小栗旬主演の大河ドラマ『鎌倉殿の13人』(NHK総合 毎週日曜20:00~ほか)の脚本を手掛ける三谷幸喜氏。「古畑任三郎」シリーズに代表される数多くの人気コメディで知られる売れっ子で、大河ドラマを手掛けるのは『新選組!』(04)、『真田丸』(16)に続いて3本目となるが、脚本のみに携わる作品においては、現場に足を運ばないと言う。「俳優とは一定の距離を保つようにしている」という三谷氏の真意とは?

大河ドラマ『鎌倉殿の13人』の脚本を手掛ける三谷幸喜氏

平安末期から鎌倉前期において、源平合戦や鎌倉幕府誕生に至るまでの権力争いを、勝利者・北条得宗家の祖となった北条義時を主人公に描く『鎌倉殿の13人』。義時役の小栗をはじめ、源頼朝役の大泉洋、妻・北条政子役の小池栄子ら役者陣のアンサンブル演技はもちろん、『吾妻鏡』をベースにしつつ、その余白を三谷氏ならではの巧みなストーリーテリングで描いた本作は、多くの視聴者をうならせている。

三谷氏は、小栗らキャストが自分の想像の域を超えるような演技で見せてくれたことに対して、感謝の言葉を口にしているが、そのことを現場で直接、キャストに伝えることはないそうだ。

そもそも「自分が演出する場合は別ですが、脚本のみで参加する場合は、現場に行かないです。というか、行かない脚本家の方が多いんじゃないかなと」と明かす。

「なぜかと言うと、自分で言うのもなんですが、脚本家は物語を最初に作った人間なので、自分の中に、その物語の正解を持っている。ある意味、神様みたいなものだから、そんな人間が現場に行ってしまうと、僕の発言が正解として捉えられてしまう。そうなると、それを作っている皆さんがやりにくいでしょう。やはりドラマは、みなさんが現場でいろいろと試行錯誤しながら作っていくからこそ、面白いものができると思うので、全能の神みたいなやつが、現場に行ってはいけない気がするんです」

そこは、三谷氏の脚本家としての流儀のようで、役者、スタッフとのコラボレーションを大切にしたいという思いあってこそのポリシーのようだ。

さらに三谷氏は「俳優さんとは、なるべく距離を置くようにしています。今回打ち上げがあるかどうかはわかりませんが、あったとしても僕はたぶん出ないですし、『真田丸』の時もそうでした」と述懐。

主演の小栗とも、三谷氏が監督を務めた映画『ギャラクシー街道』(15)での演出時と、『鎌倉殿の13人』の主演が決定した時と、たまたま観劇の際に居合わせた時に会っただけだそうで「メールのやりとりがなくはないんですが、役について語り合うことはないです」とのこと。大泉と会ったのも昨年の紅白歌合戦が最後で、大泉が司会、三谷氏が審査員として言葉を交わしたが、それ以降は会ってないそうだ。

三谷氏といえば、『THE 有頂天ホテル』(06)や『ザ・マジックアワー』(08)、『ステキな金縛り』(11)、近年では『記憶にございません!』(19)など、映画監督としても知られているが、もちろんその場合は、また別の話である。

「自分が演出するような仕事の時は、積極的にコミュニケーションを取らないとやっていけない部分もあるので、そこはもちろん、密に連絡を取りあったりします。また、そういう流れで『今回またよろしくおねがいします』と言った挨拶をすることもありますが、撮影が始まってからは、クランクアップするまでその俳優さんと1回も会わなかったこともありますね」

とはいえ、義時役の小栗について「小栗さんの芝居を見てると、僕がこうやってほしい、こういう言い方をしてほしいということをきちんと受け取ってくださって、演じていただいているので、僕はすごく満足しています」と述べ、頼朝役の大泉についても「孤独さを含め、こんなにリアルな頼朝を演じられる俳優さんが他にいただろうかと」と心から絶賛している。

加えて、吉田照幸氏らの演出についても「予想を超えてきた」と、自身の琴線に触れたシーンについては感謝の言葉を口にする。やはり名脚本家にして名演出家でもある三谷氏だからこそ、コラボレーションの大切さを熟知しているのだと大いに納得。そして、今後もまた生まれるであろう、名シーンを心待ちにしたい。

  • (C)NHK

■三谷幸喜
1961年7月8日生まれ、東京都出身の脚本家。1983年に劇団東京サンシャインボーイズを結成し、多くの舞台を手掛ける。1993年に『振り返れば奴がいる』で連続テレビドラマの脚本家としてデビュー。1994年にドラマ『古畑任三郎』シリーズで人気脚本家としての地位を確立。1997年には映画『ラヂオの時間』で映画監督デビューし、『THE 有頂天ホテル』(06)、『ザ・マジックアワー』(08)、『ステキな金縛り』(11)などを手掛けていく。映画監督作の近作は『記憶にございません!』(19)。大河ドラマの脚本は『新選組!』(04)、『真田丸』(16)に続き3本目となる。また、大河ドラマ『功名が辻』(06)、『いだてん~東京オリムピック噺~』(19)には役者として出演した。