大河ドラマ『鎌倉殿の13人』(NHK総合 毎週日曜20:00~ほか)で、これまで源頼朝(大泉洋)の下で葛藤してきた主人公・北条義時(小栗旬)。本作の脚本を手掛ける三谷幸喜氏は、主演を務める小栗について「年齢を重ねてからの義時の方が、より小栗さんの良さが出てくる」とさらなる期待を寄せる。

  • 『鎌倉殿の13人』北条義時役の小栗旬

■「僕がやってほしいと思ったことを的確に演じてくださる」

もともと三谷氏は「小栗旬さんという俳優さんの持っている力はいつも感じていました」とその才を称えていたが、映画監督・三谷幸喜としても、オールスターキャストが話題となった『ギャラクシー街道』(15)で小栗を演出した時に、確かな手応えを感じたそうだ。

「僕の書いた脚本で、僕がやってほしいと思ったことを的確に演じてくださいました。その時に小栗さんは、僕と共通言語を持っている人だと感じたんです」

三谷氏は、大河ドラマのように脚本にのみ携わる作品については、脚本家は現場に行かないほうがよいと考えているそうで、実際に小栗と会ったのも『鎌倉殿の13人』のキャストが決定し、関係者が集まった時と、その後、たまたま別件で居合わせた時のみだという。 「もちろんメールでのやりとりはなくもないんですが、義時役について語り合うことはないです」

『鎌倉殿の13人』の小栗について三谷氏は「やはり小栗さんの芝居を見ていると、僕がこうやってほしい、こういう言い方をしてほしいということを、きちんと受け取って演じてくださっているのがわかり、僕自身すごく満足しています」と手放しで絶賛。

加えて「これは僕の勝手な想いですが、『鎌倉殿の13人』は小栗さんの新しい代表作になるのではないかと思っています。前半も素晴らしかったですが、後半はますます小栗さんの良さが出てくると思うので、その確信は当たっているんじゃないかなと」と太鼓判を押す。

■その時々の登場人物の想いは「“見つけていく”というイメージ」

6月26日放送の第25回で、穏やかに運命を受け入れた頼朝が「人の命は定められたものじゃ。おびえて暮らすのは時の無駄じゃ」と本音を打ち明けた際に、義時が「鎌倉殿は、大事なことを私にだけ話してくれます」と誇らしく思うシーンが実に味わい深かった。まさに三谷氏の筆が走ったであろう名シーンだが、三谷氏はこのやりとりを描くにあたり「自分はあまり計算しないで書きました」と述懐。

「物語としての全体的なプロットは当然ありますが、その時々の登場人物の想いは、その瞬間瞬間で、自分が書いていくという感じではなく、どちらかといえば“見つけていく”というイメージです。だから共に義時の人生をたどり、頼朝が亡くなる時、果たして義時はどんな想いでいたのかということを、自分なりに義時として振り返っていくんです」と、最初から物語を決め込まずに、自身も心を動かされつつ、かなり流動的に書いていくことを明かした。

「義時は頼朝から教わったことがたくさんあります。良いことも悪いことも含め、人の上に立ち、政(まつりごと)をするうえで大事なことは、当然、頼朝からすごく影響を受けていることに改めて気づく。だから、その思いを台詞にした感じです。つまり、義時があの時、頼朝に対して『大事なことを私にだけ話してくれます』と言ったのは、僕のなかの義時がそのことを思い出したから。僕が書きながらこれまでの2人の主従関係を振り返り、そう思ったので書きました。義時が今後どうなっていくかは、あのシーンを書いた時点で僕もわかってなかったので、そこは書いていて不思議です」

三谷氏といえば、これまでに『新選組!』(04)、『真田丸』(16)と2本の大河ドラマも手掛けてきたが「今回、『鎌倉殿の13人』の脚本を書いていて思ったのは、戦国時代や幕末とは全く違う世界だということです」と語る。

「一番大きいのは、物語における神話性でしょうか。あの時代の人たちはとても神様を身近に感じていました。頼朝もとても信仰が厚かったし、実際に神頼みや予言、呪い、夢のお告げなどにすごく縛られた人だったかなと。そこが脚本を書いていてとても面白い点です。ある意味、何でもありではあるのですが、人間本来のものをストレートに表現できる気がします。そのなかで、北条義時は最もドライで現実的な登場人物なのかなと。混沌としたなかで、1人だけリアリストがいた! みたいなイメージです。だから義時を主人公にしたのは正解だったなと思います」

頼朝亡きあと、義時が姉の北条政子(小池栄子)や父の時政(坂東彌十郎)と共に、鎌倉幕府をどう支えていくのか? 確かに、義時が執権としての手腕を発揮していくのはこれからだし、演じる小栗にとってもここからが本領発揮となりそうだ。

■三谷幸喜
1961年7月8日生まれ、東京都出身の脚本家。1983年に劇団東京サンシャインボーイズを結成し、多くの舞台を手掛ける。1993年に『振り返れば奴がいる』で連続テレビドラマの脚本家としてデビュー。1994年にドラマ『古畑任三郎』シリーズで人気脚本家としての地位を確立。1997年には映画『ラヂオの時間』で映画監督デビューし、『THE 有頂天ホテル』(06)、『ザ・マジックアワー』(08)、『ステキな金縛り』(11)などを手掛けていく。映画監督作の近作は『記憶にございません!』(19)。大河ドラマの脚本は『新選組!』(04)、『真田丸』(16)に続き3本目となる。また、大河ドラマ『功名が辻』(06)、『いだてん~東京オリムピック噺~』(19)には役者として出演した。

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