悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、部下の「やる気」に悩む管理職のためのビジネス書です。

■今回のお悩み
「管理職です。担当者のモチベーションを上げるのが難しい」(47歳女性/事務・企画・経営関連)

  • 部下のモチベーション、どう上げる?

    部下のモチベーション、どう上げる?


この連載では毎回、読者のみなさんからご相談をいただき、その内容に即した、役に立ちそうなビジネス書をご紹介しています。

そんななか、ご相談内容を拝見していつも気になるのが、「人間関係」に関するお悩みの多さです。

もちろんその内容は、「コミュニケーションのとり方」「世代間のギャップ」「育成法」など多種多様。ひとくくりにすることはできませんが、いずれにしても、人と接することの難しさを感じずにはいられないということ。

なにしろ組織は、さまざまな人間の集合体です。年齢や性別はもとより、育ってきた環境や考え方、ビジネスパーソンとしてのキャリアや実績など、すべてにおいて“違った”人々が集まっているのですから、それを束ねるのは大変。

ましてや管理職になると、部下を動かすことについての責任も負わなければなりません。「動かせませんでした」「まとめられませんでした」「部下のモチベーションが上がりませんでした」では済まされず、もしそんなことがあったら責任がのしかかってくるわけです。

そう考えると、悩みをひとりで抱え込み、疲弊してしまう管理職が少なくないことにも納得できる気がします。以前にも書いたことがありますが、僕自身、管理職としてはまったく優秀ではなかったしなぁ。

しかし考えようによっては、いま、管理職としてなすべき「いろいろなこと」がうまくいかなかったとしても、それでいいのではないでしょうか? 会社も現時点での結果を見ているわけではなく、管理職に期待しているのは「未来」です。

つまり、現在を「ゼロ」と考え、そこから管理職として成長していけばいいのです。大切なのは、「これから」だということ。そのような視点から、自己成長に役立ちそうな3冊を選んでみました。

管理職という役割を考える

最初に取り上げたいのは、『管理職になったら読む本』(吉原俊一著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)です。

  • 『管理職になったら読む本』(吉原俊一著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)

若いベンチャーや中小企業など、比較的少人数の会社で管理職になったばかりの方、あるいはチームリーダーや将来の幹部候補生に向けて書かれたもの。豊富なリーダー研修実績を持つ著者がここで明らかにしているのは、「自分をどのように成長させ、どのような役割を果たしたらよいのか」ということです。

こうした考え方に基づき、第3章「部下育成の基本」内の「部下育成5つのポイント」を見てみたいと思います。

(1)OJTこそ最大の人生育成の場であると認識する
最大の育成の場は、日常の仕事の場そのものであり、そこで部下を育成することは管理職の最も重要な仕事のひとつだということ。
(2)部下育成ができていないのを忙しさのせいにしない
忙しい職場から優秀な人材が育ってくるのは、いろいろな仕事をどううまくこなすか自分で考える必要に迫られるから。つまり「やらざるを得ない」状況に自分を追い込むことは、成長のポイント。だからこそ、そこに育成の仕組みを計画的に一体化させていくことが重要。
(3)できるだけ本人に考えさせ自分でやらせてみる
手取り足取り詳しく教えるのではなく、本人に考えさせ、実際にやらせてみることが大切。質問を投げながら本人に考えさせることも効果的。
(4)「仕事の割り当て」は慎重に行う
できる限り責任ある大きな仕事に取り組ませ、それ相応の権限を与え、部下自身に考えさせることによって、部下の創造力を養い、責任感と実行力を育てることが可能。
(5)責任を持って権限を委譲する
部下の育成が上手な上司は、情報をよく流したうえで、責任のある大事な仕事を部下に割り当てるもの。部下が困っていたら、質問に対して的確に回答を。
(141〜144ページより要約)

管理職という自分の役割について、じっくり考えることが重要だと著者は主張しています。自分を大きくとらえると、大きな役割が出てくるもの。逆に自分を小さくとらえると、小さな役割が出てきます。

いずれにしても役割をどうとらえるかということは、自分の成長にもつながっていくということ。そして常に、自分がいまどのような役割を求められているのかを基本にする必要があるというのです。

公平に指導する大切さ

タイトルからも想像できるとおり、『叱って伸ばせるリーダーの心得56』(中嶋郁雄著、ダイヤモンド社)は「叱り方」に焦点を当てた書籍。

  • 『叱って伸ばせるリーダーの心得56』(中嶋郁雄著、ダイヤモンド社)

「部下のモチベーションの上げ方」とは関係なさそうに思えるかもしれませんが、現実的に「叱る」ことは「モチベーションを高める」ことにつながるはず。なぜならそれは、管理職と部下との信頼関係を軸としたものであるからです。

部下との信頼関係を築くために著者が強調しているのは、ずばり信頼関係。

たとえば、「もっと成長してほしい! でもどうすれば?」という気持ちがあれば、部下を観察するようになるでしょう。部下を真剣に観察するようになれば、「今、どんな壁にぶつかっているか」「今、何を考えているか」「どんなことに重きを置いているか」がわかるようになってきます。そうなれば自ずと、部下に響く言葉や言いまわしもつかめるでしょう。(186〜187ページより)

また、信頼できる先輩・上司の条件として著者は「公平・公正」の重要性も挙げています。人はひいきや不公平に敏感なので、誰をも正当に評価でき、公平に指導できなくては、部下や後輩からの信頼は得られないわけです。

そして、「公平さを持つ」あるいは「公平であると周囲から見られる」ためには、部下全員の長所を言えるようにしておくことが大切だといいます。

部下全員の長所を把握するためには、それだけ部下に対する興味・関心を持たなければいけません。また、上司という立場になると、どうしても部下の長所ではなく、短所のほうに目が行くようになりがちです。
だからこそ、「部下全員の長所を言える→部下のことをよく見ており、関心を持っている=公平・公正な上司である」と言えるのです。(189ページより)

たしかに上司やリーダーから長所を認めてもらえれば、部下のモチベーションは必然的に上がっていくことになるでしょう。つまりは管理職としての、日常的な視点が重要な意味を持つということ。

チームと個人のやる気を引き出す

さて、最後は、『チームのやる気を高める「すごい!」手法』(佐々木正悟著、PHPビジネス新書)。心理ジャーナリストである著者が、部下のやる気を引き出し、やる気にあふれたチームにするための方法を紹介した新書。もちろんチームだけでなく、部下個人に対してなすべきこともしっかり学べる内容です。

  • 『チームのやる気を高める「すごい!」手法』(佐々木正悟著、PHPビジネス新書)

他人のやる気をリモート・コントロールして、「ハイ」にしたり「ロー」にしたりすることはできない。そんなことは、だれにとっても不可能だ。
そうではなくて、「やる気」について正しい知識を仕入れ、整理して臨むことこそが必要なのだ。ほとんどの人は「部下をやる気にする」テーマについて、色々と誤解している。持っている知識は正しくても、その使い方が正しくなかったり、使い方は適切でも、状況が不適切だったりしている。そんな経験が積み重なって、「やる気がない部下には何をしてもムダだ」という気持ちにとりつかれているようだ。この点を整理してあげるだけでも、状況は確実に好転する(「はじめに」より)

まさに、部下のモチベーションを上げるための重要な考え方だと言えるのではないでしょうか? 第2章「『部下をやりがいに向かわせる』九つの手法」の各項目に目を向けてみましょう

「部下をやりがいに向かわせる手法」1
承認できる余裕を持つ
「部下をやりがいに向かわせる手法」2
選択の余地を持たせる
「部下をやりがいに向かわせる手法」3
せっかく満たされている承認欲求を傷つけない
「部下をやりがいに向かわせる手法」4
先送りさせない
「部下をやりがいに向かわせる手法」5
部下に促すべきストレス対策
(1)短時間だけイヤなことをすべて忘れてもらう
(2)運動させる
(3)簡単な呼吸法などのサイトを紹介する
(4)睡眠時間を多くとらせる
(5)筆記療法を紹介する
(6)自分と他人を比較させない
(7)指圧やマッサージに行ってもらう
(8)「部下をやりがいに向かわせる手法」6
完璧主義から脱却させる
「部下をやりがいに向かわせる手法」7
Not To Doを身につけてもらってやる気を落とさせない
「部下をやりがいに向かわせる手法」8
部下を追い込まない
「部下をやりがいに向かわせる手法」9
不安を放置しない
(第2章の項目を要約)

ここですべてを解説するのは困難ですが、項目を確認してみるだけでも「部下のモチベーションを向上させるためにすべきこと」を把握できるのではないかと思います。とても実用的な内容なので、読み込んでみれば確実にノウハウを身につけられるはずです。


今回これら3冊を読みなおした結果、改めて感じたことがあります。部下のモチベーションを上げるためには、部下自身の成長が不可欠。しかしそのためには、まず管理職本人のさらなる成長が大切なのではないかということです。

そういう意味では、管理職は部下と歩調を合わせ……というよりも半歩くらい前の位置から、ともに成長を目指すべきなのかもしれません。

著者プロフィール: 印南敦史(いんなみ・あつし)

作家、書評家、フリーランスライター、編集者。1962年東京生まれ。音楽ライター、音楽雑誌編集長を経て独立。現在は書評家としても月間50本以上の書評を執筆中。『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)ほか著書多数。