幼少期から熱血ドラマオタクというライター、エッセイストの小林久乃が、テレビドラマでキラッと光る"脇役=バイプレイヤー"にフィーチャーしていく連載『バイプレイヤーの泉』。

第96回は女優の佐津川愛美(さつかわ・あいみ)さんについて。現在、朝ドラ『ちむどんどん』(NHK総合)に出演中。満を辞してなのか秋からは『夫婦円満レシピ~交換しない?一晩だけ~(以下『夫婦円満レシピ』略)』(テレビ東京系・10月スタート)に主演する佐津川さん。デビューから今日まで、奮励したであろう……? という道筋に触れてみたい。

ついに手に入れた清恵の幸せの行方は?

佐津川愛美

まずは10月から始まる新ドラマ『夫婦円満レシピ』のあらすじを。

ライター、そして一児の母である仁科志保(佐津川)と、夫の仁科浩介(千賀健永/Kis-My-Ft2)は周囲からは理想的な夫婦と見られている。ある日、浩介から志保とだけはセックスができない、と衝撃的な告白をされてしまう。ついにはお互いの性欲を満たすために、違うパートナーとのセックス=スワッピングを提案されることに。

連続ドラマ初主演、そして夫役が現役アイドルでありながら刺激的な内容を期待できる『夫婦円満レシピ』。地上波では取り上げにくい題材に感じるけれど、そこはドラマ制作に関して自由の泉である、テレビ東京さんに期待を寄せたい。

と、新作に関しては本当に何も見ていない状態なので、大きな感想はない。でも佐津川さんといえば、9月いっぱいで最終回を迎える『ちむどんどん』に猪野清恵役として出演中だ。作品ではかなりの問題児と注視されていた、ニーニーこと比嘉賢秀(竜星涼)と無事に結婚をして母になり、実家の養豚場を継ぐことに。昭和中期には偏見も多かったであろう、離婚歴を超えて新しい幸せを手に入れていた。もう登場の瞬間から、二人が最終的に結ばれるのだろうという予想は全視聴者が立てていたはず。それを裏切ることなく物語は進んだけれど、個人的には佐津川さんの登場が「……おっ!」と唸らせるものがあった。

何故ならとにかく多くの作品に主演、助演として出ている人なのである。このコラムを書くために初めて検索したけれど、14歳から芸能界入りをしているとはいえ、労働基準法も真っ青の働き方をしている。テレビドラマだけでも、本年は約6作品に、映画と配信ドラマにそれぞれ1本出演。過去を振り返ると、もっとハイペースで出演している一年間もある。出演する需要と供給の合致とはこういうことなのだろうか。

アニメ声を超えた三十路の美しさと艶やかさがここに

彼女の姿をしっかりと認識したのは、遅ばせながら『最後から二番目の恋』(フジテレビ系・2012年)だ。この世で敬愛するドラマのベスト5に入る作品に、佐津川さんは突然、いや唐突に出演された。小泉今日子、中井貴一、飯島直子、内田有紀、坂口憲二。主要キャストを見ただけでも、冠婚葬祭が一気に1カ月で100件ほど押し寄せたような気配。そんな中に突然知らない新人女優さんが現れて、中井さんや坂口さんと恋愛の絡みをしていた。

結局、佐津川さん演じる大橋知美は、坂口さん演じる長倉真平と夫婦になるのだが、当初の二人の仲は喧々囂々。途中「おい、(あだ名で)金太郎!」「このアニメ声!」のようなセリフで、知美をからかうシーンがあった。これには「よくぞ言った!」賛同してしまった。そう、佐津川さんの特徴は耳に残音するアニメ声だった。これが私の第一印象というか、彼女から感じた爪痕。顔の造形美でもなく、声が残った。

その後も彼女の演技はよく見かけた。ドラマオタクで年柄年中テレビを見ていると、否が応でも目に飛び込んでくる。それも佐津川さんは、とんでもないペースで仕事をしているのだからこちらが「あ、また」と思うのも当然だ。そしてこの数年で変わったのは、声が演技に引っ掛からなくなったこと。34歳にもなると、女性でも声は太くなる傾向がある。その人体成長なのか、隙あらばと言わんばかりに場数を踏んだ成果が現れたのか。『ちむどんどん』では、彼女が持つ、本来の美しさが際立っていた。

この秋からは連続ドラマ初主演と、また佐津川さんの見える景色は変わってくる。いつかどこかで機会があったら、ハイペースで助演を続けていた時期はどんな思いだったのか、本音を伺ってみたい。そこには彼女しかなし得ることのない大きな物語があるはずだ。