマ、主に1話完結で制作されている。最終回間近の今見ても十分に楽しめることだけは、初回から見ている私が保証したい。

潮法律事務所に弁護士として現れたのは、羽根岡佳男(中村倫也)。見たものを一瞬で記憶する能力を持ち、周囲からの「見られ方」をひたすら気にしている。彼のパラリーガルとしてタッグを組むのは、事務所経営者の娘である石田硝子(有村架純)。羽根岡とは正反対の真面目な性格で、時に弁護士よりも優れた力を発揮する。ただこの二人に差し出される相談内容は"町の弁護士さん"に寄せられるような、身近な内容のものばかり……。

このドラマで注目していることがいくつかある。まずは有村架純さんのスタイルの良さが際立つ、メリハリカラーの衣装だ。毎回、意志の強さを示すように、ブルー、グリーン、オレンジなどパキッとした色を選んで、見事に着こなしている。それから、硝子の衣装のカラーパワーが祟ってしまったのか、意思疎通の全く取れない、羽根岡と硝子の凸凹コンビぶり。『リーガル・ハイ』(フジテレビ系・2012年)で見た古美門研介(堺雅人)と、黛真知子(新垣結衣)のような雰囲気が随所に現れている。その様子、見ていて愉快痛快だ。

あとは硝子を巡る男たちの戦いだろうか。彼女に横恋慕していたのは、蕎麦屋の店員・塩崎啓介(おいでやす小田)と、赤楚さん演じる大庭蒼生(おおば・あお)。ここに羽根岡も参戦すると思いきや、そうでもないらしい。ただ硝子のハートは、学生時代から彼女をずっと見てきた大庭くんの優しさによって、割れないようにそっと包まれた。二人は見事カップル成立! めでたし、めでたし……と、なるわけがなかった。

人生経験値が上がるほど、染み渡る赤楚の魅力……

「……何かある」。大庭くんの登場が最初から何か匂わせるものがあった。硝子とつき合ったところで、彼の存在が万事休す、というわけでもない。この予感が示す通り、次回、9月9日の放送では大庭くん、なんと放火犯にされてしまうらしい。ついでに大庭くんの就職した先も、怪しい。よく西新宿で勧誘をして、拠点にしているネットワークビジネスと同じ匂いが漂ってくる。

さらに私が予想したのは理由がある。彼の出演した作品で、視聴した限りではどうも罪や重責を背負う、卑屈、何かを抱えているというパターンの役が多い。

『SUPER RICH』(フジテレビ系・2021年)の春野優は、実家の経営が不安定な印刷工場を支えていた。ただ最終的にだいぶ年上の好きな女性と結婚できた……というシーンは最高だったので、ここはよし。そして『彼女はキレイだった』(フジテレビ系・2021年)での、雑誌編集部員・樋口拓也は、実は人気小説家の楠瀬凛だったとラストで身分を明かして、編集部から去っていく。それは閉刊の危機に瀕した所属雑誌、そして好きだった(はず)女性を守るための決断。なんだかラストは寂しそうだった。

他にも『ウチの娘は、彼氏が出来ない!!』(日本テレビ系・2021年)では、映画主演作にわがままを言ってしまう、人気バンドマン。『監察医 朝顔 第2シリーズ』(フジテレビ系・2020年)では、隣人の殺人犯と疑われる男性。ともにゲスト出演だった。そして彼のブレイクの起点となった『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』(テレビ東京系・2020年)の安達清役も、当初は「どうせ俺なんて……」と、地味な自分を卑屈に捉えていたことを思い出す。

並べてみると「幸せいっぱいです!」というイメージの役で、彼にお目にかかったことはないけれど、キャスティングしてしまう気持ちはよくわかる。あんなナチュラルに庇護欲をそそるビジュアルは、広い芸能界でもそんなにはいないはず。今後の彼のキャスティングに幸あれ! という気持ちも湧かないわけではないが、このままでも……いいのでは……? とも少し期待してしまう。恐るべし、庇護欲。

おそらく彼の良さは20代では分からなかった。酸いも甘いも、ついでに辛みも散々味わってきた身になった今こそ、彼の良さは五臓六腑に染み渡る。いい、すごくいい。下手な漢方薬よりも、ずっと効果がある。そして『石子と羽男』に登場する、赤楚さんをつい見守ってしまうのだ。