悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、現状に満足している部下が、どうすれば新しいことにチャレンジしくれるのかと悩んでいる人のためのビジネス書です。

■今回のお悩み
「現状に満足する部下が、どうやったら新しいことにチャレンジしてくれるか悩んでいます」(55歳男性/専門サービス関連)

  • 現状に満足する部下の姿勢に悩む方へ(写真:マイナビニュース)

    "現状に満足する部下"の姿勢に悩む方へ


上司である以上、部下の姿勢や考え方は気になってしまうもの。たとえば上昇志向が見えなかったりすると、上司はそれを不満に感じたりするわけです。今回のご相談も、ポイントはそこだと思います。

でもそんなとき、上司はなぜ不満なのでしょうか? おそらくそれは、部下が自分にとっての理想的な状態ではないから。つまり考えようによっては、自分の理想を部下に押しつけようとしているとも考えられるわけです。

とはいえ、だからといってその上司が間違っているというわけではないでしょう。それどころか、部下の成長を願う上司は、ある意味で理想的ですらあります。

ところがチャレンジ精神のない部下の目には、それが余計なお節介だと映ってしまう。部下には部下のペースや考え方があるだけに、行き違いになってしまう可能性も十分にあるということです。

では、どうすればいいのか。これに関しては、やはり上司の努力にかかっていると言えるかもしれません。上司である以上、諦めてはいけないのです(ここまで断定できるのは、僕自身に部下の扱い方についての失敗体験があるからです)。

手を替え品を替え、さまざまなアプローチを試し、どのやり方が部下にフィットするかを試し続けるべきだということ。押しつけるのではなく、さりげなく提案するようなかたちで。

もちろん楽なことではありませんが、それが上司のすべきことであるはずなのです。折れずに情熱を傾けていれば、いつかはなんらかのかたちで、それが伝わるのではないかと思います。

「イマドキ部下」を知ることが動かす"カギ"

しかしそのためには、部下の扱い方を知っておくことはやはり必要。そこでまずご紹介したいのが、『イマドキ部下のトリセツ』(麻野進 著、ぱる出版)。帯に書かれているとおり、「管理者1年生のための『部下取扱説明書』」です。

上司やリーダーであれば、「イマドキの若い人はなにを考えているのかわからない」と愚痴りたくなることもあるでしょう。でも、現状をなんとかしなくてはいけない。そこで、まずはイマドキ部下の取り扱い方を知っておこうという考え方です。

ただでさえ、業務管理や部下育成に加えて、コンプライアンス、ハラスメント、メンタルヘルス、働き方改革など年々複雑で責任範囲が広がるイマドキのマネジメントを求められているビジネスリーダーは大変です。イマドキの部下たちをうまく取り込み、支持されないと、慢性的に続く人手不足・人材不足の中で適切なマネジメントをすることはできません。(「まえがき」より)

  • 『イマドキ部下のトリセツ』(麻野進 著、ぱる出版)

たしかにそのとおり。しかし、だとしたら、イマドキ部下たちにとってどんな上司であればいいのでしょうか? 重要な問題はそこにあります。

もちろんすべてがそうだというわけではありませんが、イマドキ社員については「出世欲がない」「『嫌なことはしなくていい』と育てられてきた」などと言われることがあります。端的にいえば、扱いにくいということ。しかし、そんなイマドキ世代は、コツさえつかめばコントロールしやすいと著者は主張しています。

言われないことはやらないけれど、言われたことはちゃんとやるのがデジタル世代である彼らの性質。対応を間違えるとこじれることもあるものの、対応の方法はマニュアル化できることが多いというのです。

ですから与える仕事の内容をマニュアル化すれば、彼らも安心して仕事に取り組めるでしょう。(38ページより)

そこで、上司のマネジメントスキルがものをいうわけです。大切なのは「どうして君がやらなければならないのか」を、きちんと筋道立てて説明すること。そうすることで部下のなかに「自分がやらなかったらヤバイことになる」という気持ちが生まれ、責任感が芽生えるというのです。

これは、今回のご相談にある「新しいことにチャレンジしてくれない」部下をその気にさせることにも言えるのではないかと思います。「この新しいことをやれば、どうなるのか」「なぜ、君がやるべきなのか」について論理的に話し、本人に任せてみることが重要だということ。

「誰かがやってくれるだろう」と思わせてしまうような状況をつくらないようにすれば、おのずと部下の気持ちも変わってくるだろうという考え方です。もちろんすぐに結果が出るわけではないでしょうが、トライしてみる価値はありそうです。

気持ちを解決させる「傾聴」を実践する

『その聴き方では、部下は動きません。』(岩松正史 著、朝日新聞出版)の著者は心理カウンセラーであると同時に、15年にわたって「傾聴」に関するビジネスを育ててきた会社の経営者。本書においても、傾聴の重要性を説いています。

なぜ傾聴がビジネスで必要不可欠なのか? それは、傾聴が「気持ちを聴く」聴き方だからです。傾聴とは、相手との共通点を探して仲良くなることとも、相手を無視することとも違う、「そのまま受け止めて支える」ための聴き方です。(「はじめに」より)

  • 『その聴き方では、部下は動きません。』(岩松正史 著、朝日新聞出版)

たとえば顧客満足やクレーム対応も、気持ちが解決しないとうまくいかないもの。そして、同じことが部下との関係にも言えるというのです。人間の最終判断基準は、いつも「気持ち」。したがって、「気持ちを解決する」方法を持つべきだと著者は言うのです。

そこで本書では、解決すべき「気持ち」の理解を得意とするコミュニケーションスキルであるという「傾聴」をテーマに設定しているのです。注目すべきは「部下が自分から動きたくなる聴き方」という章が設けられていること。

そこで著者は、「スッキリか?」「モヤモヤか?」だけに注目することの重要性を説いています。問題解決とは、「気持ちのモヤモヤが晴れて、スッキリした気持ちに変わった状態」のことをいうそう。

モヤモヤしたまま問題が解決することはありません。問題が解決すれば、人は必ずスッキリした気持ちになります。気持ちがスッキリしている人には、迷いも不満もありません。つまり、問題を抱えていません。ですから、「スッキリしているか? モヤモヤしているか?」だけに注目して聴けばいいのです。(88ページより)

たとえば部下がモヤモヤしている様子だったら、重要なのは放置しないこと。モヤモヤを発見したら立ち止まり、共有し、関わることで、問題は解決に向かうということです。

当然のことながら上司のそうした姿勢は、部下のやる気を喚起させることにもつながるはず。それが、「新しいことにチャレンジしたい」という気持ちに火をつける可能性も大きいわけです。

「行動」に焦点を当てた指導や育成を行う

さて、最後にご紹介する『マンガでよくわかる 教える技術』(石田淳 著、かんき出版)は、2011年に刊行され、部下や後輩の育成に悩む多くの人から支持されたベストセラーのマンガ版。

カジュアル衣料店の店長として働く主人公が、ふとしたきっかけから「教える技術」を知ったことから、部下の仕事ぶりや職場の雰囲気が変化していくというストーリー仕立てになっています。

本書でお伝えする「教える技術」の最大のポイントは、部下の"やる気や根性"ではなく「行動」に着目して、指導や育成を行うということ。「いつ・誰が・どこで」行っても効果が上がる科学的なメソッドなので、教え手(上司)と学び手(部下)がどんな人でも、"(組織の中の2割のハイパフォーマーを除いた)残り8割の人たち"を短時間で戦力に変えることができます。(「はじめに 『教える技術』は誰でも身につけられる!」より)

  • 『マンガでよくわかる 教える技術』(石田淳 著、かんき出版)

著者が提唱する「教える技術」のもとになっているのは、行動科学マネジメント。その名のとおり「行動」に焦点を当てる科学的なマネジメント手法なので、年齢・性別・国籍などに関係なく、どんな部下であっても誰に対しても、"教え方の基本"は同じなのだそうです。

とはいえ、誰にとっても快適な職場環境を保つためには、相手の立場や特徴に合わせた配慮をプラスすることが必要。

相手に対する敬意を常に忘れず、そのうえで一人ひとりの部下の「行動」に焦点を当てた指導や育成を行う。それが重要なポイントだということで、新しいことにチャレンジさせることについても同じことが言えるのではないでしょうか?

著者プロフィール : 印南敦史(いんなみ・あつし)

作家、書評家。1962年東京生まれ。音楽ライター、音楽雑誌編集長を経て独立。現在は書評家としても月間50本以上の書評を執筆中。『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)ほか著書多数。