前回の「価値創造者になるには」で、ポイントは外の声と内の声を聴いて応える練習を重ねて、3つの能力(1.問題を発見・解決する力、2.他の人たちを巻き込む力、3.専門性・強味)を伸ばすことだと述べました。また、そのための呪文があると予告しました。今回はその呪文についてお話します。

  • 日々の仕事をより濃くする呪文、「Y・W・H」とは?

価値創造者になるための"呪文"

呪文は、Y・W・Hです。YはWHY、WはWHAT、HはHOWの略です。早速、呪文を使った能力開発を練習してみましょう。ポイントは2つだけです。

ポイント1は、あなたがやったことを思い出すことです。たとえば、あなたはこの記事を読む直前は何をしていましたか。直前にしていたことの替わりに、昨日したことの中で大事なことや、面白かったことやきつかったことでもいいです。昨日の替わりに過去一週間でもいいです。

ポイント2は、自分が思い出したことを、これからお話するY・W・Hの呪文を使って分類・診断することです。ここでは、昨日やっていたことの中で大事なことを思い出すことにしましょう。たとえば、何かの報告書を書いていたとします。思い出し方としては、実際にどのように書いたかを時系列にそって順番に思い出すだけでよいです。その後で、思い出したことを、これから説明するYWHの呪文で読み解き(=分類・診断)します。以下では、「思い出すこと」と「読み解き」を同時にやる例を示します。

要領は、自分が自分に対して質問して、自分で答えること、つまり自問自答です。価値創造者にとって自己との対話力(≒思考力)も重要なスキルですからその練習も兼ねます。

質問といっても難しくありません。何をしたか(WHAT)となぜ(何のために)そうしたか(WHY)とどのような工夫をしたか(HOW)というWHATとWHYとHOWを使った質問だけです。 早速、その例を示しましょう。

Q1:何してた?
A:レポート書いてた。
Q1:何のためにそんなことしてたの?
A:上司から頼まれたから。

さらに突っ込みます。
Q2-2:上司はどんなニーズに応えようとしているの?
A:あまり気にしたことないけど、たぶん、YY市場向けに新しい製品を開発するという指示が経営陣からだされていたみたいだ。
Q3:報告書を書くときに何か工夫した?
A:工夫とまでいえないかもしれないけど、似たテーマの報告書にいくつか目を通したよ。

さらに問いかけます
Q3-2:目を通してどうしたの?
A:ひとつ面白い報告書があったので、作者にコンタクトをとっていくつか質問した。
Q3-3:どんな?…
A:結局、最近米国で話題になっているXXXセオリーが使えそうだと思った。早速、そのセオリーを勉強したんだ。
Q4:どうやってそのセオリーを学んだの?
A:MOOCSとYouTube上の補足解説で独習している。
Q4-2:で、そのセオリー、役にたった?
A:そのままじゃ、うまくあてはまらないので、自分で工夫したけどね。
Q5:報告書を書いて、何か今後も使えることが身に付いた?
A:自分流にアレンジしたXXXセオリーかな。企画書かくときとか、プレゼンテーションで使えそうな気がするよ。

以上で用いた質問がWHAT/WHY/HOWという呪文になっています。Q1は、行動が何か(WHAT)を尋ねる質問です。Q2は、なぜ(何のために)そうしたのか(WHY)を尋ねています。答の例としてあげた「上司から頼まれた」だけだとそこで思考が停止してしまいます。いわれたから何も考えずにやるのは「作業者」で「価値創造者」ではありません。そこで助け船を出しているのがQ2-2で、上司の立場にたってニーズは何かを考えるように促す質問を発しています。これもWHYです。

答として、「新サービス開発のため」が得られたので、WHYの質問はそこでおしまいにして、次に移っていますが、さらに「なぜ新サービスを開発するか」とつっこむ余地があります。そうすると、新サービスが充足をねらう市場・顧客ニーズの話にまでつながるかもしれません。もう一歩踏み込んで、ニーズを生み出す社会情勢にまで理由をたどることもできます。

Q3は、報告書を書く際の「工夫」を尋ねていますが、いいかえれば、ただ漫然と書いたのではなくて、書き方(HOW)で何か工夫をしたか、ときいています。特に引き出したい答は、何か新しい「方法」を使ったかです。実際には何も工夫せずに、ただ書いたという場合も多いでしょう。ただやるのは、「作業者」です。しょっちゅうやっていることであっても隙あらば何か工夫しよう、新しい方法を学んで使おうとするのが価値創造者の流儀です。 Q-2,Q-3を経て、XXXメソッドという答がでています。さらにQ-4で、どうやって学んだかを質問していますが、この質問は<学習のHOW>です。新しい方法を身に着けるにはほぼ必ず「お手本」があります。お手本は先生だったり、先輩だったり、そういう人たちが書いた報告書だったりします。

Q5は、新しく自分のものにした能力を尋ねています。そういう能力は、次の機会に、可能になる行動と直結しているので、能力系のWHATとよびます。Q1で尋ねているのは行動系のWHATです。

YWHの質問で得られるものとは?

さて、YWHの質問にそって考えることは、ロジカル思考の一種です。普通は、ロジカル思考というと左脳的な理屈にとどまりますが、YWHロジカル思考は、気持ち・感情につなげることができます。Y、W、Hが、ひとつずつやる気を起こす気持ち、つまり動機につながります。その有様を描いてみましょう。

Q2とQ2-2で示したように、WHYをずっとたどっていくと、たとえば社会的なニーズにたどりつきます。そういうニーズを実感したとき、それをぜひ満たそう、解決しようという気持ちがうまれるチャンスが生じます。その気持は「使命感」です。価値創造者なら、そういう気持ちが起きるまでしつこくWHYを追いかけます。

あるいは、Q3で何か工夫したかときいたのに対して、上記では、新しいメソッドを学んで使ったという答をだしましたが、メソッドに頼らずに自分の能力・強味・得意技だけで工夫することもありえます。行動することをWHATで表しましたが(行動系WHAT)、自分の能力・強味・得意技」はすべて行動を生み出す力なのでWHATで表わします(能力系WHAT)。そのような能力系WHATがあれば、自分なら「できる」という気持ちが生じるでしょう。報告書の例でいえば、イラストが得意なので、報告書の重要部分や遊びの部分でイラストをいれることができる、いれてみようといった気持ちです。

さらに、Q3、Q3-2、Q3-3で追いかけたように、報告書を書こうとするところでHOWとしてのお手本(XXXメソッド)をみつけて、ちょっといいなと思って、それを理解して使えるようになりたいという「意志」が生じるかもしれません。

以上でふれた「使命感」はMUST、「(自分なら)できる」はCAN、「(やってみたい)意志」はWILLと呪文化します。頭文字をとるとMCWです。MCWと最初の呪文YWHはリンクしています。WHYをたどるとMUSTの気持ち(やらねくっちゃ)がうまれ、WHAT(自分の能力)を使うときにはCANの気持ち(できるぞ)がうまれ、HOWを使うときにはWILL(やってみたい)の気持ちがうまれます。

毎日の仕事で何かひとつ選び、YWHの呪文で読み解き、ついでにMCWの呪文で動機も引き出すことに成功すれば、あなたも価値創造者のような充実感を覚えることになるでしょう。

著者:キャメル・ヤマモト

山本成一(やまもと・せいいち)。デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 執行役員。東京大学法学部卒業後、外務省に入省。エジプトと英国留学、サウジアラビア駐在等を経て、人材・組織コンサルタントに転身。外資系コンサルティング企業2社を経て現職。企業組織・人材のグローバル化・デジタル化プロジェクトを手がけている。並行して、ビジネスブレークスルー大学と東京工業大学大学院でリーダーシップ論の講義を担当している。近著に、『破壊的新時代の独習力』(日本経済新聞出版社)などがある