悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、向上心のない後輩や部下のやる気を、どう出すか悩んでいる人のためのビジネス書です。

■今回のお悩み
「言い訳ばかりして向上心がない後輩のやる気を出せるように、どうもっていくかを日々考えています」(43歳男性/会社員)

  • 「向上心のない後輩」のモチベーションを上げるには?(写真:マイナビニュース)

    「向上心のない部下」のやる気を出すには?


今回のご相談を拝見したら、デザイン会社に勤めていた20代のころのことを思い出してしまいました。「いかに楽に生きるか」ということばかりを考えてきた時期(ダメダメだな)を経て、初めて入った会社でした。

ほぼ毎日終電近くまで残業の日々でしたが、上司がかわいがってくれたこともあり、とてもやりがいを感じていました。ですから毎日が楽しく、人並みかそれ以上に向上心も持ち合わせていたとは思うのですが、いかんせん常識が足りなすぎました。

初めて社会に出たわけですから、生意気なことだって言いまくり。本人はいたって筋が通っているつもりだったのですが、「考えていることをわかってほしい」という思いから伝えたことの何割かは、言い訳のように聞こえていたかもしれません。

もちろん言い訳をするつもりなどなかったのですが、社会人としての振る舞いと自分のそれに齟齬があったのだろうと思います。

今回のご相談にある「言い訳ばかりして向上心がない後輩」の場合は、果たしてどうなのでしょうか。いずれにしても先輩としては指導しなければならないわけで、ご苦労されているのだろうなぁと想像できます。

というわけで「部下を育てる」という観点から、3冊のビジネス書をチョイスしてみました。

若者を輝かせる3つの言葉

まず最初にご紹介したいのは、経営コンサルタントである著者による『ちょっとズレてる部下ほど戦力になる!』(加藤昌男 著、日本経済新聞出版社)。

「ちょっとズレてる部下」とは、上司のモヤモヤをうまく言い表した表現だという気もしますが、それは具体的にどんな部下を指したものなのでしょうか?

著者によれば、ちょっとズレてる部下は仕事の楽しさを誤解しているのだそう。その誤解とは、「おもしろおかしい仕事が、新しい仕事なんだ」とか、「好きなことをすると、仕事は楽しい(好きなことじゃなければ、仕事は楽しくない)」というようなもの。

仕事に前向きであるとはいえ誤解しているので、どうすべきかわからなくて戸惑い、その姿がズレて見えるというわけです。

もうひとつの特徴は、誰のほうを向いて仕事をすればいいのかわからないということ。学校では「人や社会の役に立つ仕事をしましょう」と教えられてきたものの、実際に働いてみた結果、「こんなはずじゃなかった」と感じてしまうわけです。

「お客様・働く仲間・社会のために働きたい」と頭では理解していても実感がわかず、やがて「学校で教わったことと違うぞ」と戸惑うことに。真面目なのでイエスマンにもなりきれず、その戸惑う姿がちょっとズレて見えるということです。

では、彼らを導くために上司はどうすればいいのでしょうか? この問いに対する回答として著者が紹介しているのが、本書の核である「若者を輝かせる3つの言葉」。それは、若手社員を伸ばして職場を活性化する、新しくて簡単な方法なのだそうです。

第1の言葉……「仕事をしていて嬉しかった体験がありますか? 」(仕事のポジティブな体験について話しましょう)
第2の言葉……「仕事で何か困っていることはありませんか? 」(貴方を助けたいのです)
第3の言葉……「貴方1人でなく私と一緒に考えましょう」(貴方と私で一緒に頑張ろう)
(「プロローグ」より)

  • 『ちょっとズレてる部下ほど戦力になる!』(加藤昌男 著、日本経済新聞出版社)

    『ちょっとズレてる部下ほど戦力になる!』(加藤昌男 著、日本経済新聞出版社)

第1の言葉で、部下の仕事へのポジティブな思い・ポジティブ体験の記憶を引き出し、第2の言葉で部下に、「あなたを応援します」と伝達。そして第3の言葉は、部下と一緒に考えるという具体的な支援行動を始める提案。

これら3つの言葉を活用すれば、「仕事がうまくいく→うれしい→もっとうまくいくようにしたい→さらにうれしい」というポジティブな上昇サイクル(「プラスのサイクル」)がまわり出すというのです。

そこで本書では、これら3つの言葉を活用しながら部下を戦力にするための方法が詳細に解説されているわけです。具体的なメソッドも豊富に盛り込まれているので、気負うことなく実践してみることができるのではないかと思います。

一人前のビジネスマンに育てることは簡単?

かつて上司として部下と接しながら、自分のマネジメント方法に気づかされたことがあると過去の失敗を明かしているのは、『行動科学を使ってできる人が育つ! 教える技術』(石田淳 著、かんき出版)の著者。

しかしその結果、アメリカ生まれのマネジメント・メソッドである「行動分析学」に出会い、大きな可能性を感じることができたのだといいます。それは、現在では欧米の600以上の企業や公的機関で採用されているのだそうです。

そして、そんなメソッドを、日本のビジネス習慣や日本人の価値観に合うようにアレンジしたものが「行動科学マネジメント」。

その最大の特色は、人間の「行動」に焦点を当てているということ。ビジネスの成果や結果は、すべて社員一人ひとりの「行動の集積」によって成り立っています。ですから、結果や成果を変えたければ、「行動」を変える以外に方法はありません。逆に言えば、行動を変えることで望み通りの結果・成果が得られるということです。(「はじめに」より)

  • 『行動科学を使ってできる人が育つ! 教える技術』(石田淳 著、かんき出版)

    『行動科学を使ってできる人が育つ! 教える技術』(石田淳 著、かんき出版)

「行動科学マネジメント」には、「いつ・誰が・どこで」行っても同じように成果が出るという特徴があるのだとか。そこで本書において著者は、そのためのノウハウを明かしているわけです。

ところで著者は、ビジネスというカテゴリーのなかで部下を「一人前に育てること」は、さほど困難ではないと考えているのだといいます。なぜならビジネスは、とても明快なものだから。

どんな業種・職種であっても、各プロジェクトにははっきりとしたミッションや目標の数字があるため、メンバーはそれを達成すればよいということです。

ですから上司がすべきことは、“決められたミッションや数字を達成できる人”に部下を近づけていく、という育成です。ゴールが明確なのですから、その道筋や行動も明確に割り出すことができます。(46ページより)

明確なゴールのない芸術家を育てることにくらべたら、ビジネスマンを一人前にするのはずっと簡単だという発想。そこでリーダーのみなさんに対して著者は、ぜひ希望を持って人材育成に取り組んでほしいと訴えています。

もちろん、その過程においては迷いが生じたり、うまくいかなくて困ったりするときも有るでしょう。でもそんなときには、さまざまな具体例が示された本書に目を通してみればいいのです。

部下を動かすための7原則

さて最後に、部下のモチベーションという観点から今回の問題に対する策を考えてみましょう。参考にしたい書籍は、『ケンタッキー流 部下の動かし方』(森泰造 著、あさ出版)。

著者は大学卒業後にケンタッキーフライドチキンこと日本KFCホールディングス(以下KFC)に入社し、リーダー職を経て、人材育成コーチとして1,000店舗を超えるチェーン店の社員(従業員)教育を行ってきたという人物。

その結果、正社員の半数近くが3年以内で辞めていくといわれる飲食業界にありながら、新入社員の2年以内の離職率が0という実績を打ち立てたのだといいます。

そうした経験を軸に独立した現在は、コーチングやNLP、発達心理学の理論を応用してオリジナルの人材育成理論を確立し、悩めるリーダーをサポートする活動を展開中。つまり本書には、そのエッセンスが凝縮されているわけです。

・部下が動く理由を知る
・部下には公平かつ公正に接し、尊重する
・部下の成長や進歩を見逃さない
・部下にも一緒に考えさせる
・部下に「主体性」を持たせる
・「質問+フィードバック」で自ら行動を改めさせる
・行動が正しくなければしっかり叱って指導する
(第2章「部下を動かすためにリーダーがやるべき7原則より抜粋」

  • 『ケンタッキー流 部下の動かし方』(森泰造 著、あさ出版)|

    『ケンタッキー流 部下の動かし方』(森泰造 著、あさ出版)

部下を動かすための原則として、著者はこの7つを挙げています。それぞれについてここで細かく解説することはできませんが、この見出しを確認するだけでも、エッセンスは理解できることだろうと思います。

また、この7原則をベースとしながら、まずは部下が動かない理由を解説。次いでは“ほめ方”、“叱り方”、“まとめ方”、さらには“未来のリーダーのつくりかた”にまで言及しています。

だからこそ、部下のやる気を引き出すための手段を見つけ出すことができるはず。その結果として部下が動くようになれば、先輩やリーダーにとっても有意義だと言えるのではないかと思います。


人生経験の浅い部下や後輩にも、それなりに主義や主張、考え方はあるものです。そのため衝突することもあるかもしれませんが、だからこそしっかりと向き合うことが必要であるとも言えるでしょう。

この3冊を参考にしながら、最良の手段を模索してみてはいかがでしょうか?

著者プロフィール: 印南敦史(いんなみ・あつし)

作家、書評家、フリーランスライター、編集者。1962年東京生まれ。音楽ライター、音楽雑誌編集長を経て独立。現在は書評家としても月間50本以上の書評を執筆中。『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)ほか著書多数。