悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、テレワークが定着したら人事評価はどうなるのだろうか、と悩んでいる方へのビジネス書です。

■今回のお悩み
「テレワークが定着した場合の人事評価がどうなるか不安です」(40歳女性/事務・企画・経営関連)

  • テレワークが定着したら人事評価はどうなるのだろうか……


新型コロナの影響で、テレワークもすっかり浸透した感があります。緊急事態宣言が解除され、今後は大半の方が通常のオフィスワークに戻るのでしょうが、だからといってテレワークが全面的になくなるわけではない気もします。

オフィスワークとテレワークを併用した新たな働き方が推進されていくことも、充分に予想されるということ。だとすれば、これを機会に"働き方"そのもののあり方が変わっていく可能性はあるわけです。

それはそれでいいことだと思いますが、反面、今回のご相談のような問題が出てくることにも納得はできます。

たしかにテレワークは便利で効率的でしょうが、その働き方に苦手意識を持ってしまう方がいてもおかしくないからです。つまりはそこで多少なりとも差がついてしまうことも考えられるので、不安もなんとなくわかるのです。

ただ、評価というものは、"テレワーク時にどう動いたか、なにをしたか"だけによって評価が決まってしまうものなのでしょうか? 個人的には、そうとも言い切れない気がしています。

もちろんテレワーク時に上げた成果は、評価の対象になるでしょう。しかし、それは「テレワークだから」評価されたということにはならないはず。オフィスワークであろうがテレワークであろうが、成果を上げたこと自体が重要なのですから。

それに企業というものは、もっと広い視野で従業員を評価しているのではないでしょうか? テレワークで成果が出せたか否かだけではなく、日常的な仕事の姿勢が見られているということです。

「テレワークが苦手だから」評価が下がるというような単純な問題ではなく、もっと広く深く、企業は従業員を評価しているのではないかということ。

だとすれば、テレワークがうまくいったかどうかという以前に、日ごろの行いがなにより重要なのではないでしょうか? 日常あってこそのテレワークであり、その逆はないのですから。

テレワークだからこそできる経験を増やす

『これからのテレワーク──新しい時代の働き方の教科書』(片桐あい 著、自由国民社)の著者も、テレワークで評価されるためには働く側のマインドセット(価値観、考え方など)が重要な意味を持つと主張しています。

日本オラクル(旧サン・マイクロシステムズ)サポート・サービス部門に23年勤務していた実績を持つ産業カウンセラー。当時から外資系IT企業においてテレワークの現場を見てきたという人物です。

仕事においては「経験」が重要な意味を持ちますが、この場合の経験とは(1)実際に見たり聞いたり行動したこと、(2)または、そこで得られた「知識やスキル」。ポイントは、ぼーっと作業をしているだけでも得られる(1)とは違い、(2)は身につかないということです。

もちろんそれは、テレワークでも同じ。いままでのやり方を見なおし、テレワークだからこそできる経験を増やし、そこから自分なりの知識やスキルを身につけるべきだということ。

テレワークという仕事のやり方は、自分を磨き続けるために必要だと思って、そのための経験を積めば、そこで自分なりのスキルが身につきます。たとえば、テレワークで離れた部下のモチベーションを維持しながら、成果を出せることができた。それが、AさんにもBさんにもできればスキルと呼べます。また、自分のスキルを他者もできるように共有・教育できれば、それも立派なスキルとなります。(41ページより)

  • 『これからのテレワーク──新しい時代の働き方の教科書』(片桐あい 著、自由国民社)

つまり、テレワークを「やらされている」と考えるのではなく、テレワークを活用し、その経験をスキル化することが重要なのでしょう。それを積み重ねていけば確実に自分自身のスキルになるわけで、だからこそオフィスワークもテレワークも"仕事"として同質なものと捉えるべき。

ちなみにテレワークの場合は「サボっているかも?」と誤解される可能性も多くなるので、離れた相手にも働いていることをアピールしておく配慮も必要だと著者は記しています。

ですから、あくまで自分自身の意識の問題であると考えたほうがよさそうです。

仕事のルールを守りながら誠実に働く

つまりテレワークであるかどうか以前に、"働き方"についての意識を再確認しておくべきではないかということ。そういう意味においては、『自分を幸せにする働き方』(張替一真 著、ぱる出版)が役立ってくれそうです。

つまりテレワークであるかどうかという以前に、"働き方"についての意識を再確認しておくべきなのでしょう。そういう意味では、『自分を幸せにする働き方』(張替一真 著、ぱる出版)も参考になりそうです。

日本全国の中堅中小企業向け研修事業を行っている著者が、「仕事が楽しくなる思考法」をわかりやすく解説したもの。

たとえば今回のご相談にある「評価」については、「あなたの仕事ぶりや結果について、評価をするのは他人です」という記述があります。

仕事としてお金をいただく以上は、それに見合った価値を相手に提供しなければなりません。そのためには、相手が求めるものを知ることと、相手のルールを守ることが必要になります。(65ページより)

  • 『自分を幸せにする働き方』(張替一真 著、ぱる出版)

スポーツでも、ルールを知らないまま試合に出たとしても負けてしまうだけ。同じように、もし仕事での勝利(対価)がほしいなら、相手(会社)のルールにのっとって働くのが大原則だということです。

したがって、求められているものやルールがすぐにわからなかったとしても、知るための努力を怠るべきではないわけです。また著者はここで、重要なポイントも指摘しています。

さらに、大切なのはコソコソしないことです。たまに、隠れて仕事を進めようとする人がいますが、他人からは何をしているかがわかりにくくなります。自ら評価されづらい環境を作ってしまっているので、必然的に評価は得られなくなってしまうでしょう。(65ページより)

隠れて仕事を進めようという意識はなかったとしても、テレワーク時には"なにをしているか"が見えづらくなるもの、そのため前述したような「サボっているかも?」というような誤解も生まれてしまうわけです。

大切なのは堂々と誠実に仕事をすることで、それは「見えにくい」という問題を抱えたテレワークでも同じ。見えにくかったとしても、真摯に仕事に取り組んでいれば、必ず誰かが見てくれているものなのです。

したがって、過剰にアピールをするのではなく、仕事のルールを守りながら誠実に働くようにしようと著者は提案しています。遠回りしているように感じられるかもしれないけれど、結局はそれがいちばんの近道なのだとも。だとすればやはり、テレワークであることのデメリットはさほどないことになります。

前向きに自分がすべきことを行う

最後に、著名な経営学者として知られるピーター・ドラッカーの仕事についての考え方をご紹介しておきましょう。参考にしたいのは、『自分を活かし成果を出す ドラッカーの言葉』(桑原晃弥 著、リベラル社)。

経済・経営ジャーナリストである著者が、80におよぶドラッカーのことばをシンプルにまとめた書籍。今回のご相談については、著作『マネジメント』から引用された「チャンスは『準備している人』のところへ」が役に立ちそうです。

見出しからもわかるとおり、ここでクローズアップされているのは「チャンス」の重要性。

いうまでもなく、チャンスはみんなに平等にあるわけではなく、いつ訪れるかもわからないもの。しかし、ただひとつ言えるのは、「チャンスは、それに値する者の扉だけを叩く」ということだと著者は記しているのです。

ドラッカーがこう言っています。「成長には準備が必要である。いつ機会が訪れるかは予測できない。準備しておかなければならない。準備ができていなければ、機会は去り、他所へ行く。(117ページより)

  • 『自分を活かし成果を出す ドラッカーの言葉』(桑原晃弥 著、リベラル社)

目の前にチャンスが現れたとき、そこで初めて慌てながら準備を始めたのでは遅すぎます。あたふたしているうちに、チャンスはあっという間に逃げてしまうからです。

だからこそ重要なのは、目の前にあるものをしっかりと見極め、自分がすべきことを行うこと。そうすれば、そこから道が開けていくわけです。

同じことは、テレワークについても言えると思います。「テレワークだからうまくいかない」と感じ、あきらめたり不安を感じたりするのはいちばん簡単なこと。しかし、それではなにも変わりません。

大切なのは、「(いままで経験がないかったけれど)テレワークでなにができるんだろう?」と前向きに考え、それを実行に移すことではないでしょうか?

慣れるまでには相応の時間が必要かもしれませんが、それはどんな仕事にも言えること。やがて乗り越えることができれば、そこから新たな可能性が広がっていくのではないかと思います。

印南敦史

作家、書評家。1962年東京生まれ。音楽ライター、音楽雑誌編集長を経て独立。現在は書評家として月間50本以上の書評を執筆。ベストセラー『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)を筆頭に、『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新)ほか著書多数。最新刊は、『書評の仕事』(ワニブックスPLUS新書)。6月8日、「書評執筆本数日本一」に認定。