悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、「自分に向いた仕事」がわからない人のためのビジネス書です。

■今回のお悩み
「未だにこの仕事に向いているのか、自分に合っているのかわからない」(44歳女性/事務・企画・経営関連)

  • 自分にむいた仕事が何か把握していますか?(写真:マイナビニュース)

    自分に向いた仕事が何か把握していますか?


もちろん仕事は、自分の好きなこと、興味のあること、やりたいことを選ぶべき。仕事と向き合う過程で「自分に向いているなぁ」と思えることは、やはり大切だからです。

逆に、好きでもないことを続けていたとすれば、「がんばらなくちゃ」と思う一方でモチベーションが下がってしまったとしても仕方ありません。

だから自分に適した仕事を選ぶべきなのですが、とはいえそれは決して楽なことではないもの。自分がなにを好きなのか、どんなことに向いているのかについては、自分で客観的に判断しづらいからです。

しかも現実問題として、忙しい日常においては、目の前に山積する仕事に追われてしまいがち。適職についてゆっくり考えている暇などなく、与えられた仕事をこなすだけでせいいっぱいというケースもあるのではないでしょうか。

その結果、本来はいちばん先に解決すべき"適職探し"を先送りすることになってしまったりするわけです。

でも、それではいつまでたっても問題解決できないどころか、不安や不満、ストレスがたまっていく一方。だからこそ、「自分はなにがやりたいのか」「どんな仕事に向いているのか」について改めて考え、一日も早く答えを出す必要があるでしょう。

自分自身と向き合う

でも、そのためにも焦りは禁物。まずは心を落ち着けて、自分自身と向き合ってみることが大切だと思います。そこで最初にご紹介したいのが、『自分に適した仕事がないと思ったら読む本―落ちこぼれの就職・転職術』(福澤徹三著、幻冬舎新書)。

  • 『自分に適した仕事がないと思ったら読む本―落ちこぼれの就職・転職術』(福澤徹三著、幻冬舎新書)

    『自分に適した仕事がないと思ったら読む本―落ちこぼれの就職・転職術』(福澤徹三著、幻冬舎新書)

この本は、一般むけの就職マニュアルではありません。
はじめから意欲がなくて、就職しなかった。
意欲はあったが、就職できなかった。
就職はしたものの、うまくいかずに退職した。
つまり就職に「落ちこぼれ」たみなさんや、そういうお子さんを持つご両親に読んでほしい本なのです。(中略)
けれども、この本には就職マニュアルにあるような「面接に絶対通る方法」とか「今年のSPIはこうなる」といったノウハウはありません。
この本にあるのは、もっと根本的な就職についての考えかたです。大仰ないいかたをすれば、就職をどうとらえ、どう活かすかについての哲学です。(「まえがき」より)

こう記している著者の本業は、多くのホラー小説や推理小説を送り出している作家。しかし最初から作家だったわけではなく、高校卒業後に社会人として世に出てから、百科事典の飛び込み営業、飲食業、アパレル業、デザイナー、コピーライター、アートディレクター、専門学校講師など、短期で辞めた仕事やバイトも含めれば20種以上の職業を点々としてきたのだといいます。

また作家業のかたわら、専門学校講師として学生の進路指導にも携わっているそうなのですが、そんななかで気づくことがあるのだそうです。それは、「自分に向いた仕事がない」という悩みを抱えている学生が少なくないということ。

また、「では、なにに向いているのか」と聞いても答えられない人が多いのも特徴だとか。つまりは、「やりたいことがわからない」ということ。でもそれは学生だけに限った話ではないでしょう。質問者さんのように、実際に社会人として働いている人のなかにも、同じような思いを抱いている方は多いはずなのです。

そして、ここで著者は重要な指摘をしています。「やりたいことがわからない」のなら悩んで当然だが、世の中には、それほど多くの職種があるわけではないということ。だから、インターネットの電話帳などを通じて、じっくり職種を眺めてほしいというのです。

企業は星の数ほどありますが、職種で見ると「やりたいことがわからない」ほどの数ではありません。このなかから選ぶのだとすれば、いくぶん進路が絞りやすくなるのではないでしょうか。
そもそも仕事に対する適性を、事前に判断するのは困難です。
自分ではむいていないと思っていた職種でも、働いてみたら案外性にあっていたというのはよくある話です。(39ページより)

さらに意識すべきは、「これが目的だ」といえる仕事に就いている人はまれだということ。そして、はじめから目的にこだわっていると、身動きが取れなくなってしまう。だからこそ、まずは「仕事は目的ではなく手段」ととらえれば、仕事選びの幅はずいぶん広がるだろうと主張しているのです。

たしかに理想や目的で自分を縛りつけてしまっては、よけい適職が遠のいていくだけかもしれません。

自分の好きなことを追求する

才能は努力して磨いていくことができますが、磨くところを間違えていたら、それを輝かせることはできません。
適職を見つけるとは、その輝かせるべき才能を見極めることです。
結果論になるかもしれませんが、人生を振り返って満足できる人は、自分に向いた仕事、適職を早くに見つけた人、といえるでしょう。極論すれば、社会に出て1年めに適職を発見できた人は、成功したも同然です。
もちろんあとになってから、自分にぴったり合った職業に就くこともできますが、最初にいっておきたいことは、自分の能力、資質をよく考えもしないで、「会社」に入社することだけは避けなければなりません。(「プロローグ……自分に向いていることは楽しくやれる!」より)

『「適職」に出会う5つのルール』(櫻井秀勲著、きずな出版)の著者は、こう記しています。光文社の編集者として多くの実績を残し、55歳で独立して作家になった人物。本書ではそのような経験に基づき、適職に出会うために必要なことを説いているわけです。

  • 『「適職」に出会う5つのルール』(櫻井秀勲著、きずな出版)

    『「適職」に出会う5つのルール』(櫻井秀勲著、きずな出版)

ここで著者は、興味深いことを書いています。「適所の種は、自分の好きなものの周辺にある」ということ。自分にとっての適職を追求することは、自分の好きなことを追求することだという考え方です。

私の高校時代の同級生を思い返しても、後の職業が元を正せば自分の好きなものに関連していたことに気づきます。
・英語好き→アメリカの百貨店のバイヤー
・けんか好き→材木屋の社長
・討論好き→東京の区議会議員
・計算好き→ポンプの設計家
・聖書好き→神父
・海好き→海外航路船員
・謹厳実直→銀行幹部と警察庁幹部
・投資好き→証券会社幹部
・小説好き→編集者(私のこと)
(60ページより)

振り返ってみれば、自分の好きな方面に仕事を求めた人が、自分の適職を得たということ。人は適職探しを硬くとらえてしまいがちですが、本当に適した仕事を探したいのであれば、一度立ち止まり、過去の自分はなにが好きだったのかについて思いを馳せてみるべきなのかもしれません。

子ども時代の記憶がヒント

事実、『やりたい仕事の見つけ方 30-DAY LESSON』(ゲイリー・グラポ著、川村 透訳)の著者も、「本当にやりたいことを決める」という章の冒頭で「子どものころの夢を思い出す」ことを重視しています。

  • 『やりたい仕事の見つけ方 30-DAY LESSON』(ゲイリー・グラポ著、川村 透訳)

    『やりたい仕事の見つけ方 30-DAY LESSON』(ゲイリー・グラポ著、川村 透訳)

自分の新しい道を切り開いていくときには、幼年時代にさかのぼってみるとよいでしょう。そこには、自分らしい生き方のヒントがたくさんあります。(50ページより)

思い出すべきなのは、子どものころに楽しかった出来事。すべてを思い出さなくても、印象に残っているものだけで充分だそうです。たとえば著者は、次のようなことを挙げています。

・庭に植物を植える
・詩を書く
・家のあちこちを修理する
・キャンプ
・模型飛行機
・ペットの世話
・木登り
・人と違ったことをする
・映画
・休み時間に遊んでいたゲーム
・写真クラブ、演劇クラブ
(52ページより)

このように、子どものころにした遊び、趣味、習い事、勉強などで楽しかったことなどを思い出してみれば、それらが夢のキャリアを探るうえで大きなヒントになるということです。


いまの仕事が自分に向いているか、合っているのかという問題に、答えはないのかもしれません。別ないいかたをすれば、自分の気持ちや考え方次第で、その仕事は適職にも不適職(そんな言葉はありませんが)にもなるということ。

そういう意味でも、まずは自分の原点に立ち返ってみることが大切なのではないでしょうか。

著者プロフィール: 印南敦史(いんなみ・あつし)

作家、書評家、フリーランスライター、編集者。1962年東京生まれ。音楽ライター、音楽雑誌編集長を経て独立。現在は書評家としても月間50本以上の書評を執筆中。『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)ほか著書多数。