■5位 ついに変わりはじめた民放ドラマの盟主『日曜劇場』
2021年は「37年の歴史を持つフジの『木曜劇場』と、36年の歴史を持つ日テレの『水曜ドラマ』の方向性が変わった」というニュースを5位にあげた。2022年、ドラマ枠の中で変化を感じさせたのは、両者を超える66年の歴史を持つTBSの『日曜劇場』。
冬ドラマの『DCU』はハリウッド大手制作会社と共同制作したウォーターミステリー、春ドラマの『マイファミリー』は3つの誘拐が連鎖する長編ミステリー、夏ドラマの『オールドルーキー』はアスリートのセカンドキャリアにスポットを当てたスポーツヒューマン、秋ドラマの『アトムの童』はゲーム業界が舞台の下剋上物語だった。
特筆すべきは、いずれも独創性の高いテーマであること。2021年の『天国と地獄 ~サイコな2人』『ドラゴン桜』『TOKYO MER ~走る緊急救命室~』『日本沈没 -希望のひと-』も意欲作で圧倒的な支持を得たものの、2作に原作があり、残り2作も作品数の多い入れ替わりファンタジーと救急医療モノだった。
その点、2022年の4作はすべてオリジナルであり、他のドラマ枠では見られないテーマばかり。いずれも果敢なチャレンジであるとともに、複合的な誘拐事件、スポーツの各競技、ゲーム業界を描くことで、ジワジワと対象年齢層を下に広げている様子が伝わってきた。『アトムの童』の主演に28歳の山崎賢人を据えたことも含め、『日曜劇場』が若年層への狙いを強化しているのは間違いないだろう。
ただ、どんなテーマを扱うとしても、『半沢直樹』がヒットした2013年以降から続いている勧善懲悪の世界観は変わっていない。「善悪をはっきり描き、爽快感のある結末につなげる」というコンセプトをキープしているため、これまでの視聴者を置き去りにせず継続した支持を得続けている。
それは同時にNetflixやDisney+などでの世界配信をうかがうものであり、「放送収入の低下を配信収入で補っていく」「これからはコンテンツ制作力で稼いでいく」という局としての意思を再認識させられた。
■4位 『鎌倉殿の13人』“大河マニア”三谷幸喜はやっぱり凄かった
今年最もツイッターでつぶやかれたドラマは、『鎌倉殿の13人』で間違いないだろう。
序盤からツイッターの世界トレンド1位を取り続け、裏番組に『ワールドカップサッカー 日本VSコスタリカ』(テレ朝系)、『M-1グランプリ2022』(ABCテレビ・テレ朝系)が放送されたときにツイートが飛び交っていたことも、「いかに話題性が高く、それが1年間続いたか」を物語っている。
最大の立役者は脚本を担った三谷幸喜だろう。自他ともに認める“『大河ドラマ』マニア”だけに、『吾妻鏡』をベースにして史実を守りながら、その間をドラマティックかつ遊び心あふれる創作で埋めて視聴者を沸かせ続けた。
また、片岡愛之助、國村隼、佐藤浩市、菅田将暉、大泉洋、中村獅童、佐藤二朗、中川大志、横田栄司、金子大地、柿澤勇人、寛一郎らを次々に退場させる展開で中だるみのようなものは一切なし。温厚な田舎侍の北条義時(小栗旬)が、それらに立ち会い続けることでダークサイドに落ちていく様子を丹念に描き、壮絶なラストシーンにつなげた。
そんな義時の姉・北条政子(小池栄子)と妹・実衣(宮澤エマ)、妻の八重(新垣結衣)、比奈(堀田真由)、のえ(菊地凛子)、継母のりく(宮沢りえ)、静御前(石橋静河)、巴御前(秋元才加)など、女性たちのたくましい生き様を描いたのも三谷らしさか。「アサシン」こと善児(梶原善)の戦慄、三浦義村(山本耕史)の暗躍なども含め、「すべてあて書きではないか?」という声があがるほど俳優たちの魅力を引き出していた。
春からビートたけしの後任として『情報7daysニュースキャスター』(TBS系)に出演し、そこで翌日放送される『鎌倉殿の13人』を宣伝していたことも含め、至るところで三谷幸喜の存在を感じさせる一年だった。
「戦国と幕末ばかりに偏りがちな大河ドラマの可能性を広げた」ことを踏まえると、早くも4回目の大河ドラマ執筆に期待がかかる。ただ、2023年に初めて大河ドラマに挑む古沢良太の技術も高いだけに、『どうする家康』にも期待していいだろう。
■3位 2022年春、「各局でドラマ枠が急増」は驚きか必然か
2022年の春、「フジ、TBS、テレ東、NHKなどの各局がドラマ枠を増設する」という大きな動きがあった。
フジは水曜22時枠を新設し、第1弾に『ナンバMG5』を放送。TBSは火曜24時58分に深夜枠『ドラマストリーム』を新設し、第1弾に『村井の恋』を放送。テレ東は火曜24時30分の深夜枠を新設し、第1弾に『汝の名』、さらに日曜11時台にもグルメドラマ『よだれもん家族』を2クール放送。NHKは月曜から木曜の22時45分から帯ドラマ枠の『夜ドラ』を新設し、第1弾に『卒業タイムリミット』を放送した。
さらにBSでも、BS-TBSやBS松竹東急がドラマ枠を新設。「各局の視聴率が下がっているのに、なぜこんなにドラマが増えたのか?」という疑問の声があがっているが、各局にしてみれば「未来に向けた投資」という意味合いが強い。
そもそも視聴率が下がっているのはドラマだけでなく、ほぼすべての番組に該当すること。録画や配信での視聴が進み、ネットコンテンツが充実した今、視聴率の下落を止めるのは難しい。
しかし、配信再生数ランキングの上位を独占しているドラマは、配信収入を高める上でテレビ業界の最重要コンテンツであり、CM配信、海外配信、自局系動画配信サービスへの誘客、さらに深夜ドラマでも映画化して収益化できることも含めて期待値が高い。
特に配信再生数でトップを走るフジは3月に約6,500回に迫る見逃し配信数を記録し、前年比300%超の驚異的な増加率を見せていた。また、TBSは「コンテンツ制作力を前面に出したビジネススキームに変える」という企業戦略を明かしている。
スポンサーが求める若年層にリーチしやすいこと、若手クリエイターたちを発掘・育成することなどの理由も含め、まだまだドラマ枠が増える可能性はありそうだ。
■2位 朝ドラ「#ちむどんどん反省会」空前のアンチムーブメント
2022年に放送された朝ドラは、『カムカムエヴリバディ』『ちむどんどん』『舞いあがれ!』の3作。
『カムカムエヴリバディ』は、「3世代ヒロインの100年間を描く」という大胆なコンセプトと、終盤に「生き別れた母と娘が再会する」という劇的な展開で視聴者を熱狂させた。その反動もあって大苦戦したのが次の『ちむどんどん』。早くからネット上には、「#ちむどんどん反省会」というハッシュタグによる批判的なコメントが相次ぎ、回を追うごとにヒートアップしていった。
そもそも「#ちむどんどん反省会」は、「スタッフやキャストに反省を促す」という意味合いが強く、帯ドラマゆえに毎日書き込まれてしまうつらさがある。そのため「批判の枠を超えて脚本家や主演などへの誹謗中傷も飛び交う」などの危うい状況に陥ってしまった。
確かに『ちむどんどん』は、「主人公とその家族の言動が共感しづらい」「主人公の人生が多くの偶然によって好転していく」「料理がテーマの作品なのに食べ物の扱いが雑」「沖縄本土復帰50周年の作品なのに扱いが少ない」などのツッコミどころが目白押し。朝ドラへの期待値が上がっていることに加えて、生活に密着した帯ドラマだからこそ、フラストレーションを抱えやすいのだろう。
ちなみに、好意的につぶやく「#ちむどんどんする」というハッシュタグもあったが、こちらはあくまで少数派。さらに続く『舞いあがれ!』でも「#反省会」が現れたが、同時に「#賞賛会」「#共感会」というハッシュタグも立ち上がるなど、朝ドラへのつぶやきは賛否両方で混とんとしている。
これらのハッシュタグは、言わば『あさイチ』(NHK)で博多華丸・大吉や鈴木奈穂子アナが行っている“朝ドラ受け”の視聴者版のようなものだろう。しかし、明らかに批判のほうが多いだけに、今後もスタッフやキャストは「#反省会」の恐怖におびえる日々が続くのではないか。
■1位 『silent』1話600万回超の再生数で“ドラマ新時代”に突入へ
まさに「ドラマが新時代に突入した」と言い切れる結果だった。それまで配信再生数は2022年1月期放送の『ミステリと言う勿れ』で1話平均300万回台だったが、『silent』は1話平均約600万回を記録。ゴールデン・プライム帯で放送される他作は100万回~200万回がベースラインと言われるため、「いかに多かったか」がわかるのではないか。
これは単に「『silent』が素晴らしい作品だった」というだけではなく、「若年層が見ればこれくらいの数字は取れる」という証とも言える。スポンサーが求める若年層をつかめれば、CM配信での収入増につながるため、この結果がもたらす効果は大きい。
もちろん、リアルタイムで見る人や、録画して見る人もいて、こちらのほうがまだまだ多数派だが、今後は配信再生で「見たい時に見る」という人の割合がさらに増えていくだろう。
『silent』がここまで支持を集めた理由を簡単にあげていくと、「展開に頼らず心の動きを丁寧に描いた脚本」「実在する場所を美しい映像で撮った演出」「コメディや仕事シーンなどに逃げず恋愛のみを描いた潔さ」「ロケを積極的に行うなど労力を惜しまない制作姿勢」「若手の脚本家と演出家を起用したプロデュース」などがあげられる。
これまで視聴率ばかり報じていたネットメディアも、配信再生数を報じる記事を量産したことも画期的だった。まだまだ課題は多く、配信再生数が新しい指標として一般化するまで時間がかかるだろう。しかし、低視聴率報道ばかりで悔しい思いをしていた制作サイドにとってこの変化は貴重であり、今後のドラマ制作においてエネルギーとなるはずだ。
最後に、好き嫌いというより、“挑戦・差別化・希少価値”という観点で選んだ個人的な“2022年の年間TOP10”を選んでおきたい。
10位『エルピス -希望、あるいは災い-』(カンテレ・フジ系)
9位『ミステリと言う勿れ』(フジ系)
8位『舞いあがれ!』(NHK)
7位『メンタル強め美女白川さん』(テレ東系)
6位『silent』(フジ系)
5位『雪女と蟹を食う』(テレ東系)
4位『あなたのブツが、ここに』(NHK)
3位『ナンバMG5』(フジ系)
2位『おいハンサム!!』(東海テレビ・フジ系)
1位『鎌倉殿の13人』(NHK)
終わってみれば2022年のドラマ界も力作が多く、ここで挙げたものは一部にすぎない。未視聴のものは年末年始の休みを利用して動画配信サービスなどで視聴してみてはいかがだろうか。
最後に、ドラマ制作のみなさん、俳優のみなさん、今年も1年間おつかれさまでした。2023年も「多くの人々を楽しませる」「心から感動できる」ドラマをよろしくお願いいたします。