――今回の作品は専門用語も多いですが、演じるうえで難しさはありましたか?
医療用語や薬の名前がたくさん出てくるので、それを全部理解してもらおうとすると、逆にドラマとして入っていけなくなると思ったんです。それよりも、「今、この人たちはピンチなのか」「そこを切り抜けたのか」「これから大変なことが起きるのか」「謎が解けそうなのか」という状況が伝わることが大事だと思いました。
――「状況」を伝えるために、特に意識されたことは?
表情や声、しゃべるスピード、圧のかけ方、間ですよね。僕は舞台もやっているので、そういうことはかなり意識します。1,200人くらい入る劇場だと、後ろのお客さんには細かい表情までは見えないことがあります。だから、若い俳優さんに「ちゃんと声でお芝居しなさい」と言うこともあります。声で届かせることが大事なので。
今回は、舞台ではなく映像ですけど、専門用語の説明が続くからこそ、普通にしゃべっていたら退屈になってしまう。たとえ言っている内容が全部分からなくても、声や間、スピードで「何か大変なことが起きている」ということが伝われば、視聴者は置いていかれないと思いました。
――舞台で培ってきた感覚が、今回の芝居にも生きている、と。
そうですね。映像だからといって、そこを変える必要はないと思っています。
「実際にその仕事をしている人が一番の教科書」
――紀尾中は、自分の信念を貫こうとする人物ですよね。一方で、その信念を周囲に信頼してもらわなければ、思いを実現することもできない。本作を拝見し、「どうすれば、相手に信頼してもらえるのか」という部分もテーマの一つであると感じました。向井さん自身は、仕事をするうえで、どうやって自分のことを信頼してもらおうとしていますか?
結局、好みとか相性もあると思います。僕自身、芝居バカにはなろうとは思っていないんですけど、芝居に対する熱量は持っていたい。そこは大事にしています。
――その熱量は、最終的には誰に向けたものなのでしょう。
「誰のために芝居をするのか」というのは、紀尾中の「患者ファースト」という部分と少し似ているかもしれません。僕の場合は、お客さんのためです。どんな芝居をしても、技術的には成立するのかもしれない。でも、それでお客さんが退屈したら意味がない。映画館のスクリーンや液晶画面の向こうにもお客さんがいるわけですから、どうしたらその人たちを引っかけられるか、突っつけるか、ということはいつも考えています。
――常に観客のことを考えて芝居をしているからこそ、逆にご自身が視聴者側になったときも、作品を見る目が厳しくなりそうです。
いや、僕、あんまりドラマを観ないんですよ(笑)。『VIVANT』くらい話題になっているものはさすがに観ますけど。
――では、普段はどんなものをご覧になるのでしょう?
ニュースやドキュメンタリー番組をよく見ます。経済番組の『ガイアの夜明け』とか。例えば、本物の経営者が登場すると、いわゆる経営者独特の余裕というか、その人にしかない目線や話し方、身振りがある。そこには、「今は余裕があるけど、昔は失敗したんだろうな。それでも折れずにここまで来たから、今があるんだろうな」といったような、それまで生きてきた歴史も含まれている。そういうものを見るほうが、職業を演じるうえでは参考になると思うんです。
やっぱり、実際にその仕事をしている人が一番の教科書なんですよ。もちろん編集によって見え方は変わりますけど、ドキュメンタリーは基本ノンフィルターだから。
ヘアメイク:宮田靖士(THYMON Inc.)
スタイリスト:外山由香里

