夏休みが近づき、寝台特急「サンライズ瀬戸・出雲」の臨時列車や旅行商品が発表され、話題になっている。日本で唯一の定期夜行列車であり、個室寝台の居住性も快適で人気が高い。動画サイトの再生数も多く、鉄道系YouTuberが一度は取り上げる定番テーマともいえる。しかし、そのコメントやSNSを見ると、車両の老朽化を心配し、運行継続を案ずる声も多い。2年後の2028年に30周年を迎える「サンライズエクスプレス」はどうなるのか。
「サンライズ瀬戸・出雲」は、もはや詳しい説明が要らないほどに有名な夜行列車だろう。最近話題になったニュースのひとつに、臨時列車「サンライズ出雲91・92号」が挙げられる。使用車両の285系(7両編成)は5編成あり、うち1編成は車両点検などで待機中となる。多客期はその待機編成も繰り出し、5編成がフル稼働体制に入る。
今夏は8月のお盆期間だけでなく、9月のシルバーウィーク期間も臨時列車を設定した。下り「サンライズ出雲91号」は東京駅22時21分発・出雲市駅(翌日)13時32分着で、乗車時間は15時間11分。個室の旅をたっぷり楽しめる。飲み物と食糧の確保を忘れないようにしたい。上り「サンライズ出雲92号」はさらに乗車時間が長い。出雲市駅14時5分発・東京駅(翌日)6時23分着で、乗車時間は16時間18分。東京駅へ6時台に到着するため、東海道本線の車窓から日の出(サンライズ)を眺められる設定も良い。
「サンライズ瀬戸」の延長運転も多客期の恒例となった。かつて松山駅まで延長したこともあったが、現在は琴平駅まで、下り列車限定で実施している。今夏も7~9月にかけて、金曜日と休前日に東京駅を発車する下り列車に設定。琴平駅まで乗り通す場合、重複する高松~宇多津間(往復)は運賃・料金に反映されない。その意味では「乗り得」といえる。
JR西日本の子会社である日本旅行が、「tabiwa」ブランドで販売する先行販売旅行商品も注目したい。今夏(7~9月)はおもに週末の上り列車を対象としており、5月27日から販売を開始している。一般窓口販売は出発日の1カ月前から始まるが、オリジナルグッズ付きという旅行商品の体裁を整え、9月23日出発分まで販売する。
乗車駅は高松駅と出雲市駅に限定され、下車駅は東京駅のみ。一例として、高松駅から東京駅まで「ソロ」(B寝台個室)を利用した場合の料金は2万9,000円。「みどりの窓口」などで買うと2万1,860円(繁忙期)だから、7,140円の割高になる。これを手数料として納得できるかどうかは「オリジナルグッズ」の価値にかかっているだろう。もっとも、他社の旅行商品は宿泊や片道の交通手段もセットになっていてさらに高額だし、出発1カ月前に席を確保できず、成立しないこともある。それに比べれば、「tabiwa」はこの列車以外の縛りがなく、申込み時に席も確定できるから良心的といえる。
正式なツアー名は「サンライズエクスプレスに乗る 東京への旅2日間」。すべての寝台個室を選択できるが、ノビノビ座席と「サンライズ出雲92号」は対象外とされている。
JR西日本社長は「極力長く」とコメント、しかし後継車両は未定
多客期に待機車両を動員して臨時列車を運行し、早期寝台確定ツアーも実施するなどの施策がある。これこそが「サンライズ瀬戸・出雲」の人気を象徴しているし、運行会社も重要な列車として扱っていると考えられる。それでも鉄道ファンからは、「いつまで走らせてくれるか」と心配する声が上がる。鉄道ファンでなくても、「いまのうちに乗っておかなければ」と気が急く。こうした心理が人気をさらに高めているともいえる。
鉄道ファンが心配する理由のひとつに、「サンライズ瀬戸・出雲」の使用車両である285系の老朽化がある。特急車両の寿命に関して、新幹線は15~20年程度、在来線は25~40年程度が一般的とされる。285系は1998年デビューだから、車齢は27~28年といったところ。ただし、毎日のように約800~900kmを走り、2階建て構造に加え、シャワーなどの水回り配管という特殊条件がある。昼間の特急列車より老朽化の進行が早いかもしれない。
2014~2018年にかけて客室の壁材や床材などをリフォームし、トイレも和式から洋式に変更した。パンタグラフを増設するなど、性能面も改善したという。乗客にとって見た目は維持できているとはいえ、登場時と比べて乗り心地が変わっているおそれもある。製造から16~20年目でリフォームし、それからまた10年以上が経った。そろそろ新しい知らせがあっても良さそうに思える。もう一度リフォームか、新車導入か。最悪の場合、廃止か。
注目すべきニュースは、共同通信社が3月11日に配信した「寝台特急サンライズ、ゆっくりに 唯一の定期、『極力長く運行を』」。この中で、JR西日本の倉坂昇治社長が「非常に人気の列車で、極力長く運行したい」とコメントしたと報じている。非常に心強い発言だが、「人気列車だから走らせたいものの、具体的な予定はない」という話でもある。「極力長く運行」という表現からは、車両寿命を見極めながら運行を続けようとする姿勢もうかがえる。「新型車両は未定」「不定期化で車両を温存」という意味も含まれているかもしれない。
「サンライズ瀬戸・出雲」の今後に関して、運行開始から30年を迎える2028年以降、4つのシナリオがあるのではないかと筆者は考える。その4つとは、「早期廃止」「定期運行を数年継続後に廃止」「不定期化で10年以上延命」「新車に置き換え」である。
「早期廃止」のおもな理由は、車両の老朽化だけにとどまらない。今年3月のダイヤ改正で、下りの東京駅発車時刻を繰り上げるきっかけとなった「夜間保守時間の確保」と、貨物列車の増便も要因となりうる。東京駅から九州方面のブルートレイン、東京~大阪間の寝台急行「銀河」、夜行列車の快速「ムーンライトながら」などが廃止に至った理由のひとつでもある。九州方面のブルートレインで使用したダイヤの一部が貨物列車に転用されている。
夜間の保守に関しては、少し状況が変わりつつある。ひとつはDX(デジタル化)による省力化・短時間化。画像認識AIを用いて危険箇所を検知し、ピンポイントで保守対応できる。もうひとつは働き方改革で、保守時間を夜間ではなく日中に設定する線区が増えている。夜間の労働者不足に加え、明るい日中のほうが作業効率が良いこと、終電から始発までの短時間作業より、日中に列車を運休したほうが作業時間を長く取れることも理由に挙げられる。
大都市以外のローカル線は運休・日中保守が増えている。都心でも先日、田町~田端間で集中メンテナンスが行われた。そう考えると、夜間の保守だけで「サンライズ瀬戸・出雲」の将来を判断することは早計かもしれない。夜間保守作業の時間を確保するため、一時的に熱海駅あるいは名古屋駅発着に変更しながら運行を継続する可能性もある。
「定期運行を数年継続後に廃止」「不定期化で10年以上延命」は285系の老朽化に伴うもので、どちらも新型車両を検討するための先延ばしであってほしい。
「定期運行を数年継続後に廃止」は、現状の定期列車のまま運行する場合、車両の老朽化でストップがかかれば285系の使用を終了し、列車は廃止となる。「不定期化で10年以上延命」する場合、毎日ではなく週末および休前日のみの運行として運行回数を減らす。繁忙期のみ毎日運転とし、閑散期は運休して完全に臨時列車とする。あるいは「サンライズ出雲」のみ定期運行とし、「サンライズ瀬戸」は臨時列車化する。
「新車導入」が最も理想的で、鉄道ファンも旅行ファンも幸せな決着だろう。運行するJR各社にとっても悪い話ではない。旅行シーズン以外でも満席の日が多く、窓口などで予約できればかなり幸運。「仕事などが休みの日だから予約する」だと買えない。「買えた日に休む」つもりでチケットを手配する必要がある。日本経済新聞電子版2025年12月12日付「JR寝台特急『サンライズ瀬戸・出雲』、東京発24分繰り上げ 保守時間確保」でも、JR東海が「夜行列車ブームもあって、速達性よりも移動自体を楽しむニーズが高い」とコメントしている。
最近の利用状況は公式に発表されていないものの、JR東海が多客期の輸送量(東海道本線静岡~浜松間)を明らかにしており、今年のゴールデンウィーク期間は13日間で約8,000人だったという。在来線の列車としてはドル箱のはず。高い利用率を考えると、収益性の見込める列車である可能性は高い。ゆえに特急料金の見直しを検討する余地もありそうに思える。
今回紹介した4つのシナリオで、最も良い決着は「新車導入」による存続ではないか。鉄道ファンとしては、新型車両のアイデアを持ち寄ってSNSで盛り上げていきたい。企業もSNSを重視するから、機運を高めていくことが大切だと思う。
現在の「サンライズ瀬戸・出雲」の価値を列挙すると、まず便利さとして「日中有効時間帯の活用」がある。新幹線や航空便の終了後に発車し、始発便より速く目的地に着く。これは高速路線バスの夜行便も同じだが、居住性において「サンライズ瀬戸・出雲」は夜行バスと格段の差がある。次に「夜行列車体験」。夜の景色、夜明けの景色、列車に泊まるというだけで非日常的体験がある。「個室移動」も重要で、プライバシーや防犯面でも個室は安心感・特別感がある。「観光コンテンツ」として乗車体験を楽しみ、共有する価値もある。
近年は「インバウンド需要」もある、夜行列車は海外でも人気で、「サンライズ瀬戸・出雲」は「日本で唯一の定期夜行列車」として乗車希望が多いという。インバウンド特需で各地の宿泊料金が高騰している中、寝台特急の個室料金は相対的に安く感じる。
これらを加味して、新「サンライズエクスプレス」のふさわしい姿を考えてみよう。まず、私案ではあるがノビノビ座席は廃止し、個室を増やしたい。ノビノビ座席の役割は3列座席の夜行バスに譲ろう。シャワールームについても、乗車した全員分を賄えないし、シャワーカードの買い占めが報じられたように、転売や記念購入のネタになってしまっている。出発前または到着後に周辺の温泉や大浴場を利用するか、スポーツクラブ割引利用券を配布したほうがいい。筆者としては、やはり個室やロビーを増やしたい。ビュッフェが望ましいところだが、せめて飲料・菓子類の自販機も装備してほしい。
運賃・料金に関して、単価を上げる方向で考えたい。現行の料金では、「サンライズエクスプレス」の価値を回収できていないと思う。まず考えるべきは特急料金の見直し。全区間乗車しても、特急料金の上限は3,830円で、安すぎると感じる。これは「601キロ以上、A特急料金、通常期」の料金だが、「サンライズ瀬戸」は約800km、「サンライズ出雲」は約900kmだから、あと1つか2つ上の料金を設定したいところ。601km以上のキロ単価を適用し、801km以上は5,110円、901km以上は5,750円でどうだろう。これをJR東日本の新たな夜行特急列車「ルナ・アズール」でも適用したい。いっそすべて「tabiwa」のようなJR系旅行会社のツアー商品にしてもいい。単価を上げて転売を防ぐ。ツアー扱いなら夜食や朝食の弁当も組み込める。
JR西日本は「WEST EXPRESS 銀河」を運行し、JR東日本もE657系改造の「ルナ・アズール」を準備中。JR九州は昨年12月に「夜行列車で行こう! 787系ドリームつばめの旅」を運行するなど、夜行列車の可能性を模索しているように見える。「サンライズ瀬戸・出雲」は定期夜行列車として実績のある列車だけに、存続・新車導入の方向で検討してほしい。


