朝日新聞電子版によると、JR四国のキハ185系がJR九州に譲渡されたという。用途は特急「ゆふ」の車両追加とされている。キハ185系は国鉄時代の1986年、四国向けに開発した特急形気動車。翌年の国鉄分割民営化、JR四国の発足に向けて、四国の特急列車網を整える目的で導入された。当初は運転台付の普通車と、グリーン席・普通席を備えた中間車があり、普通席のみの中間車はなかったという。あらかじめ短編成の特急を設定し、多客時に運転台付の普通車を増結するという柔軟な対応とするためだった。
しかし、JR四国が1990年から2000系を投入すると、キハ185系は瀬戸大橋線経由の特急列車から退いた。現在は徳島線経由の特急「剣山」をはじめ、臨時特急列車や普通列車などに使用されている。観光列車に改造された車両もあり、2代目「伊予灘ものがたり」をはじめ、「四国まんなか千年ものがたり」「志国土佐 時代の夜明けのものがたり」で活躍している。
一方、JR九州は1992年、増収を目的として、博多~別府間を久大本線経由で運行していた急行「由布」と、熊本~別府間を豊肥本線経由で運行していた急行「火の山」をそれぞれ特急列車へ格上げした。その際、JR四国で余剰となったキハ185系を購入。一気に新型車両を開発投入するよりコストを節約するためだった。いまとなっては車両新造にかかるCO2排出を回避できたわけで、この方策は先見の明があったといえる。
こうして、急行「由布」を格上げした特急「ゆふ」と、急行「火の山」を格上げした特急「あそ」が誕生。「あそ」は2004年、熊本~人吉間で運行された急行「くまがわ」を組み込み、「九州横断特急」となった。
昨年12月、JR九州は2026年春のダイヤ改正について概要を発表したが、特急「ゆふ」の運行本数に増減はなかった。したがって、新たに追加するキハ185系は「ゆふ」の増発ではなく増結用と推察される。通常の「ゆふ」は2両編成だが、多客期に最大5両編成まで増結する場合があるとのこと。キハ185系を増結するなら同型車両が望ましい。あるいは製造から約40年が経過しているため、故障したときの予備用、交換部品取り用とも推察される。ちなみに、豊肥本線経由の「九州横断特急」は2026年春のダイヤ改正後、下り「九州横断特急5号」(現在は熊本発大分行)を別府駅まで延長するという。こちらは車両数に影響しないようだ。
現在、「ゆふ」と同じく久大本線経由で運行している特急「ゆふいんの森」はキハ71系とキハ72系を使用している。キハ71系はキハ58形・キハ65形の改造車両、キハ72系は新造車両である。このキハ72系を追加で新製投入すれば、キハ185系の運行回数を減らし、余剰車両を発生させて増結する方法もあったかもしれない。しかし、車両新造にはコストと時間を要するから、JR四国からキハ185系を追加で譲受したほうが即効性がある。観光重視の「ゆふいんの森」に対し、「ゆふ」は都市間輸送重視という位置づけだろう。「ゆふ」にはキハ185系のようにビジネスライクな特急車両がふさわしいと考えたかもしれない。
「JRからJRへ」の譲渡は前例が多い
JR九州の車両譲受はキハ185系の他にもある。2025年5月にJR東日本からE501系、同年6月に東京臨海高速鉄道(りんかい線)から70-000形を譲受したと報じられた。車両譲渡といえば、大手私鉄から中小私鉄へ、あるいはJR各社から中小私鉄へという流れが多いから、「JRからJRへ」「三セクからJRへ」という流れは珍しく感じる。
ただし過去にさかのぼれば、JR同士で車両譲渡した前例は多い。かつての国鉄は全国組織だったため、広域な転属も行われたし、同じ形式の車両を離れた地域に導入する事例もあった。そもそも車両の規格が同じだから転属が可能になるわけで、その伝統がJR発足後も受け継がれたといえるだろう。国鉄形式同士の譲渡は違和感がなく、珍しいとは感じにくい。
振り返ると、JRグループ発足から2年後の1989年、JR四国のキハ65形がJR西日本とJR九州へ譲渡された。当時、JR西日本は自社のキハ65形をいくつも観光列車に改造していた。しかし先に投入した「エーデル鳥取」を増発したいときに、種車のキハ65形が足りなくなった。そこで、JR四国で余剰となったキハ65形を譲受し、「エーデル北近畿」に改造した。一方、JR九州は急行用車両の冷房車を増やすため、キハ65形を譲受した。
1990年にJR東海は新幹線0系をJR西日本へ譲渡している。山陽新幹線で短縮編成を増やす際、先頭車両が足りなかったためだという。1996年と2003年にも、新幹線100系がJR東海からJR西日本へ譲渡された。こちらも理由は編成短縮のためだった。2011年には、700系がJR東海からJR西日本へ譲渡され、JR西日本が保有していた300系を置き換えた。
2000年に近郊形電車の113系がJR東日本からJR四国へ譲渡され、JR四国に残っていた111系を置き換えた。2005年に通勤形電車の103系がJR東日本からJR西日本へ譲渡され、JR西日本の車両不足を補っている。2009年には、JR東日本から常磐線用の近郊形電車415系がJR九州へ譲渡された。JR九州は経年の長かった415系をJR東日本からの415系で置き換えている。
その他、JR旅客会社からJR貨物への機関車の譲渡も多数行われた。寝台特急など客車列車の廃止がおもな理由だった。除雪用機関車も保線用モーターカーと交代したため、JR旅客会社にとって機関車を所有する必要がなくなった。2005年にJR東海の客車運用が終了すると、JR四国へ14系座席車が譲渡された。JR四国では臨時列車として運用された。
観光列車の用途では、2000年にJR東日本の旧型客車がJR北海道へ譲渡され、「SLニセコ号」で使用されている。2014年にJR北海道のキハ141系気動車がJR東日本へ譲渡され、「SL銀河」の客車として改造されている。
希少用途車両の導入コストを下げたい
JR東日本の常磐線から、JR九州の関門トンネル区間へ交直流電車を譲渡する流れは、前述の415系で実施済み。E501系はこの流れを踏襲した施策とみられる。E501系は交直両用電車の特性を生かせる関門トンネル区間に投入し、現行の415系を置き換えると推察される。おもな運転区間は下関~小倉間だから、自社でわざわざ交直両用電車を新製するより、JR東日本の交直両用電車を譲受したほうが費用を節約できる。
JR九州の415系に関して、ステンレス車体の1500番代が現在も活躍中だが、すでに製造から40年が経過している。E501系も古い車両だが、製造から30年以上とのことで、415系より車齢が10年ほど若返ることになる。415系よりE501系のほうが長持ちするだろう。将来的にE501系が老朽化した際、再びJR東日本からE531系を譲受するという話になるかもしれない。
東京臨海高速鉄道から譲受する70-000形は直流電車。JR九州の直流電化区間は関門トンネルの他に筑肥線・唐津線の姪浜~西唐津間がある。現在、筑肥線で活躍するJR九州の車両は305系と303系、103系1500番代の3形式。305系と303系は福岡市地下鉄空港線に乗り入れる。103系1500番代は現在、3両編成で筑前前原~西唐津間のローカル運用に使用される。
1996年以降に導入された70-000形は、1982年に製造された103系1500番代の後任と見込まれる。譲渡予定の車両が10両とも報じられ、先に先頭車両2両を輸送したとの情報もある。先頭車両はモーターを搭載していないため、JR九州が電動車化改造を行う可能性があり、2両編成5本にするかもしれない。ちなみに現在、103系1500番代は3両編成5本である。筑前前原駅から西側の筑肥線は2両化となりそうだ。もし3両編成を維持する場合、計10両だと3両編成3本で1両余る。今後、追加の譲渡があるか、とくに中間車の譲渡があるか、注目したい。
JR九州の在来線において、主力となる車両は電化区間を走る交流電車と、非電化区間を走るディーゼルカー(ハイブリッド車両も含む)である。これらの用途には新製車両を導入している。一方、車両を譲受した特急形気動車、交直両用電車、直流電車は、いずれもJR九州の中で特殊な区間を走る車両となっている。希少な区間に向けた少数の車両を新製すれば、設計開発のコストが大きくなり、量産効果が出にくい。
とくに電車に関して、国はJR・大手私鉄・地下鉄等の事業者を念頭に、「2035年までにIGBT方式以降のインバータ制御にせよ」「非電化区間はなるべくハイブリッド車両にせよ」との方向性・目標を示している。あと9年で該当車両をすべて新型車両に置き換えるとなると、大きな費用負担になる。それだけに、手頃な中古車両を導入したい。これは西武鉄道が小田急電鉄や東急電鉄から中古車両を購入した経緯に似ている。
JR九州の特急形気動車、交直両用電車、直流電車は、3分野とも中古車両の置換えになると予想される。もし新造するとしても、九州新幹線のN700系や西九州新幹線のN700Sのように、開発済みの同形式車両を購入するのではないか。ところで、新造するにしても譲渡するにしても、JR九州の場合は外観の装飾や客室内の変化が気になる。「中古が来た」ではなく、「新車が来た」と思わせるようなデザインに期待したい。



