3番目に注目されたシーンは20時25分で、注目度72.4%。蔦重が須原屋で鱗形屋を追い落とすネタを得るシーンだ。

蔦重が「申椒堂」の前を通りかかると、須原屋市兵衛と勢いよく塩をまく番頭の姿が目に入った。思わず声をかけると、大坂の版元・柏原屋が出版した『節用集』の偽板を、「丸屋源六」という版元が作っており、市兵衛が「丸屋源六」ではないかと疑われたというのだ。

あらぬ嫌疑をかけられて憤る須原屋だったが、蔦重はふと鱗形屋の次男・万次郎との会話を思い出した。万次郎は物之本は地本より儲けが多いと鱗形屋から教えられたと言い、その手元には『節用集』があった。蔦重の脳裏に、鱗形屋が「丸屋源六」ではないかという疑惑がよぎる。須原屋が言うには、「丸屋源六」が見つかれば柏原屋は役人に訴え出るだろうという。鱗形屋の悪事をつかんだかもしれない蔦重だったが、その胸の内では人知れず葛藤がうずまき始めていた。

メンタルを心配する声「蔦重も複雑だっただろうな」

ここは、蔦重が版元となれるチャンスの到来に視聴者の注目が集まったと考えられる。

前回の予告で、今回は偽板をめぐる展開となることは多くの視聴者の知るところであったと思われる。蔦重と孫兵衛は青本の制作を通して意気投合し、信頼関係を構築しつつあるタイミングで鱗形屋による偽板疑惑が浮上。2人の蜜月に影が射す。よいドラマというのはこういうジェットコースターが絶妙だ。

SNSでは、「蔦重って、敏いからこういうの察知するのも早いな…」「青本作りは2人共しっかり楽しそうだったのに、儚い夢だったな」「せっかく鱗形屋とうまく行きそうだったのに、蔦重も複雑だっただろうな」と、蔦重のメンタルを心配するコメントが集まった。

今回の騒動のもととなった節用集というのは、室町時代から江戸時代にかけて作られた辞書の一種。熟語を多く収録して読み仮名をつけて記されていた。江戸時代は識字率が飛躍的に増加した背景もあり、節用集の需要は飛躍的に拡大した。人気の商材である節用集は版元にとって魅力的な商品であり、孫兵衛もそこに目を付けたのだろう。

江戸時代には、出版物に関する権利を有していたのはその出版物の文字や絵が刻み込まれていた版木を製作した者、もしくは所有していた者だった。木版印刷は、1枚の版木に文字や絵を刻んで作った版木を使う。版木は一字一句でも間違いがあれば価値がなくなるので、本を出版するには多くの時間と費用がかかった。そのため、版木自体への財産的価値が認められ、版元は偽板に神経をとがらせていたのだ。