悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、仕事の生産性はどうすれば上がるだろうかと悩んでいる人のためのビジネス書です。

■今回のお悩み
「仕事の生産性はどうしたら上がるのか悩んでいます」(35歳男性/事務・企画・経営関)

  • 仕事の生産性を上げて「働き方改革」に負けない(写真:マイナビニュース)

    仕事の生産性を上げて「働き方改革」に負けない


ご存知のとおり、2019年度から「働き方改革」がスタートしました。年次有給休暇の取得義務化、長時間労働の是正など、一見するとビジネスパーソンにとっての配慮がなされているようにも思えます。

でも、実際のところはどうでしょう? もちろん満足だという方もいらっしゃるでしょうが、すべての人がこの制度の恩恵を受けているとは思いにくい気もします。

なにしろ、人手不足が原因で倒産する会社も少なくない時代です。人が少ないとすれば必然的に、いまいる社員の仕事量が増えることになります。にもかかわらず労働時間を減らされるのですから、各人が時間内に終わらせなければならない仕事の量はさらに増えてしまうわけです。

ところが現実問題として、不満を口にしたから改善されるというほど単純な話でもありません。それどころか、声を上げれば居場所を失うことだって考えられるでしょう。

とはいえ現時点で、このことについての明解な答えを出すことは、おそらく難しいかと思います。しかし、そうはいっても取り急ぎ、たまっていく仕事をこなさなければならないのです。

そこで生産性の向上が求められるわけですが、それは今回のような悩みにも直結することになります。なんとかする必要がありますね。

というわけで今回は、生産性を上げるために役立ちそうな書籍を、画一的なものではなく、"ちょっとひねった視点で"選んでみました。問題解決のためには、視野を広げることも大切だと考えたからです。

"コンディション"をよくして生産性を上げる

『仕事で結果をだす人のフィジカルルーティン』(山本忠雄 著、日経プレミアシリーズ)の著者はスポーツトレーナー。本書を執筆した理由については、次のように述べています。

「バリバリ仕事をして、結果をだしたい。できればプライベートも楽しみたい」。働き盛りのビジネスパーソンが描くそんな当たり前の思いを、ちょっとしたコツをつかむことで形にしてほしい。私が長い間トップアスリートとともに作り上げてきたノウハウを、そのためにぜひ生かしていただきたい。そう思って書いた本である。(「はじめに」より)

  • 『仕事で結果をだす人のフィジカルルーティン』(山本忠雄 著、日経プレミアシリーズ)

現実的には、仕事のできるビジネスパーソンほど忙しいもの。ですから、それは言うほど簡単なことではないようにも思えます。しかし、心身をうまくコントロールし、フィジカルコンディションを整えるための行動を効率よくルーティン(習慣)化すれば、心身ともに充実した生活が送れるようになると著者は言うのです。

つまり本書は"生産性向上法"のようなものではなく、もっと広い視野で「結果の出し方」を捉えているわけです。

私は長年のトレーナー生活のなかで、日常のトレーニングや体調の維持管理、コンディションづくりなどを中心に研究を重ね、数多くの五輪メダリストやプロゴルファー、プロボクサー、団体競技のチームなどを育成・サポートしてきた。こうして、私がトップアスリートたちとともに行ってきたフィジカルコンディショニングは、絶対にみなさんの参考になるはずだ。(「はじめに」より)

そのため、コンディションをよりよくするためのさまざまな方法が多数紹介されています。たとえば第2章で紹介されている「日常生活の一部にしたい10分間トレーニング」などは、無理なく取り入れることができそうです。

パソコン(PC)に向かいっぱなしの仕事や、車を運転する仕事などで肩が固まってしまう人は、肩をゆっくり柔らかくしよう。ポイントは肩甲骨だ。これを意識してよく動かすことで、肩周辺だけでなくそこからつながった首筋、背中などの筋肉や関節もほぐれていく。立っていても座っていてもいいが、片手を後頭部に当て、ヒジを曲げる。この後頭部に当てた手のひらを支点と考え、動かさないようにしながら、肩甲骨を意識してヒジをゆっくり大きく回す。15回回したら反対向きにも15回。これが1セット。両腕1セットずつ行う。(46ページより)

「生産性を高めることとはなんの関係もないじゃないか」と思われるかもしれませんが、生産性を高めるためにコンディションの維持はとても大切。逆にいえば、コンディションが悪ければ生産性を上げることなどできないわけです。

だからこそ、こうした"すぐにできること"を試してみることも、決して無駄にはならないはずです。

「自分なりのメリット」を見つけよう

一方、脳科学の観点から、仕事で成果を上げるための方法を紹介しているのは『脳が目覚めるたった1つの習慣』(瀧靖之 著、かんき出版)の著者。

私が所属する東北大学加齢医学研究所には、脳のMRI画像(磁気共鳴画像)をはじめとする脳研究にまつわるデータが、日本で一番多く保存されています。データ数は、実に16万件。私たちの研究所では、このビッグデータを通じて「生涯、脳を健康に保ち、人間として幸せにあり続けるにはどうしたらよいか」を日々研究しています。(「はじめに」より)

  • 『脳が目覚めるたった1つの習慣』(瀧靖之 著、かんき出版)

その結果、明らかになってきたのは、脳が持ついくつかの特性。そうした観点から見ると、脳の特性を知らない人が、どんなに「やるぞ!」「がんばろう!」と決意しても、やる気や集中力を持続できないことがわかるのだそうです。

そのため思うような成果を上げることができず、やる気を失ってしまうという負のスパイラルに陥っていくということ。しかし脳の特性を知り、それに逆らわない方法を身につければ、成果を上げることも、時間を効率的に使うことも可能になるというのです。

一例をあげましょう。仕事を効率よく進めることができないとしたら、その理由のひとつは「つらい仕事に好奇心が持てない」という気持ちかもしれません。事実、好奇心が持てないと脳は目覚めないのだとか。

では、どうしたらいいのでしょうか? 著者によれば、簡単なのは、その仕事のなかに「自分なりのメリット」を見出すこと。

「仕事自体に興味は持てないけれど、取引先で仕事ができると評判のA社の○○さんに会えるのはおもしろそうだな」「つまらない仕事だけど、個人的に××という新たな技術にチャレンジしてみよう」というように、「自分なりのメリット」を見出すべきだということ。

そうすれば、好奇心がムクムクと湧き上がってくるもの。つまり、メリットは自分をよりよく生かしてくれるというわけです。

「生産性を上げなければ……」と自分を追い込み続ければ、精神的につらくなっても当然。でも「自分なりのメリット」を見出せば、少しずつ、でも確実に、(困難を含む)さまざまな物事を楽しむことができるようになるということです。

"数字"を武器に仕事をする

さて最後に、ちょっと変わった本をご紹介したいと思います。『〈マンガ〉数学女子 智香が教える 仕事で数字を使うって、こういうことです。』(深沢真太郎 著、日本実業出版社)がそれ。2013年に発行されてベストセラーとなった書籍をコミック化したもの。

著者は企業研修やビジネススクールの講義などを通じ、多くのビジネスパーソンの「数字が苦手」を改善してきた実績を持つビジネス数学教育家です。

つまり本書では、数字をうまく武器にして仕事を進めるためのメソッドを公開しているのです。すなわち、生産性向上だけに特化した本ではありません。しかし現実問題として、仕事の多くには数字が絡んでくるもの。だとすれば、数字を武器にすることで生産性を上げることもできると考えられるわけです。

・数字を"分ける"こと
・損益構造を把握できること
・数学的に仮説を立てること
・数学的に予測すること
(「はじめに」より)

  • 『〈マンガ〉数学女子 智香が教える 仕事で数字を使うって、こういうことです。』(深沢真太郎 著、日本実業出版社)

著者によれば、数字をうまく武器にして仕事を進めている人とは、突き詰めていけばこの4つの行為が上手な人なのだとか。しかしビジネス数学を通じた活動を続けるなか、わかったことが3つあるといいます。

・多くのビジネスパーソンが持つ数字に対する苦手意識はとても根深いものがあること
・でもそれを克服するために今から勉強したりするのは嫌だと思っていること(自分にはどうせ無理だと思っている)
・でも心の奥では、もし数字に強くなれたら自分も少し変われるんじゃないか、と思っていること
(「はじめに」より)

もし、これらにあてはまるとしたら、ぜひ本書を読んでほしいというのです。

数字にまったく興味がなく、センスと勘だけで実績を上げてきた主人公が、「数字を使うこと」「数字で考えることの意味と深さ、おもしろさ」を知ることによって成長していくストーリー。

マンガなので肩肘を張ることなく楽に読めますし、もしかしたら生産性を上げるためのヒントを見つけ出すことができるかもしれません。

著者プロフィール : 印南敦史(いんなみ・あつし)

作家、書評家。1962年東京生まれ。音楽ライター、音楽雑誌編集長を経て独立。現在は書評家としても月間50本以上の書評を執筆中。『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)ほか著書多数。