テレビ画面を注視していたかどうかが分かる視聴データを独自に取得・分析するREVISIOでは、12日に放送されたNHK大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』(総合 毎週日曜20:00~ ほか)の第39話「白河の清きに住みかね身上半減」の視聴分析をまとめた。

  • 『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第39話より (C)NHK

    『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第39話より (C)NHK

「おていさん!」「おていちゃん!」

最も注目されたのは20時20分で、注目度75.0%。蔦重が松平定信(井上祐貴)にケンカをふっかけたことを聞いたてい(橋本愛)が気を失うシーンだ。

山東京伝作の3冊の好色本を、教訓読本と偽って売り出した蔦重(横浜流星)はお白州へ連行された。引っ立てられた蔦重と山東京伝の前には、北町奉行・初鹿野信興(田中美央)の姿があるが、取り調べは定信が直々に行った。蔦重と定信が初めて対面した瞬間である。

一方、耕書堂では鶴屋喜右衛門(風間俊介)たち地本問屋以外に、須原屋市兵衛(里見浩太朗)も加わり、本屋の行く末と蔦重の処遇を案じていた。耕書堂は2度も取り締まりを無視している。楽観はできない。ていは集まった面々に頭を下げた。定信による尋問が始まると、定信は厳しく蔦重に詰問を繰り返すが、蔦重は現在の市中の情勢を魚と川に例えて反論する。ふてぶてしいその態度に次第に怒りを募らせる定信。「白河の清きに魚住みかねて元の濁りの田沼恋しき」と、蔦重が流行りの狂歌を持ち出すと、場の空気に緊張が走る。

それでも蔦重は、なおもひょうひょうと持論を展開する。信興は堪えきれず「引っ立てい!」と部下に命じると「私ゃねぇ、越中守様のためを申してんです! 分かってくださいますよねぇ!」と、蔦重は声を張り上げた。「越中守様相手に!?」「盛大に戯けたってことですかい?」長谷川平蔵(中村隼人)から事の次第を聞いた喜右衛門と市兵衛は、身の程をわきまえぬ蔦重にあきれるしかなかったが、隣にいたていは、あまりの衝撃に膝から崩れ落ちる。「おていさん!」「おていちゃん!」ていを案じるみなの声が耕書堂に響き渡った。

  • 『べらぼう』第39話の毎分注視データ推移

    『べらぼう』第39話の毎分注視データ推移

「おていさんぶっ倒れるのも当然だな」

注目された理由は、見通しの甘い蔦重と、その身を案じるていに視聴者の関心が集まったと考えられる。

地本問屋は出版統制により、自主検閲を行った上で出版を許されることになったが、蔦重はそんなことはお構いなく、出版が禁じられている好色本を小細工を用いて教訓読本として売り出した。行事役も含め、関係者はみなこの本について楽観視していたが、幕府は厳しく取り締まりに動く。絶版だけにとどまらず、蔦重や京伝たちは連行され、その場で定信と対峙(たいじ)することになった。蔦重は一歩も引かずに持論を展開するが、定信が耳を貸すはずもない。空気読めなさすぎだ。その一部始終を聞かされたていが倒れるのも無理はない。

SNSでは「初対面のきっかけが『嘘ついてエロ本書いたから』ってとんでもない理由だな」「まあ蔦重はお上を舐めすぎてたわけだよね」「おていさんぶっ倒れるのも当然だな」と身の程知らずの蔦重が話題となった。

今回、奉行として登場した初鹿野信興は江戸時代中期の旗本で、北町奉行を務めた人物。依田政次の三男で、初鹿野信彭の婿養子となった。実務能力に優れた町奉行として評価されており、作中でも描かれた地本問屋株仲間の結成を主導するなど文化政策にも関与した。長谷川平蔵宣以とも親密で、平蔵が人足寄場の維持費を捻出するために、幕府から御用金3000両を借り受け、それを全額銭に替えることで一時的に銭高を引き起こすことがあった。その際に信興の協力を得て商人たちに「銭相場高騰のため物価を下げよ」と促し、幕府が物価抑制を図っているように見せかける。その後、銭高が進んだ時点で銭を再び両に戻し、3000両を幕府に返金し差益の約500両を得て、それを人足寄場の運営費に充てたとされている。完全なインサイダー取引だ。

なお作中の翌年、1792(寛政3)年に48歳で亡くなっており、婿養子・信敏がショックのあまり錯乱し自殺している。町奉行の後任には平蔵が有力視されていたが実現はしなかった。蔦重が持ち出した狂歌「白河の清きにすみかねてもとの濁りの田沼恋しき」は、松平定信の寛政の改革に対する庶民の不満を表現したものとして有名。「白河」は白河藩主である松平定信を暗示し、「田沼」は前任の老中・田沼意次を指す。清廉潔白な定信の政治が窮屈で、賄賂や商業優遇で自由だった田沼時代を懐かしむ皮肉が込められている。

こんな狂歌を用いながら、定信の味方だと言ったところで信じてもらえるわけがない。また、行事役が検閲後に押印した印鑑は黒だったが、江戸時代では朱色の顔料は武士階級にのみに許されたものであり、庶民は黒の顔料を使っていたため。細かな設定がさすが大河ドラマだ。