猛暑で外に出る気力が湧かない日は、じわじわと不穏な世界にのみ込まれるドラマ『七夕の国』(ディズニープラス スターで独占配信中)がおすすめだ。『寄生獣』で知られる岩明均による、"映像化不可能"とも言われたSF漫画を実写化した超常ミステリー。次々と現れる謎を追っているうちに、気づけば暑さを忘れてしまう。
戦国時代から現代へ――冒頭から漂う「ただ事ではない」空気
現代を舞台にした超常ミステリーと思って見始めると、いきなり戦国時代の合戦が始まる。この意外な幕開けが、「これは単なる怪奇事件では終わらない」という期待を一気に高めてくれる。木の切り株のような形をした丸神山を望む里を侵略しようとする勢力と、球体の力で迎え撃つ里の民たち。数百年の時を超えて続く物語の始まりが、ここにある。
現代へと舞台が移り変わると、不気味な始まりとは一転し、大学で「新技能開拓研究会」の部長を務める南丸洋二(細田佳央太)、通称ナン丸が登場する。「ちょわあああ!」と叫びながら物体に小さな丸い穴を開けるという、一見すると役に立ちそうもない超能力の持ち主だ。
就職活動を控え、自分はまだ何者でもないと感じながら日々を送る、ごく普通の大学生でもある。だが、その能力をきっかけに、自らのルーツにもつながる黒嶺郡丸神町の謎へと巻き込まれていく。細田佳央太は、その素朴さと誠実さを肩肘張らずに演じ、超常現象が次々と起きる物語に不思議なリアリティを与えている。
ナン丸を黒嶺郡丸神町へ導くきっかけとなるのが、民俗学教授・丸神正美(三上博史)だ。丸神の里の謎を追って失踪した教授であり、ナン丸とは丸神正頼の子孫という思いがけない縁で結ばれている。多くを語らないまま姿を消した人物だからこそ、「この先に何が待っているのか」という興味をさらにかき立てる。セリフや感情を抑えた三上博史の“引き算”の演技が、丸神教授という人物の得体の知れなさをより印象づけるのだ。
そして、物語が進むにつれ、丸神頼之(山田孝之)の存在も少しずつ輪郭を現していく。球体の力で日本中を恐怖に包む謎の男であり、その姿が見えるたびに不穏さは一層増していく。一瞬の登場だけでも強烈なインパクトを残す山田孝之が、作品全体に張り詰めた緊張感をもたらしている。細田佳央太の飾らない演技、三上博史の意味深な佇まい、そして山田孝之の怪演。この三者三様の演技が、『七夕の国』の不穏な世界を支えている。
『ガンニバル』にも通じる、日本の“じめっとした恐怖”
原作は、『寄生獣』で知られる岩明均が1996年から99年にかけて発表した同名漫画だ。独創的な世界観から、長らく「映像化不可能」とも言われてきた作品だった。球体という異質な超能力を描きながらも、本質にあるのは、力を持つ人間の欲望や選択、血筋やルーツに縛られる人々、そして閉鎖的な村で受け継がれてきた価値観だ。単なるSFやホラーでは終わらない、人間や社会の姿を映し出す奥行きが多くの読者を惹きつけてきた。
ディズニープラス日本オリジナル作品として実写化され、高い評価を受けた『ガンニバル』の制作陣も参加している。閉鎖的な集落に、土地に根付く因習、現代と地続きにある恐怖――。日本ならではのじめっとした世界観は『七夕の国』にも通じるものがある。そして、日本人にはどこか身近に感じられる地方の因習や土着の価値観を、普遍的な超常ミステリーへと昇華させている。
ドラマ『ガス人間』を手掛けた韓国の映画監督ヨン・サンホも、本作の原作を高く評価する一人だ。その衝撃をスティーブン・スピルバーグ監督の『未知との遭遇』を初めて観た時の感覚になぞらえ、実写シリーズ化を歓迎するコメントを寄せている。日本だけでなく海外のクリエイターを惹きつける発想の豊かさも、本作の魅力と言えるだろう。
最後まで見届けたくなる理由は、謎の積み重ね方にもある。球体で人や物が丸くえぐられる怪事件、季節外れの七夕祭り、町民だけが見る悪夢、丸神一族に受け継がれる掟と、張り巡らされた伏線が少しずつつながり始めると、「あと1話だけ」のつもりが止まらなくなる。
『七夕の国』は、派手な恐怖で驚かせる作品ではない。違和感が少しずつ積み重なり、気づけば不穏な世界にのみ込まれていく。ふと思い出すのは、ナン丸が何気なく口にした「必要とされるってうれしいよね」という一言だ。ごく普通の大学生だった彼が、自らの血筋や数百年続く因習と向き合っていくからこそ、その言葉がのちになってまったく違う響きを帯びてくる。
見終えた後もしばらく、丸神の里の夏の風景が、不穏な記憶とともに頭から離れなくなる。
長谷川朋子
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