大阪・関西万博の会場となった夢洲への鉄軌道アクセスは現在、大阪市高速電気軌道(Osaka Metro)の中央線のみ。8月13日に中央線で運行支障が発生し、約3万人の来場者が孤立した事象も記憶に新しい。「もうひとつ鉄軌道路線があれば良かった」という声もあったようだ。じつは、夢洲へ向けた2番目の鉄軌道アクセスの検討は、2024年11月から「夢洲アクセス鉄道に関する検討会」で行われていた。
大阪府と大阪市による「夢洲アクセス鉄道に関する検討会」は8月6日、「夢洲アクセス鉄道に関する検討について」を発表した。過去に答申されたルートと独自の検討路線を比較したところ、利用者数、費用対便益でJRゆめ咲線(桜島線)と京阪中之島線の延伸が優位となった。2030年秋の統合型リゾート開業を踏まえた検討だが、鉄道建設は時間がかかる。
検討会の想定によると、万博開催時の来訪者は半年間で2,820万人だという。IR開業後は年間2,000万人、万博跡地陸上部開発後は年間3,200万人、万博跡地海上部開発後は年間3,500万人を見込んでいる。検討会は2037年開業を想定し、それまでは中央線とバス輸送でしのぐとのこと。万博開催時ほど来訪者は増えないが、鉄軌道ルートの二重化は急務といえる。
検討対象路線は「答申路線」と「検討路線」の2本。「答申路線」は京阪中之島線の中之島駅から西九条駅、新桜島(ユニバーサルシティ北側付近)、舞洲を経由して夢洲に至る。「検討路線」はJRゆめ咲線(桜島線)を延伸し、舞洲経由で夢洲に至る。さらに京阪中之島線を中之島駅から九条駅へ延伸する。
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夢洲アクセスルートの概略、オレンジは運輸政策審議会と近畿地方交通審議会が答申したルート。赤は検討路線のひとつであるJRゆめ咲線(桜島線)延伸ルート案。青は京阪中之島線の延伸ルート案。緑は開通済みの地下鉄中央線。黒はアクセスルート関連路線(地理院地図をもとに筆者加工)
2つのルートの比較結果をまとめると、「答申路線」の費用便益比は「0.7」~「0.8」、輸送人員は1日あたり6万9,100人。「検討路線」の費用分析比「1.1」~「1.2」、輸送人員は12万1,000人とされ、どちらの要素も「検討路線」が上回る結果となった。
ただし、この結果は社会割引率を4%、夢洲等の沿線開発需要を90~110%で試算した場合。社会的割引率を1~2%とし、沿線開発需要を100%とすれば、「答申路線」の費用便益比は「1」を上回り、国の補助金を得やすくなる。「検討路線」の費用便益比も向上するため、比較すれば「検討路線」の優位は変わらない。
社会割引率は時間の経過による価値の変化を補正する比率である。同様に価値の変化を加味する国債の金利を参考に定められ、2004年に4%とされたままだが、近年は国債の金利が下がっており、費用便益比にも反映されるべきとの意見がある。社会割引率が小さいほど価値は下がらないため、費用便益比は大きくなる傾向にある。
さらに、黒字転換に必要な期間に関して、「検討路線」は40年以内、「答申路線」は40年以内では黒字転換できないという。この比較検討から、「検討路線」が優位として、事業化検討の段階へ進むことにした。事業費算出の精度を上げ、建設計画を深度化していく。あわせて運行計画や整備主体の検討を深度化する。夢洲の沿線開発の動向が見込み通りであるかも調査した上で事業着手の意思を決定し、設計と法令手続きに入るとしている。
利用者視点の分析もある。「答申路線」の場合、新大阪~夢洲間および大阪~夢洲間の所要時間短縮効果がなく、乗換え回数も減らない。一方、「検討路線」は直通列車を運転すれば乗換えがなくなる。同一ホーム乗換えの実施も含めて、新大阪~夢洲間で約9分、大阪~夢洲間で6分の短縮が見込まれている。
「夢洲開発」「大阪五輪誘致」当時からの構想だった
「答申路線」「検討路線」の比較検討は2024年11月からだった。ただし、どちらも構想として長期間を経ている。
「答申路線」の「答申」とは、運輸省(現・国土交通省)の諮問委員会の答申である。大臣から「交通問題の解決方針を審議してほしい」と諮問され、検討の上で答申される。「答申路線」のうち、「夢洲~舞洲~此花区(新桜島)」を結ぶ北港テクノポート線は、1989年の運輸政策審議会答申第10号に記載された。開発中の埋立地のアクセス路線という位置づけであり、テクノポート大阪計画や2008年の大阪夏季オリンピック誘致構想を背景に事業化された。
ところが、五輪候補地の落選によって計画は休止となってしまう。夢洲~コスモスクエア間を結ぶ海底トンネルが鉄道・道路供用でつくられただけだった。このトンネルは大阪・関西万博に向けた中央線の延伸に使われた。北港テクノポート線の一部であり、大阪市高速電気軌道(Osaka Metro)が第二種鉄道事業許可の下で運行している。
「中之島駅~此花区(新桜島)」を結ぶ中之島新線延伸は、2004年の近畿地方交通審議会答申第8号に記載された。項目名は「中之島新線(北港テクノポート線)延伸」。この時点では、京阪中之島線の延伸ではなかった。夢洲~コスモスクエア間に中央線が乗り入れているように、引き続き大阪市高速電気軌道(Osaka Metro)が乗り入れる可能性も考えられる。一方、京阪電気鉄道も乗入れに積極的で、ユニバーサルシティにホテルを開業するほどだった。
ただし、「中之島駅~此花区(新桜島)」間全体では事業費が大きすぎるため、ひとまず西九条駅までの延伸を希望していた。その後、延伸先を九条駅に変更し、中央線に接続する案や、西九条駅から九条駅まで延伸する案もあった。「夢洲アクセス鉄道に関する検討会」は2つの答申区間をまとめて「答申路線」としていることから、一体化した運営を想定して調査したようだが、運営主体は特定していない。
「検討路線」のJRゆめ咲線(桜島線)延伸は、2014年の報道で明らかになった。万博誘致前、統合型リゾート誘致の検討段階で、現在の「答申案」「夢咲トンネル案」と並行して提案されている。「夢咲トンネル案」は現在の中央線延伸区間であり、残り2案が2024年からの「夢洲アクセス鉄道に関する検討会」に引き継がれたといえる。
中之島線の延伸先を西九条駅にできないか
ところで、筆者が気になった点として、「検討路線」の「京阪中之島線延伸」を挙げたい。なぜ西九条駅ではなく、九条駅としたか。九条駅から桜島駅まで、地図上では1本に見えるが、実際は西九条駅で阪神なんば線とJRゆめ咲線(桜島線)を乗り換える必要がある。「答申路線」と「検討路線」の対比で検討するならば、京阪中之島線を西九条駅まで延伸し、JRゆめ咲線に乗り換えるルートが良さそうに思える。九条駅まで延伸すれば、中央線に乗り換えて夢洲駅まで行けるので便利といえるが、「答申路線」と「検討路線」のどちらも経由しないとなると、比較検討で孤立して見える。
つまり、「検討路線」の「JRゆめ咲線(桜島線)+京阪中之島線」は1本のルートになりにくいから、「答申路線」と比較すると違和感がある。ちなみに、JRゆめ咲線(桜島線)だけでも費用便益比は「1.0」~「1.3」、輸送人員は9万4,400人と算出されており、これだけで「答申路線」を上回っている。そもそもなぜ、この比較検討に京阪中之島線が入っているのか。「答申路線」と比較するために「中之島駅~夢洲駅」間を合わせたというなら、九条駅乗換えだと比較ルートから逸れてしまっている。
京阪中之島線延伸は地下トンネルになるだろう。そうなると、九条駅は中之島線の地下駅から中央線の高架駅まで高低差が大きくなる。西九条駅もJR線が高架駅だから同様だろう。利用者目線ではどちらも同じ。乗換え路線に関して、九条駅は阪神なんば線と中央線のみだが、西九条駅は阪神なんば線とJRゆめ咲線・大阪環状線に乗り換えられる。大阪環状線から阪和線(関西空港・和歌山方面)、大和路線(奈良方面)へ直通する列車もあり、選択肢が多い。
京阪中之島線は中之島地区の駅が孤立しており、他路線へ乗り換えにくい。業績も思わしくない。ゆえに京阪電気鉄道は中之島線の延伸に前向きな姿勢を見せている。前述の通り、延伸先を西九条駅から九条駅に変更した経緯もある。その後、九条駅からさらに西九条駅へ延伸する意向も示した。乗換え先の選択肢としても西九条駅は魅力的。京阪電気鉄道は九条駅から西九条駅までの延伸で、並行する阪神なんば線と直通したいという目論見もある。ただし、それは夢洲方面と関連しない。
検討案に京阪中之島線九条駅延伸が含まれている理由は何か。「答申路線」を否定する代わりに、京阪中之島線を救いたいという気持ちだろうか。かねてより夢洲、新桜島に関心を示していた京阪電気鉄道の気持ちを大阪府と大阪市が汲み取ったのかもしれない。

