JR四国の特急形気動車キハ185系を改造し、3両編成となった2代目「伊予灘ものがたり」が4月2日にデビューを迎える。これに先立ち、3月末に報道関係者向けの特別試乗会が行われた。八幡浜発松山行「道後編」に乗車し、新車両の魅力を満喫した。

  • 下灘駅に停車中の2代目「伊予灘ものがたり」。4月2日から運行開始する

「伊予灘ものがたり」は2014年、JR四国の本格的な観光列車として運行開始。愛ある伊予灘線(予讃線)経由で松山~伊予大洲・八幡浜間を往復し、美しい瀬戸内海の景色などを楽しめる列車として人気がある。

初代「伊予灘ものがたり」はキハ47形を改造した2両編成で、快速列車として昨年12月まで運行された。2代目「伊予灘ものがたり」は、「レトロモダンな車内で大切な人と過ごす、上質な非日常空間」というコンセプトの下、キハ185系を改造。初代からのイメージを引き継ぎつつ、車内設備等をブラッシュアップした。

1号車「茜の章」、2号車「黄金の章」は全車指定席のグリーン車に。初代車両の車内レイアウトを継承しつつ、座席を大型化している。新設の3号車「陽華(はるか)の章」は、2~8名で利用可能なグリーン個室「Fibre Suite(フィオーレスイート)」を備え、1両まるごと貸し切るシステムとなった。

新車両による運行開始にともない、「伊予灘ものがたり」は快速列車から特急列車となる。松山発伊予大洲行「大洲編」、伊予大洲発松山行「双海編」、松山発八幡浜行「八幡浜編」、八幡浜発松山行「道後編」の1日4便を運行予定としており、それぞれのコースで提供される食事サービスが異なる。

  • 「道後編」の先頭車は3号車「陽華の章」。店員8名のグリーン個室を備える

  • 2号車「黄金の章」。かつて「アイランドエクスプレス四国 II」で活躍した車両

  • 2代目「伊予灘ものがたり」の1号車「茜の章」

  • 出入口付近にシートが敷かれてある

  • ホームに大漁旗がはためき、JR四国社員による見送りも

  • 沿線住民らによる歓迎も「伊予灘ものがたり」の魅力

今回試乗した「道後編」の始発駅は八幡浜駅。松山駅から特急「宇和海」で約50分のところにある。ホームは2面3線で、「伊予灘ものがたり」の旅を楽しんでもらおうと、地元の大漁旗や同車のポスターなどが飾られていた。15時50分、テーマ曲が流れる中、新車両となった「伊予灘ものがたり」が入線。国鉄時代末期に登場したキハ185系の改造ということもあり、キハ47形改造の初代車両と比べて端正に映る。

車体側面を観察すると、2号車「黄金の章」の窓割りが1号車「茜の章」と異なることに気づく。中間車の2号車は、1999(平成11)年にジョイフルトレイン「アイランドエクスプレス四国 II」(キロ186-8)へ改造された経歴を持つ。鉄道ファンの目線に立つと、ジョイフルトレインから観光列車への改造は実に興味深い。

16時14分、「伊予灘ものがたり」は八幡浜駅を発車。ホームからJR四国の社員らが見送る。新車両による列車旅への期待に胸が高鳴った。

  • 1号車「茜の章」の基本的な車内レイアウトは初代車両を継承している。座席は大型化され、眺望もよくなった

筆者は1号車「茜の章」の窓に沿った海向きの座席に座った。初代車両よりもゆったりと座ることができ、ソファに近い感覚がある。窓が大きくなり、眺望も良くなった。進行方向右側にあたる山側の座席の窓は桟がなくなり、眺望性が大きく向上している。車端部には、運転台からの前面展望を映したモニターが設置された。

3号車「陽華の章」は、乗客が利用するラグジュアリールームとギャレーで構成される。2名以上、最大8名まで利用可能とされ、家族での祝い事などでの利用を想定しているという。ラグジュアリールームは円卓テーブルを半円にしたようなレイアウトで、ゆったりとしたソファで語らえる。1987(昭和62)年の民営化以降、JR各社で個室付きの車両が登場したが、1室あたり定員8名の個室は珍しいといえるだろう。

八幡浜駅を発車した列車は、隣駅の千丈駅を通過。その後、車窓に映る美しい桜並木が目に飛び込んできた。ここで徐行運転となり、満開の桜を楽しめる。桜のシーズンには徐行運転を行い、眺望サービスに努めるという。一方で、大洲市北只と八幡浜市保内町喜木を結ぶ地域高規格道路「大洲・八幡浜自動車道」と思われる建設現場も目にした。道路整備によってスピード競争が激化する将来を見据え、観光列車による鉄道の魅力を高める施策は重要といえる。

「伊予灘ものがたり」は国の重要文化財である大洲城を過ぎ、16時35分頃、伊予大洲駅に到着した。ここで特急「宇和海」が走行する内子線経由のルートと、「伊予灘ものがたり」が走行する愛ある伊予灘線に分かれる。愛ある伊予灘線はかつて、松山~宇和島間を結ぶ列車のメインルートだったが、1986(昭和61)年に内子線経由のルートが開業したことにより、現在は「伊予灘ものがたり」を除いて普通列車のみ運行されるルートとなっている。

  • 沿線では桜が見頃を迎えていた

  • 「伊予灘ものがたり」では食事サービスが提供される

  • 食事用の容器に砥部焼を使用。それぞれデザインが異なる

  • 「道後編」ではアフタヌーンティーを楽しめる

  • 3号車「陽華の章」のグリーン個室「Fibre Suite(フィオーレスイート)」

  • 洗面台にも砥部焼が使用されている

ところで、「伊予灘ものがたり」で忘れてはならないのが食事のサービス。「道後編」では、愛媛県産をふんだんに使ったアフタヌーンティーセット「伊予灘の菓織箱(かおりばこ)」が提供される。カーネーションチキンサンドやチーズケーキなどを用意し、見た目にも華やかな内容。上品ながら濃厚な味わいで、紅茶との組み合わせが絶妙だった。「アフタヌーンティー」とあるが、ボリュームがあるため、事前の昼食は軽めに済ませておくといいだろう。容器は砥部焼で、ひとつずつ柄が異なる芸の細かさにも注目したい。

17時27分、「道後編」のハイライトともいえる下灘駅に到着。5分ほど停車し、沿線住民らの歓待を受けた。下灘駅はドラマのロケ地や「青春18きっぷ」ポスターの撮影などでたびたび使用され、全国的に知られる駅となった。ホームから瀬戸内海に沈む夕日を眺めることができ、「伊予灘ものがたり」の旅を印象深いものにする。

  • 喜多灘駅に臨時停車。瀬戸内海と桜を楽しむ

  • 下灘駅に停車。どこかノスタルジックな雰囲気

  • 松山駅に到着。アテンダントによる丁寧なサービスも魅力

車内に戻ると、衛生面などに配慮し、カップや容器に和紙が敷かれていた。このような細かな配慮もうれしい。列車は伊予市駅から先、定期特急列車時代をほうふつとさせる走りっぷりに。18時20分頃、ほぼ定刻に松山駅に到着した。

松山駅では、「伊予灘ものがたり」から岡山行の特急列車「しおかぜ30号」(松山駅18時39分発)へ乗換え可能。同列車は松山駅から岡山方面へ直行する最後の列車となっている。なお、「伊予灘ものがたり」の始発駅となる八幡浜駅では、特急列車の下り「宇和海19号」(八幡浜駅16時13分着)から「伊予灘ものがたり」の「道後編」(八幡浜駅16時14分発)には乗り継げないとのことなので、注意してほしい。

2代目「伊予灘ものがたり」は、初代「伊予灘ものがたり」の良さを引き継ぎ、さらに魅力を増した車両といえる。沿線住民らによる心温まる歓迎ぶりも印象に残った。地方の幹線やローカル線の活性化が全国的な問題となる中、「伊予灘ものがたり」はなにかしらのヒントをもたらす存在になるのではないかと思う。