悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、上司同士の仲が悪いので、部署の居心地を良くしたいと、悩んでいる人のためのビジネス書です。

■今回のお悩み
「上司同士が仲が悪く、部署がイヤな空気です。居心地のいい空間をつくるにはどうすればいいですか」(35歳男性/事務・企画・経営関連)

  • 上司の仲が悪い職場でうまく仕事をするには


人間関係がうまくいっていないと、周囲の環境にも影響がおよんでしまうもの。今回のご相談がいい例で、仲の悪い上司がいたりすると、その部署全体にどよ~んとした空気が流れてしまうわけです。

ただでさえそうなのに、いまは新型コロナの影響で社会全体にギスギスした空気が流れてもいます。ですから、社会の雰囲気とオフィスの嫌な空気が合わされば、さらに居心地が悪くなっても当然。

しかも多くの場合、その"イヤな空気"を生み出している当事者たちは、その原因が自分たちにあるということに気づいていなかったりもします。

本来なら気づき、変わってもらうことがいちばんなのですが、なかなかそうはいきません。それどころか、やんわりと忠告しただけに気を悪くし、雰囲気がさらに悪化するということだってあるかもしれません。困ったものですね。

そこで今回は、そんな部署の雰囲気を「なんとかする」、あるいはご相談者さんの気持ちが少しでも和らぐようにとの思いから、3冊をピックアップしてみました。

会社の「風土」が原因?

『ギスギスした職場はなぜ変わらないのか』(手塚利男 著、日経ビジネス人文庫)の著者は、「風土改革コンサルタント」。聞き慣れない肩書ですが、かつてはいすゞ自動車で生産技術を担当し、トヨタ生産方式をモデルにした「いすゞ生産方式」の構築に参加したのだとか。

つまり、そうした経験に基づく考え方やノウハウが、本書にも生かされているわけです。

本書は以前、私がいすゞ自動車の一社員として関わった風土改革と、コンサルタントとして関わった風土改革の実際の企業事例を紹介しつつ、そこから導き出した「職場の風土を変える方法」を解説しています。(「まえがき」より)

  • 『ギスギスした職場はなぜ変わらないのか』(手塚利男 著、日経ビジネス人文庫』(池田千恵 著、日本実業出版社)

「改善したいのは職場のギスギスした空気なのだから、"風土"は関係ないのでは?」

そう思われるかもしれませんが、著者はそんな考え方に反論しています。原因はいろいろあるにせよ、最大の問題は会社の「風土」だから。

「風土」とは、企業の歴史とともに培われてきた、社員に共通する考え方や、行動パターンなどを表す企業の「価値観」。

たとえば体育会系の活発な雰囲気だったり、上下関係のあまりないフラットな人間関係だったり、あるいは自己主張を重視する社風だったり、会社にはそれぞれ独特の「風土」があるもの。

つかみどころのない問題でもありますが、近年はそんな「風土」に対する関心が高まっているというのです。

なぜなら、新しい戦略や制度を取り入れても、それを実践する人材が育たなかったり、そもそも変化を受け入れる「風土」が職場になければなにも変わらないから。

そのため本書では風土改革をするために参考にしたい「7つのフレームワーク」が紹介されているのですが、今回のご相談に関しては「人の『見方』を変える」という項目が参考になりそうです。

私たちは日々、さまざまな人間関係の中で暮らしています。そして、人間関係において、誰もがお互いに相手に「レッテル」を貼っているもの。過去のその人の言動や、自分に対する態度、そして見た目から受ける印象など、さまざまな要因を総合して、「○○さんは、こういう人だから」というレッテルを貼っています。けれど、このレッテルが必ずしも正しいとは限りません。(中略)ギスギス感が漂っている職場では、素の姿やギャップまでを知る機会はなかなかないものです。だからこそ、一度、これまでベッタリと貼っていたレッテルをはがして、フラットな気持ちで「人」を見てほしいのです。(94~95ページより)

そうすれば、見えてくることがたくさんあるということ。たとえば「上司同士は仲が悪い」ということも、ひとつのレッテルかもしれないわけです。したがって、そのレッテルをはがすことで、「なぜ、仲が悪いんだろう」という本質が見えてくるようになるということ。

その結果、「片方の上司は大ざっぱで、もう片方は慎重な性格なんだな」というようなことがわかったとすれば、あとは両者の持ち味を仕事や雰囲気づくりに活かせるような策を見出せるようになるかもしれないわけです。

もちろん簡単なことではないでしょうし、明日から職場の雰囲気を劇的に変えられるわけでもないでしょう。しかし、こうした小さなことを実践していくことで、ギスギスした職場を着実に変え、社内の人間関係を改善できるはずだと著者は主張しているのです。

相手を知ろうと意識しよう

ところで、「イヤな空気」の正体とはなんなのでしょうか?

『イヤな空気を一瞬で変える方法』(笹氣健治 著、WAVE出版)の著者によれば、それは「自分の心のなかにある不快な感情の投影。だとすれば、不快な感情を解消することによってイヤな空気はなくなることになります。

とはいえそのような場合には、イヤな空気をつくっている張本人に態度を改めてもらう必要性も生じることでしょう。ただし、こちらから働きかけをするためには細心の注意が必要。不適切な対応をすれば、かえって状況が悪化することも考えられるからです。

今回の例でいえば、「相手の心理状態と精神レベルを見定める」という項目に書かれていることを意識しておきたいところ。仲の悪い上司に働きかけることは大切ですが、その際には相手の「人となり」を意識すべきだということです。

相手と関わる際には、その相手に応じてこちらの対応を変えなければなりません。たとえば、相手が頑固な人なのかどうか、物わかりがいい人なのかどうかによって、関わり方が自ずと変わってくるのは、言うまでもないでしょう。そのためにも、まずは相手についてよく知ることが必要です。その際の重要なポイントは、「その相手を知ろうと意識すること」です。(104ページより)

  • 『イヤな空気を一瞬で変える方法』(笹氣健治 著、WAVE出版)

当たり前だと思われるかもしれませんが、私たちはつい主観で相手を見てしまいがち。そのため、「この人は、どういう価値観を持って生きているのだろうか?」と「思いを馳せながら、相手のことを少しでも詳しく知ろうとする姿勢が大事だということ。

今回の例に関していえば、双方の上司に対してそう考えてみれば、仲が悪い理由にたどり着けるかもしれないわけです。

ストレスの波にうまく乗るには

いずれにしても、上司同士の仲が悪ければ、部下にはストレスがたまっていくもの。そこで最後に、ストレスから身を守るためのテキストとして『自分を大事にする人がうまくいく~スタンフォードの最新「成功学」講義』(エマ・セッパラ著、高橋佳奈子 訳 大和書房)をご紹介したいと思います。

すべてのストレスが悪いわけではないのだから、要は一時的なストレスの利点をうまく利用し、慢性的なストレスの餌食にはならないようにすればいいのだ。つまり、長くつづく成功の秘訣は、無理をすることではない、ストレスの波にうまく乗るコツを覚えることだ。(72ページより)

  • 『自分を大事にする人がうまくいく~スタンフォードの最新「成功学」講義』(エマ・セッパラ著、高橋佳奈子 訳 大和書房))

そのために必要なのが回復力(レジリエンス)であり、そのための手段のひとつとして、著者は「ひと息入れる」ことの重要性を強調しています。

呼吸を訓練するなどばかばかしく思えるかもしれないけれども、その効果は大きいというのです。

呼吸との関係を発展させるもっとも基本的なやり方は、毎日数分時間をとって、目を閉じ、全神経を呼吸に集中させることだ。速いか遅いか、深いか浅いかを知ること。この訓練のおかげで、一日のあいだでも感情によって呼吸が変わることにすぐに気づくはずだ。たとえば、困難に直面したときには自然に大きく息を吸うだろうし、不安や怒りに駆られた時には呼吸が早まる。(99ページより)

呼吸をより意識すると、呼吸やその瞬間の感情もコントロールできるようになるといいます。それがわかっていれば、不安が襲ってくるときには、呼吸が速まり、浅くなることに気づくことができるわけです。

そして、そうなったときには、リラックスするために意識して呼吸をゆっくりにし、息をおなかに送り込むことが可能。訓練によって、困難に直面したときにはいつでも、深くゆっくりとした腹式呼吸に頼ればいいとわかるようになるということ。

仲の悪い上司が近くにいれば、ストレスはたまっていく一方。だからこそ、状況を改善することを考えるだけでなく、自身の精神を安定させることも意識すべきかもしれません。

印南敦史

作家、書評家。1962年東京生まれ。音楽ライター、音楽雑誌編集長を経て独立。現在は書評家として月間50本以上の書評を執筆。ベストセラー『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)を筆頭に、『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新)ほか著書多数。最新刊は、『書評の仕事』(ワニブックスPLUS新書)。6月8日、「書評執筆本数日本一」に認定。