悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、休みの日まで仕事について考えてしまう……と悩んでいる人のためのビジネス書です。

■今回のお悩み
「休みの日もつい仕事のことを考えてしまい、解放された気分にならずつらい」(26歳女性/販売・サービス関連)

  • 休日、仕事から解放されるには(写真:マイナビニュース)

    休日、仕事から解放されるには?


真面目な人は、無意識のうちに自分を追い込んでしまいがち。責任感が強いため、つい仕事を抱え込んでしまったりするわけです。その根底には、「自分がなんとかしなければ」というような気持ちがあるのではないでしょうか?

僕も勤め人時代は、まさにそういうタイプでした。しかし、あるとき足を怪我して一週間ほど会社を休んだとき、感じたことがありました。

その間は必要に迫られ、電話とファックス(インターネットもメールもない時代でした)を使って仕事場と連絡をとりながら家で仕事をしていたのですが、結論からいえば、現場に僕がいなくても充分に仕事は回ったのです。

もちろん、各人に対して指示は出していました。が、こちらが指示する以前から、現場のスタッフは自主的に動いてくれていたのです。だから彼らを頼もしく感じたし、「自分だけでがんばりすぎる必要もないんだなぁ」と感じたのでした。

そんな経験があるからこそ、ご相談者さんにも「がんばりすぎなくてもいいんじゃないですか?」とお伝えしたい気がしています。自分がいないときでも、仕事は動いてくれるものなのです。

ただし、それは「あの人、いらないから」と切り捨てられるという意味ではありません。お休みの人がいたとしたら、他の人たちは"いない状況"のなかでなんとかしようとするもの。それが組織の強みだというわけです。

とはいえ、組織の動き方以前に重要なのは、ご自身の気持ちの持ち方かもしれません。組織がどう動くにせよ、自分自身がリラックスできていないと、どんどんつらくなっていくだけですからね。そこで今回は、「リラックス」という観点から3冊をピックアップしてみました。

ルー大柴から学ぶ「ティー道(茶道)」とは

『心を整えルー──ティーが教えてくれた人生で大切なこと』(大柴宗徹 著、自由国民社)の著者は、お笑いタレントのルー大柴さんです。しかし本書は、"お笑い本"ではありません。

著者名が「大柴宗徹」という茶人名になっていることからもわかるとおり、「ティー道(茶道)」についての思いを綴った書籍なのです。なんでも、ティー道に挑戦してから10年以上の歳月が経過しているのだとか。

昔の自分との違いは自分自身で実感しています。
無駄に肩肘をはらない、ラクな姿勢で生きる人間に変わりました。
それは加齢のせいでなく、あくまでティー道のおかげです。
目の前のお茶碗を眺めて、
「どんな産地で作られ、どんな想いが込められているんだろう」
と心を馳せることができるようになったから。(「はじめに」より)

  • 『心を整えルー──ティーが教えてくれた人生で大切なこと』(大柴宗徹 著、自由国民社)

「お笑い芸人 ルー大柴」のイメージとはずいぶん違いますが、いずれにしてもティー道を始めてからは、ハラハラ、クヨクヨ、イライラ、オドオドしていた日常日自分が、すーっと穏やかになっていくようになったといいます。いまではお茶碗を前にすると、心を整えるスイッチが自動的に入るようになったのだそうです。

口に入れた抹茶の味をちゃんと記憶できるよう、鼻で香り、舌で苦味&甘みを意識して感じ取ろうとすると、それだけでじつは緊張がほぐれていくんですよ。(121ページより)

茶室以外のオフィスでも、想像以上に余計な力が入っていたことに気づくことがあります。多くの場合、自分が緊張しているという自覚はないでしょうが、そもそも緊張は、他人の目など余計なものを気にしすぎて起こるもの。

しかしティー道を通じて自分の語感や所作に神経を集中させると、落ち着きを取り戻せるのだと著者は言うのです。そうして場慣れしていけば、知らず知らずのうちに度胸のついた人間に成長できるとも。

本書を参考にしてティー道の世界に入り込んでみれば、気持ちが楽になるかもしれません。

「掃除」を通じて心を穏やかに

『掃除道入門 SOJI-DO こころを磨く、世界を磨く掃除の教え』(松本紹圭 著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)の著者は、東京・港区神谷町にある光明寺の僧侶。

光明寺では二週間に一度くらいの間隔で不定期に、「テンプルモーニング」というお寺の朝掃除の会を行っているのだそうです。

時間は朝の七時半から八時半までで、まず最初にお経を十五分間読み、境内を二十分間掃除。境内の落ち葉掃き、お寺のテラスにある机や椅子などの拭き掃除、お墓の古くなったお花などを片づけるお墓掃除の三つに、手分けして取り組むのだといいます。

そして掃除のあとは、みんなで輪になってお茶を飲みながら、近況報告や最近考えていること、悩み相談などを話す時間です。

この活動は広がりを見せ、宗派や地域を超えて全国のお寺でも開かれるようになってきているのだそう。でも、なぜ掃除がそこまで共感を得ているのでしょうか?

技術革新や社会変化によって人の暮らしはますます便利になりましたが、かえって自由が奪われ、心身がどんどんすり減っていくように感じられます。忙しい毎日だからこそ、日々の中で立ち止まり、一日のうちほんの五分だけでも、自分なりの掃除を習慣にするよう心がけることで、感じられる変化は必ずあると思います。(「はじめに」より)

  • 『掃除道入門 SOJI-DO こころを磨く、世界を磨く掃除の教え』(松本紹圭 著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)

近年、マインドフルネスが世界に広まったこともあり、都会のビジネスパーソンの間でも瞑想や思想への関心が高まっています。とはいえ、もともと習慣として持っていなかった瞑想の時間を日々の生活に取り入れるというのは、なかなか難しいものでもあるでしょう。しかも仏道には、さまざまな入り口があります。

そんななか、誰でも気軽に仏道に触れられる手段が掃除だと著者は言うのです。

誰の生活にも関係のある日々の掃除の作業を、マインドフルネス習慣としての掃除に変えることができたら、それは有意義なことです。なにしろ掃除は、国籍も文化も、性別も社会的地位も、年齢も能力も技術も、宗教もお金の有無も関係なく、誰にでも取り組めるものなのですから。

掃除を通じて心を穏やかにできるのであれば、その習慣を身につけてみることは非常に有意義なのではないでしょうか?

「マインドフルネス」を実践しよう

ところで、いまも話題に出た「マインドフルネス」を、心を落ち着かせるための手段として活用するのもいいのではないでしょうか? ただ現実問題として、「興味はあるけど、どんなものかわからないし、いまさら人に聞くこともできない」と感じている方も少なくないはず。

そこで参考にしたいのが、『実践! マインドフルネスDVD (体験に気づき、反応を止め、パターンから抜け出す理論と実践)』(熊野宏昭 著、サンガ)です。

  • 『実践! マインドフルネスDVD (体験に気づき、反応を止め、パターンから抜け出す理論と実践)』(熊野宏昭 著、サンガ)

NHKスペシャルやNHKの健康番組にも出演している医学博士、臨床心理士である著者は、日本でマインドフルネスを心療内科治療に導入している第一人者。

本書ではそんな実績を軸として、マインドフルネスの価値や効果、理論と実践について解説しているのです。注目すべきポイントは、現代人、とくに若い世代を対象としていること。難しい説明を排除し、わかりやすいアプローチが貫かれているわけです。

ちなみにマインドフルネスとは、「いま」この瞬間の「現実」に意識を向け、その現実をあるがままに知覚し、それに対する思考や感情には囚われないでいる心の持ち方、存在のありさま。

私たちは現実を見て、感じているようでいて、実はそこからすぐ気持ちをそらしてしまいがち。"頭の中の世界"に意識が向かい、現実がお留守になってしまうということです。

しかし、頭のなかの世界での考えや、いろいろな感情に囚われると、現実が見えにくくなってしまうもの。でもマインドフルネスの練習を続けていくと、次第に生き方自体(存在)がそのようなありさまになっていくのだといいます。

「現実をきちんと感じ取る心の持ち方」をし、「そういう生き方が身についてくること」まで含めてのマインドフルネスだということ。

たとえば今回のご相談でいえば、「休みの日もつい仕事のことを考えてしまい、解放された気分にならずつらい」自分を受け入れることが大切だという考え方。

否定的になるのではなく、受け入れたところから全体を俯瞰する気持ちを持つことができれば、おのずと心も穏やかになっていくということかもしれません。

なお本書はテキストとDVDで立体的に学び、実習し、身につけられる構成になっているので、マインドフルネスの最新理論と効果的な実践法を無理なく身につけられるはず。まずは気軽に読んでみて、そして試してみてはいかがでしょうか?

印南敦史

作家、書評家。1962年東京生まれ。音楽ライター、音楽雑誌編集長を経て独立。現在は書評家として月間50本以上の書評を執筆。ベストセラー『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)を筆頭に、『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新)ほか著書多数。最新刊は、『書評の仕事』(ワニブックスPLUS新書)。6月8日、「書評執筆本数日本一」に認定。