幼少期から熱血ドラマオタクというライター、エッセイストの小林久乃が、テレビドラマでキラッと光る"脇役=バイプレイヤー"にフィーチャーしていく連載『バイプレイヤーの泉』。

第52回は現在放送中のドラマ『ディア・ペイシェント』(NHK総合ほか)に出演している女優の内田有紀さんについて。アラフォー女性、感動レベルのビジュアルを持って、44歳だそうです。ただ造形美というだけではなくて、ちょうどいい温度の女らしさを放出していることが気になります。今夏の殺人的な酷暑ではなく、あくまでも適温。同じようにバイプレイヤーとしても絶妙な位置に立つ、内田さんについてつらつらと。

正しく、優しく包み込む内科医役に

総合病院で起きるペイシェント=患者との、関わり方、トラブルについて語られていく作品。真野千晶(貫地谷しほり)は内科医として、中規模総合病院に勤務する。それまでは大学病院に勤務していたが、自分の「患者を診療する」というシンプルな医師像に立ち戻りたいという希望から転職をした。病院内には日々、たくさんの問題が巻き起こる。ついにはモンスター・ペイシェントから目をつけられてしまうことに……

と、いうのが『ディア・ペイシェント』のあらすじ。内田さんは主人公・真野千晶の先輩に当たる浜口陽子を演じている。何かと患者から振り回されることが多い千晶にとって優しく、正しい判断をしてくれる存在だ。ただ陽子本人も、医療訴訟を抱えている。これからこの問題とどう向き合っていくのかもドラマの見どころだ。

内田有紀

この作品、私が今ハマっているドラマのひとつ。クレーマーが患者であることというのは視点がある意味、斬新。ウイルスと暑さ、日本に住む人が生命の危機と隣り合わせで生きるような夏になってしまった。いつかは終わることだとわかっていても、やはりストレスは積み上げられていく。今もSNS上や各所で、去年までは考えられなかったクレームが勃発している。千晶や陽子に向かって、理にかなわないことを吐き出してくる患者を見ていると、なんとなく既視感を感じる。そしてふと我が身を振り返って、自分は大丈夫だろうかと心配をする。自己分析なんて、都合のいいように解釈してしまうものだ。

このドラマは"モンスター・ペイシェント"にならないための注意喚起をしているように思う。それから千晶を通した、仕事への向き合い方も見て欲しいシーンだ。

多くを語らないことが若さと美しさの秘訣?

ひょっとしたら、マイナビニュース読者さんの間に内田さんは『ドラマでよく見かける女優さん』という認識ではないだろうか。それも間違ってはいないのだけど、かつてはあの小室哲哉も楽曲を提供する、伝説級のアイドルだったことを知っているだろうか。ちなみに私は彼女のファンだった。というよりも、今から25 年ほど前に内田有紀のことを嫌いな人はいなかったのではないだろうか。この原稿を書きながらもカラオケでいまだに十八番の『幸せになりたい』が脳内を流れている。

アイドルには貴重な、ショートカットが可愛らしかった。出演する作品は軒並みヒット、あのトップ俳優の小栗旬さんが彼女の熱血ファンだとテレビで公言していたこともある。ファン、一流プロデューサー、同業。たくさんの熱い支持を受けながらも、プライベートを多く語っていなかった印象がある。

今日日のタレントさんは大変だと思うのが、SNSの普及だ。カメラの前だけではなく、自分の生活を匂わせることでまた世間の話題をさらっていく。24時間体制で仕事をしているようなものだけど、それだけ親近感が湧いてくるというもの。でもぶっちぎりアイドルだった頃の内田さんは何も匂わせず、静かに女優となって、一度は嫁になった。

数年後にまた独身となって私と同じゾーンに戻ってきてくれた頃からだろうか? 文字にするのはおこがましいけれど、演技に人間味が増した気がする。特に『最後から2番目の恋』(フジテレビ系 2012年)で、奇妙なコーディネートと口調の引きこもり系の長倉万里子を演じたときに、魅力が再爆発した気がする。作品内で主役の吉野千明(小泉今日子)が、無理に女らしいスタイリングにさせたシーンがあった。でもニュートラルに戻ると、万里子がただの可愛い内田有紀になっていたことを思い出す。それだけ、ちょっと変わった役へのスイッチが入っていたのだと納得。

今も内田さんは、SNSはおろかプライベートを語らず、美の秘けつも公開しない。でもそれは時代錯誤なのではなくて、彼女がエイジレスであり続ける策なのだと信じたい。