悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、やりたいことがあるのに、仕事に追われて思うように進まない、と悩んでいる人のためのビジネス書です。

■今回のお悩み
「個人的に英語を勉強したいが、実務に追われて思うように進んでいない」(55歳男性/IT関連技術職)

  • 仕事に追われて「やりたいことができない」と感じている方へ


これまでにも何度か指摘してきましたが(いや、そもそも僕ごときが指摘などをするまでもないのですけれど)現代の職場環境がバランスを欠いたものであることは、残念ながら事実なのではないでしょうか?

人が減らされれば、その分の仕事は残された社員に回されることになります。だとすれば、彼らの時間が減っていくのは当然。ですが当人にしてみれば、それはたまったものではありません。

時間は有限ですし、今回のご相談のように「やりたいこと」を削らなくてはならなくなることもありうるのですから。

「カラオケをする時間がなくなる」など、遊びの時間が減るのであれば、まだ我慢はできるかもしれません。しかし「英語の勉強」は、仕事に直結する可能性もあります。なのに、そのための勉強ができなくなるというのは理不尽であり、つらいことでもあるでしょう。

ただ、これも何度か書いてきたことですが、システムを変えられない以上は、それを受け入れるしかないと個人的には思います。納得できない部分はあるでしょうが、つらさを抱え込んで精神的に追い詰められたのでは、逆に損だからです。

では、どうすればよいか? やはり、時間を有効に使うことに尽きるのではないでしょうか? 時間が足りないのは動かしようのない事実なのだから、その時間をより有効に使うしかない、いや、より有効に使うのがベストだという考え方です。

「足し算の発想」に切り替えよう

『やりたいことを全部やる! 時間術』(臼井由妃 著、日経ビジネス人文庫)の著者は、「時間がないから、○○できない」というのは言い訳に過ぎないと感じているのだそうです。その背後にあるのは、自身の経験。

もともと専業主婦だったものの、病気のご主人に代わって突如社長を任されることになったのが33歳のとき。当時は「時間がない」が口癖で、文字どおり時間に追われる日々を送っていたといいますが、そんななか、自身が発明した商品が大ヒット。

かくして社長業の忙しさがピークに達したとき、どうしても仕事に関する資格の取得に挑戦したくなったというのです。なぜなら、それが自社の商品開発に役立つから。そして、世間から「素人のまぐれ当たり」といわれるのを見返したかったから。

社長業は忙しく、勉強する時間などとれなかったといいますが、どうしても資格を取得したかったため「やればできる!」と決意。時間をやりくりした結果、短期間で目標の資格を取得。本業に悪影響を及ぼすようなこともなく、むしろ年商を2桁成長させたのだといいます。

人が何かをやりたいとき、時間がそれを拒絶することはない。私はそのことを、通説に実感しました。(「はじめに」より)

  • 『やりたいことを全部やる! 時間術』(臼井由妃 著、日経ビジネス人文庫)

本書ではそんな経験を軸に、「やりたいことを全部やり、心とお金のゆとりも得る方法」を明らかにしているわけです。

結論からいいましょう。「時間がないから○○ができない」「△△をやめれば□□をする時間ができる」という「引き算の発想」は、タイムマネジメントにおいてはキッパリと捨ててください。そして「あれをやるなら、これをやらない」という「あれか、これか」の考え方ではなく、「あれも、これも」という「足し算の発想」に切り替えるようにしてください。これが、時間貧乏から時間リッチに変わるための大原則です。(20ページより)

「そんなことをしたら、すべて中途半端になる」と思われるかもしれませんが、「仕事ができる人」の多くは、新しいこと、自分のやりたいことに、積極的にチャレンジしているはずだと著者はいいます。

つまり「仕事ができる人」ほど、「あれも、これも」と時間を足し算の発想で考えているものだということ。実体験に根ざしているだけに、著者のこの考え方には強い説得力を感じます。

仕事を圧縮する

『すべての仕事を3分で終わらせる――外資系リーゼントマネジャーの仕事圧縮術』(岡田兵吾 著、ダイヤモンド社)の著者は、マイクロソフトシンガポール シニアマネジャー。

アクセンチュア、デロイトコンサルティングを経て、現在はマイクロソフト(シンガポール)のシニアマネジャーとして、日本・韓国・オーストラリア・ニュージーランドの4か国のライセンス監査業務の責任者を務めておられます。

成果を出さないと、容赦なくクビを切られるのが外資系企業。そんな環境で生き抜くために、3つのことを心にとめて仕事をしてきたのだといいます。

(1)すぐに動く
(2)期限を死んでも守る
(3)常にインパクトを意識する
(「はじめに」より)

  • 『すべての仕事を3分で終わらせる――外資系リーゼントマネジャーの仕事圧縮術』(岡田兵吾 著、ダイヤモンド社

しかし、海外では「残業をゼロ」にすることも求められるため、さらに4つ目の項目を加えることにしたそう。

(4)仕事を圧縮する
(「はじめに」より)

つまり、最小限の労力で最大の成果を出すことを考えるべきだということ。そこで本書では、

(1)量をこなす
(2)時間を決める
(3)型をつくる
(4)型からはみ出たものは自分でやらない
(「はじめに」より)

という4ステップによって成果を生み出す「仕事圧縮術」を紹介しているのです。

本書のなかで著者は、「世界のトップ経営者をはじめとする"一流"と呼ばれる人たちは、ハードワークの渦中にありながらも不思議と「時間」をつくり出せているものだと指摘しています。

印象的なのは、若いころに上司から投げかけられたという次のことば。

「そもそも仕事というものは、やっている作業そのものにはそれほど変化がない。一つひとつの案件は違っても、自分の行動や使っている言葉、行わなければならない作業などは9割方同じ。もちろん、その仕事特有の作業はあるにしても、本当に頭を使って考えなければならないことは、せいぜい1割あるかないか。業務の基本的な行動については、そのほとんどが同じことの繰り返しだ」(23ページより)

著者はその上司のもとで3年間働き、「不可能だと思えた業務でも、標準化や効率化は可能である」ことを学んだそうです。だからこそ、「同じ作業を繰り返すにしても、つまずいたり迷ったりするムダな時間をつくらない」ことが大切なのだと断言できるのだそうです。

これは、どのような仕事にも応用できる考え方ではないかと思います。

捨てる時間の考え方とは

『最適な「人生のペース」が見つかる 捨てる時間術』(若杉アキラ 著、日本実業出版社)の著者も、ワーカホリック状態から脱却し、「時間のムダ」を捨て、時間を自分の大切なことに使えるようになったという人物。

本書ではそんな経験に基づき、「時間のムダ」を捨て、自分にとって「自由な時間」を確保する方法を紹介しているわけです。

ムダを捨てるといっても、機械的に効率化するわけではありません。まわりから効率が悪いと言われても、自分が好きなことは捨てなくていいのです。むしろ、その好きなことに集中するためにムダを捨てるのです。(「はじめに」より)

  • 『最適な「人生のペース」が見つかる 捨てる時間術』(若杉アキラ 著、日本実業出版社)

そんな本書のなかで、著者は「効率よく生きる」をやめるべきだと主張しています。もちろん、仕事や家事などに関するオペレーションの効率化は大切。しかし、人生をすべて効率化してしまうのはもったいないというのです。

効率よく生きることばかり考えていると、行動がワンパターンになってしまいがち。すると、インプットされる情報はいつも同じで、新たな経験値を得ることができなくなるため、自分の世界が狭くなってしまいます。

だからこそ、ムダや非効率といわれる時間にこそ、新たな発見があることに気づくべきだということ。

いつもと違う行動をとると、わずかでも確実に、自分の世界は広がります。「楽しいムダや非効率」が生まれて、効率よくは生きられなくなります。これが楽しいのです。(34ページより)

いささか精神論に寄ってはいるものの、「なにがムダで、なにが大切か」を問いなおしてみる際の参考にはなるはず。やりたいことをやる人生を実現するために、手にとってみるのもいいかもしれません。

印南敦史

作家、書評家。1962年東京生まれ。音楽ライター、音楽雑誌編集長を経て独立。現在は書評家として月間50本以上の書評を執筆。ベストセラー『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)を筆頭に、『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新)ほか著書多数。最新刊は、『書評の仕事』(ワニブックスPLUS新書)。6月8日、「書評執筆本数日本一」に認定。