渡辺明棋王への挑戦権を争う第48期棋王戦コナミグループ杯(共同通信社と観戦記掲載の21新聞社、日本将棋連盟主催)は、挑戦者決定二番勝負の藤井聡太竜王―佐藤天彦九段戦が12月19日(月)に東京・将棋会館で行われました。対局の結果、79手で藤井竜王が勝って第2局に持ち込みました。

■クラシカルな横歩取り

敗者復活戦から勝ち上がってきた藤井竜王は、挑戦権獲得のためにこの二番勝負で2連勝が必要です。本局、振り駒で先手となった藤井竜王は佐藤九段の注文に応じて横歩取りの戦型を採用しました。横歩を取ったのち、藤井竜王は近年流行の青野流の構えを取ります。この作戦は横歩を取ったあとも先手の飛車が高い位置を保つことで、後手の攻め駒が前進するのを妨げるメリットがあります。

藤井竜王の作戦を見た後手の佐藤九段が自玉の囲いを優先したことで、本局は穏やかな駒組みに進展しました。盤上は横歩取りの持久戦に進行しており、これは一昔前まで盛んに指されていた△8五飛戦法のようなクラシカルな形にも似ています。駒組みが頂点に達したところで、後手の佐藤九段が合わせの歩を放って本格的な戦いが始まりました。佐藤九段としては飛車で横歩を取り返して局面をほぐしていく考えです。

■藤井竜王の臨機応変の対応

佐藤九段は続いて2筋に手筋の垂れ歩を放って攻めを継続しました。ややひねった攻め方ですが、先手がこれに素直に応じた場合、後手から角交換をして飛車銀両取りをかける狙いが生じます。定跡を外れた中盤の難所を前に、おたがいに30分以上の長考が続きます。やがて先手の藤井竜王は角道を止めて角交換を拒否する方針を採りました。この臨機応変の対応がうまく、後手の角を負担にさせることに成功した藤井竜王がペースをつかみました。

8筋に歩を打って首尾よく後手の飛車を追い返した藤井竜王は、続いて3筋の歩を突いて狙いの角頭攻めを開始します。黙っていては作戦負けと見た佐藤九段も強く6筋の歩を突いて攻め合いに出ますが、これに対して堂々と角取りに銀を出たのが藤井竜王の読みの深さを示す一手でした。後手の佐藤九段も角交換から先手陣に馬を作って好調に見えますが、そうではないことがここからの藤井竜王の指し手によって証明されることになります。

■驚異の玉さばきで藤井竜王が勝利

自陣に馬を作られた藤井竜王は、まず自陣の金を細かく動かして後手の馬の働きを弱めます。この代償として藤井玉は囲いの外に追い出されますが、それでも玉が右辺に逃げ出した形がなかなか寄らない好形であることを藤井竜王は読み切っていました。ひとたび攻めの手を休めると藤井竜王からの反撃が厳しいとわかっている佐藤九段も飛車を切って最後の猛攻に出ますが、今度は自玉を敵陣に向けて逃げ出したのが藤井竜王の面目躍如たる玉さばきでした。

自陣を離れて敵陣直前まで単独で逃げ出した藤井竜王の玉は、やがて最前線の攻め駒として後手陣への攻撃を開始します。玉を拠点に藤井竜王が銀取りの歩を打った形は、佐藤九段から見てすでに攻防ともに見込みなしの状態でした。終局時刻は19時10分、勝利した藤井竜王は挑戦権獲得の望みをつなぎました。

これで挑戦権の行方は第2局に委ねられました。勝った方が挑戦権を獲得します。注目の第2局は12月27日(火)に東京・将棋会館で行われます。

  • 薄い玉形での安定した指し回しは藤井竜王の代名詞のひとつ(写真は第35期竜王戦七番勝負第2局のもの 提供:日本将棋連盟)

    薄い玉形での安定した指し回しは藤井竜王の代名詞のひとつ(写真は第35期竜王戦七番勝負第2局のもの 提供:日本将棋連盟)