第36期竜王戦1組ランキング戦(主催:読売新聞社)は久保利明九段-山崎隆之八段戦が12月15日(木)に関西将棋会館で行われました。対局の結果、久保九段が165手で勝って2回戦進出を決めました。

山崎八段の独創的な序盤作戦

振り駒で先手となった久保九段は先手中飛車の作戦を選択。これに対し後手の山崎八段は玉を舟囲いの定位置に収めます。直後に左金をまっすぐ上がって玉を囲ったのが、山崎八段が序盤早々に見せた趣向でした。この手に対し、山崎八段の駒組みが持久戦には不向きになったと見た久保九段は角道を止めて臨機応変に対応します。

局面は振り飛車対居飛車の力戦に進展しています。やがて山崎八段は右銀を5筋に腰掛け、先に跳ねた右桂との連携で仕掛けを用意しました。これに対して久保九段は、6筋に振り直した飛車を軸に戦いに備えます。しばらく間合いの計り合いが続いたのち、久保九段が銀冠への組み換えを見せたタイミングで山崎八段が6筋の歩をぶつけたことで本格的な戦いが始まりました。

押さえ込みの振り飛車で久保九段がリード

山崎八段の仕掛けは自陣の堅さを背景に大駒の総交換を狙うものでしたが、これに対して角交換だけ許容して飛車交換は拒否したのが久保九段の編み出した柔軟な対応でした。このあたり、左銀を5七の地点に上がって右辺での押さえ込みを見せる指し回しは久保九段が修業時代に私淑したという大野源一九段の振り飛車を彷彿させるものでした。戦いが一段落した局面で後手の桂頭を攻めたのもうまく、まずは久保九段がペースをつかみました。

穏やかに指していてはジリ貧と見た山崎八段は、持ち駒の角を先手の銀と刺し違える勝負手を繰り出します。この代償に飛車を成り込んだのが主張で、局面は「久保九段の駒得対山崎八段の竜」という構図に持ち込まれました。ジリジリした中盤戦が続き、さらに山崎八段は自身の竜を馬との交換に持ち込む強硬策に出ます。久保九段の攻め駒をそっぽに追いやりつつ盤上にある小駒と持ち駒の角での攻めを間に合わせる構想です。

勝負手をかわして久保九段が攻め勝つ

攻めの要の竜を失った山崎八段は敵陣深くに作った馬を拠点に攻めを続けますが、久保九段も丁寧に受けて崩れません。山崎八段としては持ち駒の金を使って攻めを継続したいところですが、久保九段が金を入手すると山崎玉に対して尻金の王手が生じて一気に寄り形になってしまうため、山崎八段の攻めは大きな制約を受けていました。このことが本局の終盤戦におけるポイントになりました。

山崎八段が攻め手に困っているのを見越して、じっと香を取って手を渡したのが久保九段の実戦的な好手でした。手を渡された山崎八段は自陣に金を打って先述の尻金を防ぎましたが、こうなると戦力不足に陥った感があります。結果的に、ここでは自陣の銀を前進して自玉への攻めを緩和しつつ攻めに厚みを加える手が優りました。

山崎八段の戦力低下を見逃さなかった久保九段は、ここから怒涛の反撃に出ます。端攻めを起点に1筋を突破し、自陣で眠っていた飛車を敵陣に成り込んだところで形勢の針は大きく久保九段に傾きました。終局時刻は21時49分、最後まで攻め切った久保九段が勝利を手にしました。

勝った久保九段は次局で羽生善治九段―佐藤天彦九段戦の勝者と対戦します。

水留啓(将棋情報局)

  • 本戦進出に向けて好スタートを切った久保九段

    本戦進出に向けて好スタートを切った久保九段