企業など組織で働いていると、人は「団体旅行」に参加している人と似た気持ちになってきます。何をすべきかは、添乗員やら事情通のベテラン参加者が教えてくれるので、口をあけて食べさせてもらうのを待っている状態です。いいかえると、階層型組織では多くの人が、組織の中に歯車としてポチのように収まった団体旅行者マインドで、指示された作業に従事します。このマインドセットだと、どんなに頑張っても、価値創造者にはなれません。この箱から飛び出すことが必要です。

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といっても(後ほど説明するように)転職の勧めではありません。団体旅行をやめて一人旅に出ることです。1人で旅していると、否が応でも自分で調べ、自分で考え、自分で動き、自分で失敗して気持ちが落ち込み、でも気持ちを取り直してまた考えて動く、という自作自演モードにならざるを得ないからです。ガイドがほしくなっても、あたりをみまわして見ず知らずの人に自分でアプローチして尋ねることが必要です。スマホに頼る場合も、自分でスマホを操作して次にどこか行こうか探しだす能動性が必要です。必要性に迫られることが能動的なマインドセット形成(≒価値創造者の必要条件)の鍵です。

  • 団体旅行をする歯車的

必要性に迫られたところで、前回お話したWHY/WHAT/HOW(YWH)の呪文を唱えると、それは本気の質問になります。一人旅モードで世界に問いかけ世界を活用するツールとして、YWHが本来の威力を発揮します。

桃太郎に見る、新しい仲間の作り方

さらに、一人旅しながら、旅先で新しい仲間をつくっていくことが大切です。古今東西の物語の主人公(≒価値創造者)にはこのパターンが多いのです。代表選手は日本でいえば桃太郎です。桃太郎の場合は、おばあさんに川で拾われるところからはやくも一人旅姿で登場します。大きくなって鬼ヶ島に鬼を退治しにいくとき、本格的な一人旅モードに入り、その途上で犬とサルとキジが仲間に加わります。それぞれ異なる特性をもった動物ですが、全員が黍団子という餌と、鬼ヶ島にいくというミッションの両方に共鳴して加わります。最近はやりのdiversity and inclusionの原型です。

話を会社組織に戻します。一人旅せよというと、今の組織を飛び出して転職せよと勧めていると思うかもしれません。それは勘違いです。転職しても、転職先ですっぽりポチのように歯車の一部におさまれば、また口をあけて待つ団体旅行客になるのがおちです。転職せずに、今いるところに毎日出社して、そこで団体旅行客にならずに一人旅モードに入ることです。といっても会社の中を一人でうろうろせよということではありません。一人旅しながら、桃太郎のように仲間をつくることです。これまで直接関係していない人々の中から自分の一人旅に巻き込む仲間を作ることです。

図は、団体旅行の歯車・作業者から仲間をつくる一人旅への変化を表します。

  • 団体旅行の歯車・作業者から仲間をつくる一人旅への変化

では、どうやって一人旅しながら仲間をつくっていくのでしょうか。その技として4ボックスゲームを紹介します。図Zをご覧ください。

  • 一人旅しながら仲間をつくっていくために使える4ボックスゲーム

水平軸は「個人」と「組織(集団・チーム)」を対比し、垂直軸は「思考」と「行動」を対比しています。両軸によって4つのボックス(箱)ができます。この4つの箱を用いて、仲間をつくって一緒に動いていくゲームを行います。

①(右上の箱)ゲーム開始前の状態は、ばらばらの集団行動です。あなたのまわりで人々がそれぞればらばらに仕事をしている状態で、まだ一緒に一つのゲームに参加する状態にはなっていない状態です。それぞれ別のゲーム(仕事)をやっている状態です。

②(右下の箱)ここで、あなたは少々奇妙なことを考えます。①での様々な仕事が、全て一つの物語におさまるようなそういう物語の台本を書いてみようかなと。なるべく多くの仕事を新物語の要素として生かしながら、どうしても収納できない仕事は物語からはずしつつ、他方でまだ発生していない仕事も少し書き足して物語らしくしていきます。例えば一つの課の中で、様々な仕事が走っていてもすべてが関連し合ってはいないのが普通でしょう(=①)。そういうとき優秀な課長(価値創造者)なら、課の総合力・求心力を高める為に、大半の仕事が納まる一つの物語(筋書)を考えて、諸仕事を関連づけようとするでしょう。

あなたがまだ課長でない場合も、想像力をふくらませて物語を考えます。コツは桃太郎の鬼退治のような中心軸となる物語(例:官僚的な仕事を退治する物語)を大胆に書いて、そこに様々な諸仕事をつなげていくことです。といっても物語の初稿はアバウトでスカスカで構いません。むしろ隙のある方が、諸仕事をくっつけたり、離したりしやすくなり、諸仕事を活かす形の物語が生まれやすくなります。(人間が得意とする)こじつける力を活かして、諸仕事を材料とする「寄せ集め細工(ブリコラージュ)」で物語を仕立てます。

③(左下の箱)ざっとでいいので物語ができたら、他の仕事をしている人たちとばったり廊下で出会ったとき等に、例えば、「鬼退治するのだけど協力してくれない」と誘います(多分、どうしたのと訝られるのですが、ゲームに徹するあなたは面白いでしょという姿勢を崩さず誘い続けます)。ゲームに引き込もうと狙いを定めた人にメッセージを送ったり、(新型コロナの収束をにらみながら)ご飯に誘って話すこともありです。

いずれにしても、あなたからアプローチされた人はどうしようかなと考えます。あなたに連絡をとってこのくらいしかできないけどいいかとか、自分の得意技を知らせて売り込む人もいるかもしれません。電話世代の先輩だったら物語の内容や役割のことで電話してきたり、会おうと言ってくるかもしれません。

④(左上の箱)そうこうしているうちに、本業の仕事とは別の「副業」と割り切ってあなたの物語にちょっと参加する人が出てくるかもしれません。犬やサルやキジのように自由な身分(社内失業中)の人たちがフルタイムで参加してくれるかもしれません。本業の仕事自体をそのままあなたの物語のシーンに組み込む人が出てくるかもしれません。

一人旅のあなたは、物語を宣伝しつつ、自分だけで物語の一部を演じ始めていて、そこにひょいと相乗りする人もでてくるかもしれません。

⑤=①(再び右上の箱)物語成立に必要な最小限の仲間が参加するめどがついたら、あなたは皆を一か所に集めて、本格的な上演に向けてキックオフします。①では、ばらばらの仕事のサイロに入っていた人達が、いわばメタレベルでつながって、一つのゲーム・物語上演を開始します。

以上のゲームづくりでもYWHの呪文を活用します。まず、メンバーが共感できるようなWHY(ニーズ・目的)を打ち出します。桃太郎でいえば、鬼に荒らされて盗まれたものを取り戻すという村のニーズとそのための鬼退治です。WHAT(パフォーマンス)は、鬼ヶ島に向けて一人旅を始めて、実際に鬼退治することです。その途中で、仲間が加わります(すなわちWHAT(パフォームする能力形成))。HOWとして、(動物を引き寄せた黍団子や、戦うための武器に相当する)ご褒美やツールや材料も準備します。

最重要点はWHY(目的)とWHAT(役者の役割・能力)のリンクです。なぜそういう役割を演じるのか、その必要性やご利益や期待を、脚本家のあなたの想いとして熱く語り、メンバーの「役割」魂にそっと火をつけます。