サッカーW杯の開催国への関心が高まるこの時期、その文化や空間を映像で味わうのも一興だ。せっかく観るなら、異国の風景に見とれるだけでなく、人の感情にじわじわと引き込まれていく作品を選びたい。

米倉涼子主演のPrime Videoオリジナル映画『エンジェルフライト THE MOVIE』は、メキシコも舞台になるヒューマンドラマだ。死を扱った作品なのに、観終わったあとに不思議と温かい気持ちになる。その理由は、メキシコという国の死生観そのものにあった。

  • 『エンジェルフライト THE MOVIE』Prime Videoで独占配信中

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海外で亡くなった人の遺体を故国へ送り届ける仕事

米倉涼子が演じるのは、羽田空港内の小さな会社「エンジェルハース」で働く国際霊柩送還士・伊沢那美。海外で亡くなった人の遺体を故国へ送り届けるという仕事があることを、この映画で初めて知る人も多いはず。原作は佐々涼子のノンフィクションで、ドラマシリーズの続編として映画化された。脚本は『リーガルハイ』の古沢良太。感動を正面から狙いにいかない古沢スタイルのひねりが、この作品を単なるお涙頂戴に終わらせていない。

プロとして遺体と遺族に向き合う那美が、今作ではメキシコへ飛ぶ。実は8年前に消息を絶った恋人・幸人(向井理)の手がかりも追って、メキシコ中部の古都グアナファトへ向かうのだ。那美と幸人のストーリーは、メキシコの街を背景に静かに、でも確かに動いていく。

そのメキシコで担当する送還案件が、またとりわけ胸を打つ。駆け落ち同然でグアナファトにたどり着き、ともに生きることを選んだ夫婦の物語だ。鶴田真由と木村祐一が演じるふたりの、不器用な生き方の中にある愛情の深さが、じわじわと伝わってくる。思わず目が潤む。

ただ、この作品には抗えない残酷さがある。必ず誰かの死から、物語が動いていく。その遺体と遺族に那美たちが向き合うたびに、死んだ人がどう生きたかが、静かに浮かび上がってくる。悲しいのに温かい。この作品が持つ不思議な温かさの正体は、きっとそこにある。

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視聴後に飲みたくなるウィンナー入りみそ汁

舞台のグアナファトという街も、この映画の語り手のひとりだ。「死者の日(Dia de los Muertos)」の祭りで知られ、カラフルで幻想的な風景が広がる。日本人は「死=暗いもの」と捉えているが、死者の日は悲しむための祭りではない。亡くなった人を迎え、ともに笑い、送り出す。骸骨のメイクをした人々が街にあふれ、花が咲き、音楽が鳴る。その根底にあるのは、死への恐怖ではなく、死者への愛情だ。ディズニー映画『リメンバー・ミー』を観たことがある人なら、イメージしやすいだろう。色彩あふれる世界観が、物語の体温とマッチする。

このシリーズが「泣けてほっこりする」と言われる理由は、まさにそこにある。テーマは重い。でも、悲しみの重力に引っ張られたままでは終わらない。それはきっと、エンジェルハースのチーム力があるからだ。那美は短気で口が悪いが、誰よりも情に厚い。遠藤憲一演じる会長・柏木は、強面で金勘定に厳しい一方で那美の一番の理解者だ。ふたりのバチバチしたやり取りが小気味よい。野呂佳代演じる松山みのりも、コミカルな存在感で場を和ませる。シリアスな仕事の合間に生まれるこういう掛け合いが、作品全体の空気を軽くしている。

実はドラマ版では、松本穂香が演じる新入社員・高木凛子の成長物語が丁寧に描かれている。彼女の目線を通じて、このチームの仕事への誠実さや、那美というリーダーの人間味が伝わってくる。那美に振り回されながらも食らいついていく凛子の姿を知っていると、映画版で葛藤しながら自分なりの答えを見つけ出していく様子にも、自然と目が向いてくる。キャラクターへの解像度が上がるぶん、映画の余韻もより深くなるはずだ。

ネタバレはしない。ただひとつだけ言うと、観終わったあとにウィンナー入りみそ汁が飲みたくなる。ウィンナー入りみそ汁って、正直おいしいのか半信半疑になる組み合わせだ。でも、那美の心の揺れに共感できるからこそ、なぜか作って飲みたくなる。この映画が丁寧に仕込んでいる伏線の着地点に、そんな日常のささやかな幸福がある。死と生を真正面から描きながら、差し出されるのがその一杯だ。

泣くまい、安易に泣かされたくないと思いながら観ていても、気づけばずしっと響いている。死を恐れるのではなく、受け入れて、送り出す。そんな死への向き合い方を、那美たちが明るく体現してくれるからかもしれない。映画版はメキシコという国の死生観がその背景に重なることで、その気づきがより鮮やかに届いてくる。

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