三谷幸喜25年ぶりの民放ゴールデン・プライム帯連ドラに、菅田将暉、二階堂ふみ、神木隆之介、浜辺美波らがそろう豪華キャスト。今秋ドラマの中でも、『もしもこの世が舞台なら、楽屋はどこにあるのだろう』(フジテレビ系、毎週水曜22:00~/以下『もしがく』)の話題性は際立っている。

この機会に連ドラにおける三谷作品をあらためて考えてみようと思ったが、『振り返れば奴がいる』は事実上のデビュー作であり、まだ持ち味を発揮したとは言いづらい。『古畑任三郎』は今作とは異なる1話完結の倒叙ミステリー。『総理と呼ばないで』と『合い言葉は勇気』は視聴者数が伸びず、『もしがく』と比べてもピンと来ない人が多い。

やはり『王様のレストラン』(フジ系、FODで配信中)が最も比較しやすく、多くの人々にわかりやすいだろう。同作を『もしがく』と比較しながらドラマ解説者・木村隆志が掘り下げていく。

  • 『王様のレストラン』(C)フジテレビ/共同テレビ

    『王様のレストラン』(C)フジテレビ/共同テレビ

ドラマ版「三谷喜劇」とは何なのか

三谷幸喜の十八番と言えば、劇作家らしいシチュエーションコメディであることは間違いないところ。「ワンシチュエーションで連ドラを成立させられる脚本家は三谷幸喜しかいない」と言われるほどであり、『王様のレストラン』がまさにそうだった。

ワンシチュエーションでなくても、限られた町やスポット、関連性のある複数箇所における人間模様を描いた作品も多く、『もしがく』もその1つ。そんな限定された空間での人間模様や悲喜こもごもが「三谷喜劇」「三谷ワールド」などと言われ、親しまれてきた。

限定されているのは空間だけではなく登場人物も同様。『王様のレストラン』は店で働く12人、『もしがく』は町で生きる25人の日常が描かれているが、両作に共通しているのは、登場人物のほとんどに短所や人間くさい言動があること。人間のおかしさ、ずるさ、哀しさなどを愛きょうたっぷりに表現した上で、紆余曲折を経て絆を深め、小さな奇跡を成し遂げる等身大のサクセスストーリーが感動を誘ってきた。

『王様のレストラン』で特に感動を誘った“小さな奇跡”は最終話。それは主人公のギャルソン・千石武(九代目松本幸四郎、現・二代目松本白鸚)でも、若きオーナー・原田禄郎(筒井道隆)でも、料理長・磯野しずか(山口智子)でもない、ある1人のレストランスタッフに訪れ、視聴者を笑い泣きさせるエンディングにつながった。

話題性を狙った「極端な設定」「驚がくの急展開」のような脚本家にとって都合のいい手法をほとんど使わないことも三谷脚本の共通点。『王様のレストラン』は飲食店における日常のハプニングや試練を積み重ねた作品であり、カスタマーハラスメント、経営状態の悪化によるリストラ、離れて住む従業員の息子が来店、気難しいVIPの来店、料理人の引き抜きなどのエピソードが描かれた。

『もしがく』も、渋谷の劇場に出入りする人々が紆余曲折を経て絆を深め、小さな奇跡を成し遂げる物語であり、各話のエピソードは日常の小さなハプニングや試練が描かれていくのだろう。

ただ、『もしがく』はあえて『王様のレストラン』よりも過去の時代を選び、1984年のムードをベースにした若者群像劇というムードがある。「三谷自身が若者だったころを描く」というプロデュースは『王様のレストラン』などの三谷作品にはない独自色であり、これがどのように受け止められるのかまだわからない。