まもなくやってくるシルバーウィーク。まとまった時間が取れそうなら、じっくり腰を据えて見たいのが、最終章となるシーズン5まで出そろったDisney+の海外ドラマ『一流シェフのファミリーレストラン』だ。
息つく暇もない厨房を舞台に繰り広げられるのは、濃密でリアリティたっぷりの人間ドラマ。料理のおいしさだけではない、一筋縄ではいかない“家族”の物語に引き込まれていく。
一瞬たりとも気が抜けない厨房のリアリティ
物語の舞台は、米イリノイ州シカゴ。世界的な一流レストランで腕を磨いてきた若きシェフ、カーミーことカルメン・ベルツァット(ジェレミー・アレン・ホワイト)が、亡き兄の遺したサンドイッチ店を立て直すため、故郷へ戻るところから始まる。
店は地元で長く愛されてきたイタリアンビーフ・サンドイッチの名店だが、経営状態は崖っぷち。しかも厨房には、昔ながらのやり方を変えたくないスタッフたちがいる。世界の一流店で身につけた技術やルールを持ち込もうとするカーミーと、そこで長く働いてきた仲間たちは、当然のようにぶつかる。
レストランを舞台にしたドラマと聞けば、客とのトラブルや接客をめぐる出来事を思い浮かべるかもしれない。だが、この作品が徹底して見つめるのは、店の表側ではなく厨房だ。窮屈な空間で、あきれるほど本気になって働き、ぶつかり合う人間たち。その人間ドラマこそが、この作品の本当の味わいになっている。
カーミーをはじめ、ケンカっ早く口も悪いリッチー(エボン・モス=バクラック)、才能と野心を持って店に加わる若き料理人シドニー(アイオウ・エディバリー)ら、そこに集まるのは個性も価値観もバックグラウンドも違う人々ばかり。
しかも彼らが怒り、いら立ち、ときに誰かを傷つけてしまう背景には、それぞれが抱える喪失感や不安、焦り、ストレスがある。その感情を単なる「性格の悪さ」で片づけず、なぜそうなってしまうのかまで丁寧に描いていくところに、この作品の優しさがある。だからこそ、最初はただ騒々しく見えた登場人物たちが、シーズンを追うごとに少しずつ愛おしくなっていく。
料理シーンは美しく、狭い厨房をスタッフたちがせわしなく行き交う映像は圧倒的な臨場感に満ちている。注文が殺到すれば怒号が飛び交い、鍋や皿の音が鳴り続け、一瞬たりとも気が抜けない。そのリアリティもまた、彼らの感情のぶつかり合いをいっそう生々しいものにしている。
「Every Second Counts」が仕事から“人生の時間”へ変わっていく
シカゴ都市圏で育ったクリエイターのクリストファー・ストーラーが本作を構想する際、モデルのひとつとなったのは、幼なじみの家族が経営する実在の人気店「Mr. Beef」だという。ストーラー自身も、本作で描きたかったものについて「家族とコミュニティの物語」と語っている。その言葉どおり、物語は単なる「つぶれかけた店の再建もの」にはとどまらない。
しかも面白いのは、シーズンを重ねても同じパターンを繰り返さないことだ。厨房の混乱を息もつかせぬ勢いで追うこともあれば、ある人物の感情や過去にじっくりと時間をかけることもある。エピソードごとにテンポも視点も変わり、次に何を、どんなふうに見せられるのかが予測できない。まるでその場に居合わせているようなドキュメンタリー的な生々しさと、大胆に人物の内面へ踏み込むドラマ性が同居している。その予定調和に陥らない見せ方も、本作を続けて見たくなる大きな理由だ。
シーズンが進むにつれて、カーミーたちは昔ながらのサンドイッチ店から、新たなレストラン「ザ・ベア」へと歩みを進めていく。ミシュランの星を目指し、料理もサービスも店の在り方もアップデートしていこうとする一方で、彼ら自身もまた、それぞれの生き方を問い直すことになる。
そんな彼らとともに重みを増していくのが、厨房に掲げられた「Every Second Counts(一秒たりとも無駄にしない)」という言葉だ。一流の現場では、一秒の判断が料理の仕上がりを左右する。だが物語が進むほど、この言葉は仕事だけでなく、家族や仲間とどう時間を重ねるのかという問いにもつながっていく。
同時に、この作品を見ていると、働く場所もまた人生にとって大切な居場所のひとつなのだと気づかされる。仕事はときに人を追い詰める一方で、誰かと出会い、支え合い、自分の役割を見つける場所にもなる。普段は仕事に追われて考える余裕がなくても、少しそこから離れられる連休だからこそ、自分にとって働くことや居場所とは何なのかを、彼らの姿に重ねて考えてみたくなる。
エミー賞で8部門にノミネート
作品への評価も高く、シリーズは米テレビ界で数多くの賞を獲得してきた。手がけるのは、真田広之主演の『SHOGUN 将軍』など、クオリティ重視のドラマで知られるディズニー傘下のスタジオFX。シーズン4もまもなく発表される第78回プライムタイム・エミー賞で、シリーズ部門の作品賞を含む8部門にノミネートされている。
そして、2026年6月から配信されているシーズン5は、ついに最終章となる。製作陣はこのシーズンについて、登場人物たちが「レストランを完璧にするのは料理ではなく、人なのかもしれない」と気づいていく物語だと語っている。最初はまとまりのなかった厨房の面々が、最後にどんな場所をつくり上げるのか。
騒々しくて、苦しくて、それでもどこか温かい彼らの日々を、シーズン1から最終章まで続けて見届けたい。一秒たりとも無駄にしない彼らを追いかけているうちに、こちらも気づけば次のエピソードへ進んでしまうはずだ。
長谷川朋子
はせがわともこマイナビニュースでは、9月19日~23日の「シルバーウィーク」を楽しむための情報をお届けする特集「11年ぶりの5連休! シルバーウィーク満喫術」を展開中。



