小栗旬が北条義時役で主演を務める大河ドラマ『鎌倉殿の13人』(NHK総合 毎週日曜20:00~ほか)の第26回(3日放送)で、大泉洋演じる源頼朝が亡くなった。前回の終盤で落馬シーンが描かれ、一命をとりとめた頼朝だったが、妻・政子(小池栄子)に看取られて天国に旅立った。頼朝を演じ切った大泉が、三谷幸喜氏が手がける脚本の魅力や、頼朝役への思いを語った。

  • 『鎌倉殿の13人』源頼朝役の大泉洋

――今作に出演されて、改めて三谷作品の面白さをどういうところに感じていますか。

毎回すばらしいんですけど、こんなことを言うと失礼かも知れませんが、三谷さんの円熟期の、集大成のような大河ドラマなのかなという気がします。海外のドラマなんかを見てると、やっぱりすごいじゃないですか。本当に面白いし、すごく重厚なものが多くて、どうしてもそこと比べてしまうと日本のテレビドラマというのはどこか成熟していないような気持ちがあって、「海外ドラマってすごいな」と思っていました。でも今回の『鎌倉殿の13人』って初めて、本当に「日本にもこんなにすごいドラマがあるんだ!」って自慢したくなるような。 僕は全部の大河ドラマを見てるわけじゃないし、全部のテレビドラマを見てるわけじゃないから、あくまで僕の個人的な感想だけど、そう思えるようなドラマですよね。三谷さんが書いているので、単純な面白さ、笑いの要素もあるんだけど、笑いから“どシリアス”への振り幅がすごくて。よくファンの皆さんが「風邪引きそうだ」とか言っていますが、本当にそんな感じですよね。笑ってたところからこんなシリアスになっちゃうんだ、とかね。

僕なんか今でも第15回、もう本当にあれで日本中から嫌われましたけれども(笑)。やっぱりあんなにおもしろい回はないなと思いましたね。あのときも三谷さんからメールが来て「案の定、日本中を敵に回しましたね」ってひとこと目に書いてあって、最後に「でも僕は大好きです」って書いてあって(笑)。あきらかに面白がってますよね(笑)

――愛がありますね(笑)

三谷さんの歪んだ愛が私をいつも襲ってます(笑)

――そんな頼朝ですが、完全な悪ではない部分があると思います。演じる上で「これだけは忘れずにいよう」と心がけたことはありますか。

自分が演じる役ですから、皆さんが言うほど僕は嫌いじゃないです。彼がやってることはとても正しいというか。でも演じる上では、どこか孤独な人というか、ちょっと生い立ちが不幸だったなと思いますね。子どもの頃に家族を殺されて伊豆に流されてしまい、人をなかなか信用できないところがあるんだろうなと思う。頼朝なりの愛情はいろんな人にあったとは思うんです。政子や子供たちだったり、義時や義経だったりへの愛情はもちろんある。ただ彼にとって一番大事なことって、自分のことや、自分の一族のことなんですよね。全ては自分の、源氏の一族が末代まで繁栄できるようにということしか考えていないんだと思うんです。もちろん兄弟は大事なんだけど、自分に取って代わる可能性が一番あるのも兄弟だったんですよね、あの時代は。だからやっぱり義経にしても、範頼にしても、排除せざるを得ない。そこがまた彼が孤独で人を信じ切れない人だからこそなんでしょうけど。ただ、あの時代を見ると、兄弟を排除する、親を排除するというのが実はものすごく多いわけです。今回はそこが見事に描かれちゃってるから、頼朝さんはどうしても嫌われちゃうんだけど、「そんなのみんなそうじゃないか!」と私は思ったりもするんですけど(笑)

――その孤独な頼朝が、義時については、どうして信頼に値すると思っていたんでしょうか。

頼朝は、直感的な判断で人を見ていたと思うんですよね。義時についてはもう会った途端から好きというか。小栗(旬)くんが演じている義時という人は、まじめだし、野心がない。そういうところを見ていたんじゃないですかね。結局義時は頼朝についていって、頼朝をずっと見てどんどん変わっていってしまうわけですよね。そこもまた「大泉のせい」って言われちゃんだろうな(笑)

――頼朝から見ても、義時は「自分に似てきたな」と思うことはあったのでしょうか。

顕著になるのは頼朝が亡くなってからだとは思います。曽我兄弟の仇討ちの収め方とかも、義時ならではというか。そういう、とっても賢い人だっていうのを、頼朝は見抜いていたんじゃないですかね。でも「自分に似てきてるな」と思っていたかと言われると、僕はそう思って演じてはいなかった。この『鎌倉殿の13人』って頼朝が死んでからが大事なお話というか。頼家の時代になってからが本番になる。だから当初、小栗くんとはLINEでよく「早く大泉死んでくれないと困る」とか「三谷さん頼朝を描きすぎた」とか言ってたんだけど、最近、僕が死んでからは相当厳しい決断が続いているらしくて、「いやぁ、頼朝さんは死ぬのが早すぎた」って手のひらを返された(笑)。頼朝がやっていた厳しい決断を、今度は自分で下してるんだろうなと想像しているんだけど。

■「なぜ三谷さんはここまで頼朝をダメに描くんだろう」

――さきほど自分と、自分の一族のことだけ考えているとおっしゃっていましたが、頼朝から見た頼家のかわいさはどんなところでしたか?

実は頼家とのシーンは少なかったんだけど、「金子大地が演じているんだからかわいい」としか言いようがないんじゃないかな(笑)。同じ北海道出身ですし。頼家は巻狩りで獲物がとれなくてね。こっちが用意した動かない鹿ですら当たらないんだけど、それでも「いつか必ず自分で獲れるようになる」っていうところとかね、一生懸命でいいですよね。でもあのとき、「頼朝が死んだかもしれない」となってからの差配は的確でしたよね。やっぱり自分は甘やかしちゃったんだろうなと思いますね。まだ頼家が万寿だったころ、万寿と金剛が顔を合わせたとき(第21回)からもうひどかったですもんね。頼朝が「万寿、金剛を大事にせよ」とか言っても思いっきり無視して「母上、庭で遊んで来てもいいですか」って、全然話聞いてないなって(笑)。口のきき方なども含めて、甘やかしてしまったんだなと。

――第25回では頼家も妻と子がいながら別の女性を妻にしようとするシーンがありました。

女好きは思いっきり継いでますよね。それを「女好きは我が嫡男の証だ」なんて、あれはバカなシーンでしたね。「頼もしいぞ」とか言って、バカだなと(笑)。なぜ三谷さんはここまで頼朝をダメに描くんだろう。厳しい決断を政治家として下していくのはいい。だけど本当に幸せそうな八重に向かって昔の話をさんざんする、あのシーン(前出・第21回)は大変でした(笑)。こんなところまで(器の)小ささを表現するのかと。ドラマ本編が43分しかない中で、ここにその尺割きます? っていう。だったらもっと他の人描いた方がいいのではと。聞いちゃったもん、「(頼朝は)なんでこんなこと言うんですか?」って。「いや、単純に腹が立っただけ。幸せな八重を見てイラッとしたんじゃない?」だって。理解できなかったです(笑)